第12話 騎士から少女へ
─【盾戦士】レンヤ─
「『キュア・パラライズ』」
「助かったぜ、他の奴らもこの調子で頼む」
「うん。はやく【剣聖】を助けないと」
「あれに助けがいるかは微妙だけどな、無理に割って入るとかえって邪魔になりそうだ」
【
相手の標的はハイト本人なんだから、俺達プレイヤーは間に入って助けるべきだ。
それが、俺達に与えられた役回りのはずだ。
「チィッ!マサカ貴様ガ忌々シキ【剣聖】ノ継承者ダッタトハ!」
「ここで滅べ、不死の王!」
だが、今の俺達にはそれができねぇ。
圧倒的にレベルが足りねぇのもそうだが……ハイトの鬼気迫る表情を見ると、俺達が邪魔な存在なんじゃねぇかと思っちまう。
「それでも、我々にできることはあるはずです」
「サフィリアか。確かにお前さんの魔法なら邪魔になることはねぇだろうが」
「そういう意味で言ったわけではありません。あれを」
そう言ってサフィリアの嬢ちゃんが指差したのは、ハイトの周りに群がるアンデッド達。
ハイトに近づこうとしては結界に阻まれているが、どうやら結界自体に攻撃能力はないらしいな、どんどん数が増えてやがる。
「ハイトさんはあのアンデッド達を結界スキルによって防いでいますが、そのせいで別のスキルを使用している余裕がないようです。その証拠として、さきほどヒーラーを治療するときは一度スキルを解除していました」
「なるほど。確かに強化スキルすら使っている様子がねぇな」
「加えて、恐らく移動にも制限がかかっているのでしょう。本気のハイトさんであれば、既にあの剣は【
ただの予想ではあるが、カノーファス本人はそこまでステータスが優れているわけではねぇと思う。
俺達からすりゃ十分脅威的だが、ハイトの奴なら剣が届けば勝てるはず。
向こうもそれが分かっているからか、剣の間合いでは絶対に届かない領域から魔法を放ち続けるという戦法を取っている。裏ボスにしちゃ随分と陰湿な戦法だ。
「『
「!?」
「結界をすり抜けた!?」
「あれは魔法攻撃、ということなのでしょうか?」
だが、俺の目には騎士みたいなやつらが結界をすり抜けて襲いかかっているように見える。何か抜け道のようなもんがあるのか?
「ねぇサフィ、あの人見たことない?ほら、騎士団の人達」
「え?言われてみれば確かにそんな気もしますが……まさか寝返りました?」
「流石にないでしょ。似てるって言っても微妙に違うし……なんというか、幻影?みたいな」
「ネガメモリー……なるほど、そういうことか」
あれは多分、対象者の記憶から憎き相手を幻影として呼び起こす魔法。
どうやらハイトは目の前の【
「やべえな。あの数を相手するのは流石にきつそうだ」
「アイちゃん!いけますか?」
「『
アイシスの言う通り、俺達がハイトと幻影の騎士団の間に割って入るためには、ボス部屋を埋め尽くす勢いで増え続けているアンデッドを倒さないといけねぇ。
その数は最早正確に把握するそろそろ数が増えすぎて、ここからだとハイトの姿が見えなくなっているくらいだ。
「立ち止まっている暇はありません。我々はHPがゼロになってもデスペナを受けるだけで済みますが、ハイトさんはこの世界に一人だけなのですよ。いざとなれば私は、肉壁になってでもハイトさんを守ります」
「タンクの役割奪おうとしてんじゃねぇよ。ま、やるだけやるしかねぇな。お前ら!麻痺が治った奴らから前線に復帰しやがれ、まずはこのアンデッド共を片付ける!」
ヒーラーを削った編成が仇になっちまったな、まだ半分も治療が済んでない。
支援も見込めねぇから、被弾は最低限に抑えなきゃならん。
絶望的状況。それでも、俺達はやるしかねぇ。
ここで諦めちまったら、俺達はゲーマー失格だ。
「行くぞ!!」
♢ ♢ ♢
─【疾剣士】アイシス─
届かない。
「嬢ちゃん悪い、そっちにヘイト行っちまった!」
「だから嬢ちゃんって言うなっての!!」
幸い、アンデッド一体一体はそこまで強くなくて、ここにいるプレイヤーなら複数体に襲われても問題なく対処できる。私はレベルが低いからちょっと気にかけられてるみたいだけど、私でも全然問題ない。
だけど、届かない。
「ゾンビ系は任せてもいい?ちょっと剣の耐久値が怪しくなってきた」
「お任せあれ!予備は用意してないの?」
「あるにはあるけど、お古だからちょっと性能がね。誰かさんに負けちゃったせいで、ここ最近は金欠だったから」
私から挑んだ戦いなんだから、文句を言うつもりは全くないけど。
本当はこういう乱戦を想定して小太刀も用意したかったけど、そんな余裕はなかった。でもいざこういう状況になると、多少アイテムを削ってでも用意するべきだったと思ってしまう。
まだ、届かない。
「どんだけいるのよ、アンデッド達は!」
もうすぐ討伐数は100に届く。他の人達も似たようなものだと思う。
だけど、どれだけ狩ってもハイトの姿が見える気配がない。結界スキルが放つ淡い光のお陰で、どのあたりにいるかは今でも分かる。
だからこそ分かってしまう、全然距離が縮んでないことに。
(ハイト……!)
この世界のNPCは、死んでも復活することはない。
だからきっと、このクエストに挑めるのは一度きり。ここで失敗してもダンジョンを攻略することはできるだろうけど、そこに彼が参加することはできない。
(ハイトをこの場所に導いたのは私達。だから、その責任は私が取る、絶対に)
今の私には、殲滅力が全く足りていない。
でもあれを使えば、少なくとも私だけはハイトのところに駆け付けることができる。
「……レンヤさん、ちょっといい?」
「あん?」
「私、ちょっと一人であそこまで行ってくるわ」
「……あん!?」
攻略隊の人達も結構復帰してきてるし、今なら私が抜けても前線は問題なく維持できるはず。
「行けるのか?」
「ええ、ちょっと剣が心配だけど」
少し剣に負担をかけてしまうから、もしかしたら途中で折れてしまうかもしれない。
その可能性を考慮しても、やる価値は十二分にある。
「そういうことなら、コイツを持ってきな」
「……これは!?」
「さっき拾った。多分お前のステータスでもギリギリ持てるはずだ、お前軽装だしな。性能も申し分ねぇだろ」
「良いの?」
「知らん、俺の持ち物でもねぇしな。だけどそいつはきっと、ハイトを助けてやることを望んでるはずだ」
「……」
なんやかんや言って、レンヤさんもハイトが死ぬ未来は避けたいみたい。いつ拾ったか分からないけど、折角なら期待に応えないとね。
耐久値がギリギリの剣をインベントリにしまい、レンヤさんから受け取った中央に赤い筋が入った黒剣を水平に構える。
(サダルさん、私に力を貸して)
「天霧流奥伝──『
それは古の時代、他の流派においては『分身』と呼ばれていた技のこと。
相手の虚を読み取り、そこに敢えて自分の姿を強く意識させることによって、虚の中にいる『私』があたかも本当の『私』かのように錯覚させる。
もし誰かがこの場にいるアンデッド全員の視覚を見れたりしたら、そいつの目には大量の私が映っていたでしょうね。
「私を止めたいなら、目を瞑っておくことをおすすめするわ」
そう言いながら私はアンデッドの大群に向けて真正面から走る。
アンデッドは『私』の接近に気が付かない。アンデッドが視覚で私達を捉えていることは何となく分かっていたことだけど、こうしてちゃんと通じていると安堵の吐息が漏れそうになる。そんな余裕はないのだけど。
「はぁ!!」
この技は持続時間がとてつもなく短い。
繊細さが求められる技でもあるから、どうしても攻撃に集中力を割くわけにはいかず、攻撃は単調で強引なものになる。
だから必然的に、複数を相手取る時には武器への負担がとても大きくなってしまう。こんな大量のアンデッド相手に、武器がもつか少し不安だったのだけれど……。
(すごいわねこの剣、ろくな手入れなんてされていないはずなのに)
ハイトの話を考えれば、サダルさんは一年以上この場所に囚われていたはず。アンデッドが剣の手入れをできるとは思えないから、この剣はその間ずっと劣化し続けていたことになる。
これが他のゲームなら、そこまで再現したりはしないってなるんでしょうけど、グラマギならやっててもおかしくない、というか絶対やってる。
とにかく、この剣は長い間なんの手入れもされずに放置されていたはず。そんな状態でも、肉や骨を断つ瞬間にほとんど抵抗を感じることはない。
騎士が使うことを想定されているからか、私には少しだけ重く感じてしまうけれど、そんなデメリットが気にならないくらいの逸品ね。現実にこんな剣があったら、少なくとも数千万、下手したら億の価値が付いたかもしれない。
(後少し、もう一息──)
やっぱり『朧陽炎』は負担が大きい。剣より先に私が音を上げそう。
だけど、諦めるわけにはいかない。私の責任を果たすために。
「……届いた!!」
ようやく視界に収めた守護結界。
その中には、二十を超える数の騎士の幻影を相手に、幾多の傷を負いながらも悠然と立ち向かう剣士の姿があった。
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