#14 『霧』の魔女①
「霧が濃くなってきやがった、前が見えねえ」
次の村、地図を見る限りでは最も近いのはゴーフ村という村だ。
そこへ向けて歩いていると、辺りはいつの間にか霧に包まれていた。
その霧は進めば進むほど濃く、深くなって行き、気付けば足元すら見えなくなっていた。
「こういう時にこそ、わたしの出番だわ」
そう言って、エルは『光源』の魔法を使う。
淡い魔法の光を放つと同時に、杖の先からいくつかの眩い光の玉が生み出され、辺りの空間をふわふわと彷徨い始めた。
「そういやそうだ、すっかり忘れてた。折角高え本買って覚えたんだ、じゃんじゃん使っていかないとな」
王都の店で買った魔導書はアルバスの想像していた値段よりも遥かに高価な物で、魔導書一冊と魔石数個を合わせてアルバスの装備一式分と同じくらいだった。
「良いじゃない、役に立ってるんだから、必要経費よ。それに、そう言うアルの方が無駄遣いしてないかしら? こっそりお酒と煙草を買ってるの、見てたわよ?」
「あれは良いんだよ。稼いだ金はその土地で使っちまうってのが俺ルールなんだ」
「じゃあ、わたしの魔導書だって良いじゃないの」
「別に、駄目とは一言も言ってないだろ?」
なんていつもの軽口を交わしつつ、『光源』を頼りに霧の中を歩いていると、『光源』の灯りに照らされた、おそらく村の入り口と思われる、木製のゲートが見えて来た。
「お、あれ村じゃないか? 良かったな、迷子になって野宿しなくて済みそうだぞ」
近づいてみると、村の入り口にある看板が目に付く。
そこには“ゴーフ村”と書かれていた。
地図で見た一番近くの村の名前と一致する。
どうやら道を間違えてはいなかったらしい。
ゲートを潜り中まで入る。
すると、思いもよらぬ光景が目に入る。
「おいおい、こりゃどういう事だ」
村の中は晴天。先程までの濃霧に覆われた景色とは一変し、雲一つ掛かっていない。
振り返ってゲートの方を見て見ると、やはりその奥は濃霧に包まれている。
外と内が隔絶された異質な空間。
「あら、いい天気ね」
「いやそうだけど、そうじゃないだろ」
「分かってるわ、冗談よ。でも、ほら」
そう言われて、エルの指差す方を見ると、村の住民たちの様子が目に入る。
それにアルバスはどこか違和感を覚えた。
アルバスたちが今までに巡って来た村々は、王都の様に富の集まる国とは違い、どこも魔王の侵略による煽りを受けて、貧しい土地が多かった。
しかし、ここの住民たちはどこか明るく、活力を感じる様だった。
「こんなご時勢でも、幸せそうで良いじゃない」
「そういう問題か……?」
この状況に狼狽えるアルバスに対して、エルはなんとも呑気なものだ。
そんな話をしていると、住民たちの内の一人、初老の男性が話しかけて来た。
「ようこそ、旅のお方」
「ああ、どうも。良い村ですね」
アルバスは一度咳払いをし、なるべく取り繕い、言葉を返す。
「ええ、そうでしょう。あなた方もこの村を訪れるとは、運が良かったですなあ」
「運が良かった、とは、どういう事ですか?」
「この村は魔女様が結界を張り守って下さっているので、見ての通り魔獣の被害を受けていないのですよ。良ければゆっくり休んで、旅の疲れを癒して行って下さいな」
「ほう。魔女様、ですか。是非お会いしてみたいものですね」
外行きのアルバスの口調に、エルは隣でそれを物珍しそうにしている。
「ええ。魔女様は村の外れにある教会に居られますよ」
「アル、行ってみましょう。わたしも、同じ魔女として少し気になるもの」
魔獣の侵入を防ぐ程の結界を、しかも村一つを覆う規模で張るだなんて話、聞いたことも無い。
アルバスたちはその魔女様に興味が湧いた。
「おお、お連れの方も魔女様でしたか。でしたら是非、お会いになって行ってくださいな。きっと『霧』の魔女様も喜ばれますよ」
そんな話を聞いた二人は、その“魔女様”に会ってみる為に、教会を訪れる事にした。
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