第30話 動乱の渦中で
──【盾戦士】レンヤ──
「陣形を崩すなよ、とにかく今は奴を好きに暴れさせるな!」
ボーンドラゴンとの戦闘を開始してから、体感で10分は経過した。周囲に人影はなくなったように見えるが、王城の方から続々と人が流れてきやがるものだから中々包囲陣系を崩せねぇ。
こんなところを通ろうとするなと言いてぇところではあるんだが、どうやら他の道も同じようなモンスターが封鎖しているらしい。まさしく王都動乱ってことか。
「どうするレンヤ、このまま避難が完了するまで待ってたらこっちが先に崩れるぞ」
「分かってる、だが……」
くそっ。俺はこういう突発的な判断は弱いんだよ。
なし崩し的にリーダーのような立ち回りを要求されているが、こういう時ばかりは誰かに変わってほしいもんだ。
「WOOOOOOO!!」
「っ!それはやべぇだろうが!」
「レンヤさん!」
「分かってるよ、お前らも来い!」
あれはブレスの予備動作。こんな場所でブレスなんてまともに放たれちまったら、周囲にどんな被害が及ぶかわからん。
俺を筆頭としたタンクプレイヤー達を動かし、ボーンドラゴンの目前に盾を構える。危険な行為ではあるが、これは逆にチャンスでもある。
賭けに出るなら今しかねぇ。
「良いか、アイツのブレスは地面を抉るくらい角度が低い。だから絶対に腰を浮かすなよ。一瞬で体ごともってかれるぞ」
「うっす!」
「ブレスの後は攻撃チャンスだ!後ろのお前らは攻撃準備だ!」
「「了解!!」」
ボーンドラゴンのブレスは、自身の骨を削り取ってそれを吐き出すっつぅ中々にワイルドな技だ。
その分威力は半端じゃねぇが弱点があり、撃った後は一定時間HPが減少する。現象したHPが元に戻る前に奴を倒しきれれば、こちらの勝ちってわけだ。
「WOOOOOO!!」
「気合入れろおおおおおお!」
地面を抉り、瓦礫を巻き込んだ骨のブレスの威力は骨将軍の『武神乱撃』を超える。全体攻撃ってわけじゃあねえから火力職は躱せばいいだけだが、今のように護るものがある状況だと、タンクの負担は大きい。
「ぐおおおおおおおお!!」
「耐えきれえええええ!!」
くっ……衝撃がでけぇ。腕じゃなくて全身が悲鳴を上げているのが分かる。この世界じゃ俺達プレイヤーはほとんど痛みを感じないはずなんだがな。
そして薄々感じていたがコイツ、以前俺が戦った個体よりも遥かに強い。確かにグラマギは同じ種族でもある程度の個体差は存在しているものだが、こいつはその範疇から逸脱している気がする。
以前の奴が特別弱かったのか、それともこいつが特別強いのか……それは分からねぇが、そのせいで予想以上時間がかかっちまっている。
これ以上時間を浪費しているわけにはいかねぇ。
「た、耐えきったのか……?」
「今だ、タンク以外は責めたてろ!」
後ろの奴らが、待ってましたとばかりにボーンドラゴンを崩しにかかる。街中ではあるが、ボーンドラゴンが暴れに暴れたせいで建物はボロボロ、魔術師も周囲の被害を気にする必要はない。
「やっぱアンデッドには炎だろうが!『ブラスト・ボール』」
「その前に叩き砕いてやるよ!『
俺達ベータ出身者は最後の苦い経験から、あの骨将軍を意識した装備やステータスビルドをしているものも多い。
通常なら突発的な戦闘だと苦しい状況になるだろうボーンドラゴン相手にも、五分以上の戦いを繰り広げられている。
「お前ら!このまま押し切るぞ!」
「「「応!!」」」
今のペースじゃ、削り切る前に体力回復が始まるだろう。我ながら無理を言った自覚はあったんだが、他らの奴らは微塵の疑いも持たずに俺の指示に従ってくれた。
「まずは自分が拘束します!『バインド・ソーン』」
「でかした、魔術師の詠唱が終わるまでは近接でとにかく殴り続けるぞ!」
「任せやがれ!」
「WOOOOOOOOOO!!」
足元を拘束されたボーンドラゴンの絶叫が、周囲に鳴り響く。小動物ならその声を聞くだけで気絶してしまうような轟音も、俺達の足を止める理由にはなりえない。
「詠唱準備完了!近接下がれ!」
「「了解!」」
近接部隊が後退したことを確認した俺は、後方の魔法部隊に合図を送る。
次の瞬間、ボーンドラゴンの全身は業火に包まれる。
「G、GUWOOOOOOOO!!」
(頼む、倒れてくれ……!)
これで倒せなかったら仕切り直しだ。あまり気にしている余裕はないとはいえ、王都の状況がどんどん悪化しているだろうことは想像に難くない。これ以上、時間を浪費したくはねぇ。
「GU、WOO……」
「…………うっし、ひとまず討伐完了か」
『騎士の墓場』での戦い以降、すっかり戦闘終了の合図となっちまった報酬ウィンドウを確認しながら、俺は自身やパーティーメンバーの状況を確認する。
消耗はあるが、手持ちのアイテムや回復魔法で十分に対応できる範囲だな。脱落者もいないようだし、これなら問題ない。
「聞け!本来ならしばらく喜んでいたいくらいには大物だったが、残念ながらクエストはまだ終わってねぇ。俺達はこのまま」
「レ、レンヤ。あ、あれを……」
「……あん?」
「「GUWOOOOOOOOOO!!」」
……嘘だろ。
「ボーンドラゴンが、二体だと……?」
「無理だろそれは……」
「これ、所謂負けイベってやつじゃないですか?」
(まずいな……一気に士気が下がっちまった)
負けイベじゃねぇとは思う。グラマギはとてつもない難易度のクエストを出したとしても、絶対勝てないように調整されたクエストを出すような運営じゃねぇ。
だが現状の俺達だと、コイツらを二体同時に相手取るのは不可能だ……仕方ねぇ。
「俺が一体引き付ける。その間にお前らがもう一体を何とか────」
「ストップです、レンヤさん」
怒号が行き交う戦場の渦中で、その透き通った声は不思議なくらい真っ直ぐに俺達の耳に届いた。
「サフィリア?」
「この事件の元凶は既に討伐済みです。あとは王都内に残った魔物を駆逐するのみ。それくらいならば、我々が無茶をする必要もないでしょう」
「第一騎士団、私に続きなさい!」
「「「了解!!!」」」
サフィリアの後ろからやって来た総勢30を超える騎士達は、勢いそのままにボーンドラゴンに挑みかかった。
兜のせいでその表情を窺い知ることはできないが、あの雰囲気からしてとんでもなく必死だと言うことは分かる。
「……なんでアイシスが騎士団を率いているんだ?」
「詳しくは後ほど。騎士達だけで二体を相手するのは厳しいでしょう」
「……それもそうか。お前ら!俺達も一体殺るぞ!」
「「「応!」」」
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