2000文字以下の日常の風景
眼鏡のれんず
携帯メール
メールが来た。
夜中の3時半に、君から。
寝ぼけながら、携帯電話を握り、受診箱を見て凍りつく。
だって、君の名前を見るのは、二年ぶり。
手が震える。
思考が止まる。
たっぷり五分、携帯電話とにらめっこをして、メールを開く。
ねえ、その時の心情、君に分かるかな。
無題のメールには、一言だけ。
『結婚したよ』
それだけだった。添付もなし。相手の名前もない。
ねえ、これが二年前の君からの復讐だとしたら、かなり痛恨だったんだよ。
そのメールをみてから、一睡もできなかったから。
寝不足で霞みかかった頭のまま、娘を保育所へと送り届けた。
「ママ、いってらっしゃい」
無邪気に笑う、娘の顔が君とダブったのは、気のせいだ。
結婚したんだ。
結婚したんだ。
メールの言葉が、ぐるぐると回る。
いや、君を責める資格なんて、ないんだけど。
でも、やっぱりショックだったのは、こっちの身勝手さか。
先に結婚したのはこっちなのに。
先に君を突き放したのは、こっちなのに。
でも、だけど。
ドコかで思い込んでいたのだろう、君は結婚する筈がない、と。
寝不足の頭に、言葉がぐるぐる。
不意に、思い出す、君の最後の言葉。
唇を歪めながら、こっちが謝るのを無視して、君は駅のホームで叫んだよね。
「絶対に、許さない」て。
気がつくと、べったりとアクセルを踏み込んでいた。
迫る信号は黄色から赤へと変わる。
ペダルを踏み返るのと、信号が頭上を通り過ぎるのは同時のこと。
視界を大きく塞ぐのは、緑色のダンプカー。
ねえ、君は今、復讐を果せたと喜んでくれている?
(2010.8.28pixiv掲載)
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