大卒22才無職の女
@CHIHA-RU
第1話 幼稚園児の頃
【幼稚園のちはる】
年少さんの頃、私はとにかく泣き虫だった。初めて同じ年齢の子供と関わり、いつも自分が尊重されるとは限らないことを知った。例えば、男の子から「バカ」と言われただけで、しばらく涙が止まらなかった。ひどいことを言われた悲しさ。言い返すことは何も思い付かない。とにかく悔しい。対処法もわからず、ただただ泣いていた。友達や先生に心配されても、男の子から形だけの「ごめんね」をもらっても、悔しさは消せなかった。男の子からすれば、すぐに泣く私をからかうのがおもしろかったのだと思う。「チーズ!チーズが歩いた!」とチーズ扱いされたこともあった。いじめと言えるほどではなかったと思うが、周りの女の子にも笑われて屈辱的だった。何日かそういうことが続いたので母に相談した。母は「そんな人はいっぱいいる。強くならないといけないお母さんならチーズって呼ばれたら嬉しいな🎵」強くない私を責めるような言い方。悔しかったことへの共感はなし。バカにされるのが嬉しいってどういうことなんだろう。こんなに悩んでいるのにどうしてわかってくれないんだろう。一方的に悪口を言われても、お母さんは私の味方をしてくれない。お母さんにもっと自分の気持ちをわかってほしかった。仕方がない。諦めて、次はお父さんに相談した。お父さんは、私と一緒に怒ってくれた。理不尽を理解してくれた。「そんなことを言ってくる子が幼稚園にいるのか。それでお前は毎回泣いているのか。涙がもったいないな。俺が何とかしてやる!今度、仕事を早く終わらせて俺がお迎えにいく。そのときそいつを呼べよ」わかってくれて嬉しかった。とにかく心強かった。お母さんより頼りになると思った。お父さんがお迎えに来ると、すぐその男の子達を呼んだ。3人の男の子にお父さんは、「こんにちは」と言った。男の子達も「こんにちは」と挨拶した。それだけだった。それなのに、次の日から嫌がらせを一切受けなくなった。お父さんがどんな顔で挨拶していたか見ていないが、怖い顔でもしていたんだろうか?お父さんは1週間くらい「幼稚園で何も言われてないか?」と聞いてくれた。「何も言われてない、楽しい」と伝えるとお父さんも嬉しそうだった。お母さんにお父さんのことを自慢すると冷たくあしらわれたが、気にもとめなかった。誰からも悪口を言われなくなった私にとって、幼稚園は友達と遊べる楽しい場所に変わった。不器用で運動も得意ではなかったが、日々成長を感じていた。田植え、雪遊び、盆踊り、お泊まり会、お遊戯会などのイベントも楽しかった。
【家のちはる】
物心ついた頃から、お父さんとお母さんは毎日喧嘩していた。ある日の喧嘩は、ドライヤーをするかについてだった。お母さんはドライヤーをせず、それに従って私もできなかった。お父さんが「ドライヤーぐらいさせろ」お母さんは「もう乾いている」「いや、枕カバーが濡れている。しみったれのすることだ」などと二人で大声で言い合う。お母さんは、お父さんがいないところで私に「ドライヤーなんかしなくていい。自然乾燥の方が髪が痛まない」と言うので私は信じていた。髪は乾燥しきっておらず枕カバーはびしょびしょに濡れて不衛生だった。髪や頭皮のためにもドライヤーはするべきだったと大人になった私は思う。当時の私は基本的にお母さんが正しそうと思っていたが、喧嘩の全てを思い出すことはできないし、真相は謎。喧嘩中、思わずうるさい!と言ってしまったこともある。感じたことのないピリッとした空気を恐れた私は黙りこむ両親に「おやすみ」と言って寝るしかなかった。
そんな日常がずっと続くと思っていたが、あるときお父さんは私に「おとうさんがいなくなってもいいか」と聞いた。離婚して良いか打診してきていることに気づかず「いいよ」と軽く答えた。幼稚園も楽しいし、お父さんがいない時間も平気だと安心させたくて言った言葉が、どれだけお父さんを傷つけたかわからない。お父さんは「そうか」と泣きながら私を抱きしめた。4才の私には、なぜお父さんが泣いているのかわからなかった。子どもと大人の会話というのはそんなに正確にできるものではないって大人の人には覚えておいてほしい。
私が年中の時、お父さんとお母さんは離婚し、お父さんとはたまにしか会わなくなった。お父さんのことは好きだったので私は悲しかった。今思えばただ甘やかされて好きだっただけだが、海に行ったことも外食したこともいい思い出ではある。少ないおこづかいで買ってくれたアイスの味も忘れてない。お父さんのおこづかいについては、両親の主張が食い違っていた。お父さんはお母さんがこれだけしかくれないと話していたし、お母さんは「お父さんが自分で決めた額」と話していた。お母さんのことも好きだったけど、少し苦手でもあった。お母さんの嫌だったところを箇条書きにしてみる。
・パズルのようになっている積み木を箱の中に戻すのを手伝ってくれない。何度やっても蓋が閉まらず泣く私に「自分で片付けをしないといけない」と言うばかり。どこに積み木をしまえばぴったりはまるかわからないのに、ヒントも教えてくれない。一緒に考えてくれない。
・箸の練習として、2つの箱に入った小さな新聞紙の玉か豆まきの豆をひたすら右から左、左から右へと移動させるのをやらされた。少しでも持ち方が違うと怒られ、落としたときも怒られ、つらい時間だった
・私は嫌がっているのに無理やりチューをしてきて気持ち悪い
・私の上にのってきて息ができなくて苦しいのにしばらくどいてくれない。はぐとかではなく押し潰されるだけ。1分くらい本当に息が苦しくて腹が立った。なぜお母さんが笑っているのかわからなかった。何度もやられた。今でも思い出すとむかつく。
・くすぐられたくないのに何度も長時間くすぐられる。
・上靴や靴を自分で洗わされて洗剤で手が荒れていた。せめて手袋をさせてくれればよかったのに。痒くて汁が出てくるのに、薬もくれなかった。
・ご飯がないことがあった。あっても煮干しとか、キムチ鍋(辛くて苦手)、マヨネーズの焼きうどんとか。ごく稀にオムライス。お母さんからは「ちはるって給食で栄養をとるタイプだよね」と言われていた。そうではない。おばあちゃんは、ほぼ毎日お迎えに来てくれていて、おやつや夜ご飯も食べさせてくれていた。お母さんのご飯がないかまずかっただけ。
・普段はおかしやおもちゃを一切買ってくれない。ガチャガチャも絶対にダメ。クリスマスだけはトイザらスのカタログから欲しいものを一つ買ってくれる(サンタからの手紙つきで、サンタとしてプレゼントしてくれる)。
こんな風に書くと嫌なところばかりみたいだが、そんなことはない。完全に嫌いにはなれなかった。図書館に連れていってくれたり、遊んでくれたりすることもあった。自分が選んだ絵本を読むのは好きだった。お母さんが選ぶ絵本はやや難しく、読み聞かせてもらうのが退屈なこともあった。ほぼ自分の趣味だと思うが、セーラームーンやメロンパンナの編みぐるみを編んでくれることもあった。
年長さんになって、お父さんと遊ぶ日に突然「お父さんと住むこともできるぞ」と言われた。小学校入学のタイミングで引っ越せるというのだ。離婚してから、お母さんは若干ネグレクト気味だった。仕事の忙しさもあったとは思うので今は許しているが、朝ごはんがないときのことやお母さんの冷たい態度を思い出すとつらい。幸いおじいちゃんおばあちゃんの家が近く、そこでおやつや夜ご飯を食べることが多かったので餓死する心配はなかった。それでも、お母さんが私を大事に思っていないかもしれないような気がしていた。そう思ったのは、お父さんの発言の影響が大きかった。「お母さんはお前を捨てた。俺だけが土下座してお前を生んでくれと頼んだんだ。ばばあもお前をおろせと言った。お前を殺そうとしたんだぞ」などと何度も言われ、自分は望まれない妊娠から生まれた要らない子どもであることを知ってしまった。結婚する前に妊娠、お父さんは高卒で職を転々としている。当然、結婚を反対されたり、子供を産むか迷ったりもするだろう。しかし、幼稚園児の私にそんなことはわからない。結婚を反対されたのは、お父さんが高卒だからとしか聞いていなかった。大学がどんなものかもわからなかった。ただ、私が生まれて喜んだのはお父さんだけってことなんだろう。家族って信用できない。お父さんは「お前を金の道具としか思ってない。養育費を毎月払っている」などとも話していた。一度結婚した相手の悪口を子どもに言う両親。結婚ってしょうもない契約なんだな。どちらを信じるべきかわからず、甘やかしてくれる父親を選んだ。完全に判断を誤った。せっかく祖父母が一緒に住むための家も準備してくれたのに、申し訳ないことをした。お母さんが少し育児に手が回らなくても祖父母がいれば大丈夫だったと思う。母方の祖父母の方が父や父方の祖母よりもずっとまともだった。だから、必要以上にお父さんを悪く言わなかった。
続く
大卒22才無職の女 @CHIHA-RU
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