親友の夢

 また、あの夢を見てしまった。

 私は大きく息を吐いて、ベッドの上で頭を抱える。

 また、あの夢を見てしまったのだ。

 小学生の時に大好きだった親友を、押し倒し、洋服をはぎ取り。

 水泳教室の時に見ていた、ぺったんこの可愛い胸を舐めるという。

 欲求不満なんだろうか。

 欲求不満なんだろうな。

 私は頭を抱えたまま、唸り声をあげる。

 場所が場所だけに、どうにもならん。

 現在、私は、手術を受けるために入院中なのだ。

 性別変更の類ではなくて、ただの良性腫瘍摘出って奴だ。



 手術も終わり、あと2日で退院の朝。

 大部屋の隅、看護師が気にしなくてもいい患者としてあてがわれた、窓際。

 さわやかな空気が嫌みのように、ふいてくる。

 私の絶望なぞ知らず、世間はさわやかに良い天気だ。

 点滴も取れて自由に動き回れる身分なので、地下の購買へと階段を使って降りていく。

 行き過ぎて飽き飽きだが、何せ古い県立の病院なのだ。コンビニすらない。

 新しく立てている新館が、階段の窓から見える。

 手術したところがひきつるように痛いので、ゆっくりと歩く。

 とにかく、退院して1週間で職場復帰だ。

 動いて回復を図らねばならん。

 それと。

 病室にいれば、当然のごとく看護師さんがうろうろしているので、目の毒だ。

 そりゃあ、看護師さんコスのエロ動画は好きだけど、こんな真面目に働いている人をエロい目でみるのは、失礼だろう。けど、目の毒なんだよ、マジで。

 ふと、過る、夢の画像。

 打ち消したいけど、焼き付いて離れない。

 実際に、親友にそんなことをしたことはない。

 親友とは、今もちゃんと親友で、今は他県にいるけど、半年前に出産祝いをちゃんと贈った。

 人生初の巨乳だと、LINEで送ってきた。

 バカ野郎。お前はつるぺたの幼児体型がいいんじゃねぇか、と返せば、ふざけるなと笑いスタンプ付きでおくられてくる。まあ、そうだ。こんなのは笑い話にするのが、一番いい。

 でも、私の中では、お前は水泳教室で私の前で着替える、小学生のままなんだ。

 あの当時は、何もわからず、ドキドキと早鐘を打つ心臓の音だけを聞いていた。

 今ならきっと、キスして押し倒して、足を掴んで、その柔らかなヴァギナに食らいつくのに。


「大丈夫ですか?」


 落ち込んでいると、看護師さんが話しかけてくる。

 可愛い。好みだ。押し倒したい。

「大丈夫です」

 そんなわけにもいかないので、笑って答える。

 ああ、早く退院して、エロ動画を見て、ひとりでむなしく慰めたい。

 そう思えば、LINEが鳴る。

 みれば、親友からだ。


”退院の日、ドライバーするよ”


 バカ野郎、襲われてぇのか。

 そんな度胸はもちろんなく、半年ぶりに会えるのが嬉しいという気持ちの方が勝っていた。

 よかった。私はまだ、常識人でいられるらしい。


”おねがいします <(_ _)>”


 生殺しの関係。でも嫌いじゃない。

 自分にMっ気があるのを、感謝する。





2021.3.24

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