第28話 妹キャラの定義
美優が昔会ったことのある女の子だということが判明した。そして、俺との昔の思い出をずっと大事にしてくれていることも知ってしまった。
あの楽しかった日々をもう一度。今度は本当の妹になって、俺の理想を超えるような妹として日々を過ごしていきたい。
そんな義妹の想いを知って、『義妹は妹として認めん!』という実妹過激派だった俺の価値観も、少しずつ塗り替えられていくのが分かった。
そして、そんな美優の過去と心情を知って、俺たちの関係は大きく変わることはーー
「お兄ちゃん、他におすすめある?」
「おすすめかぁ。これとか、いいかもな」
「ふーん……また実妹もの」
なかった。
家に帰れば俺の部屋に入り浸り、休日は俺の部屋に入り浸る。リビングでダラダラ過ごすときもあるが、互いに俺のベッドの上で並んでラノベを読むという構図が日常と化していた。
美優が着ている妹キャラ特有の短い丈のハーフパンツだけは慣れることなく、俺は隣に並ぶ美優の素肌が晒されている脚を見るなり、意識的に視線を逸らさなければならなくなっていた。
美優が何を思っていたのか感じたところで、この関係は変わることはないのだ。
そう、多分俺の心情以外は何も変わっていない。
当然、心情なんてのは口に出さなければバレることはない。
美優はそんな俺の心情など気づきもしていないのだろう。俺が手渡した実妹物のラノベに何か言いたげなジトりとした視線を向けていた。
その目は必要以上に物を語り、ジトりとした状態のままその目を俺の方に向けてきた。
「実妹と義妹って、そんなに違うものなのかな?」
「み、美優!! な、何て過激発言をするんだ。誰かに聞かれでもしたら……ふぅ、危うく戦争が引き起こされるところだったぞ」
「……そんな世界は滅んでしまっていいと思うよ」
何を言い出すかと思ったら、美優が世界を揺らがすような発言をしていた。
それも悪びれる様子もなく、むしろこちらに向けているジトりとした目を強くしているようだ。
美優、なんて恐ろしい子!
某動画コンテンツに先程の発言を載せでもしたら、アカウントBANは確実。その動画が世界中に拡散されて、世界が実妹派と義妹の二つに分断されて戦争が起こりかねない。
違うんだ、美優には悪気があるわけではないんだ。
それなら、教えてあげなければならない。兄として、妹萌えについて講釈垂れなければ!!
「美優。妹の三大要素について、知っているか?」
「なにその三大栄養素みたいな響き」
呆れるような美優の返答を聞きながら、俺は小さく咳ばらいを一つして美優の方に少し体を向けた。
「有名な話だ。とあるアニメで主人公が言っていた言葉だが、妹キャラには次の三大要素が必要不可欠なんだ。それは、血の繋がり、思い出、妹萌え。妹キャラというのは、この三大要素を満たしていることが不可欠とされている。まずは、血の繋がりについて。美優はロミオとジュリエット効果という言葉を知っているかい?」
「ロミオとジュリエット効果?」
美優はこてんと小首を傾げると、きょとんとした顔でこちらを見つめていた。
まぁ、日常的に知るような知識ではないか。
「ロミオとジュリエット効果。これは心理学などで使われる言葉だ。恋の間にある障害が高ければ高いほど、その恋は燃え上がるというものだ。しかし、現代日本ではロミオとジュリエットのような身分による障害はなくなった。身分以外で、絶対に結ばれてはならない関係とは何か? ふっ、そうだ。もう言わなくても分かるよな? そう、それが実妹なんだ! 現代版ロミオとジュリエットとは実兄妹のことを指す! つまり、実妹萌えとは心理学によって証明された萌えーー」
「絶対に違う気がする」
「科学雑誌Natur〇の表紙を飾る未来も近いだろうな」
「廃刊だよ、そんな科学雑誌」
一瞬だけ俺の話に関心を持ったような美優だったが、美優はすぐにその目をジトりとした物に変えていった。
まぁ、まだ立証はされていないことだし、科学的根拠が足りていないと指摘したいのだろう。
実際に、そこを突かれると少し弱いしな。
「次に、思い出だな。幼少期から一緒にいるからこそ積み重ねられていく思い出。これも実妹ならではと呼べるだろう。昔はブラコンだったのに、思春期と共に離れていく距離間。モノローグ長で『今じゃ考えられないが、昔は仲が良かった』みたいな文言と共に、兄を素通りする妹。ここで大事なのは、過去にしっかりと仲の良かったという思い出があることなんだ。その思い出があるからこそーー美優?」
俺が妹萌えを構成する要素を語っていると、体をこちらに向けていた美優が、申し訳なさそうに俺の服の袖を引っ張った。
言葉を遮られてそちらに視線を向けると、美優は少し躊躇ったような顔を見せた後、微かに眉をハの字にして言葉を続けた。
「私も……思い出、欲しいな」
「へ?」
ベッドの上で女の子座りをして、控えめにこちらに向けられた上目遣い。
見つめてきた瞳は、朱色に染め上げられた頬の熱によって揺らされて、微かに湿りけを帯びているようだった。
美優の片手によって作られたシーツの皺は、美優の心の中の不安を表現しているようでもあった。
兄妹二人きりでベッドの上。そんな状況で、『思い出』という単語が何を意味するのか、それが分からないほど俺は鈍感ではない。
俺は体の奥の心の部分を揺らされたようで、その熱が体を熱くさせていた。
「だめ?」
「だ、ダメというか、それは全年齢版では厳しいというかーー」
「どこか遊びに行ったりしてさ、思い出作ろうよ。それなら、義妹でもできるよね?」
「あ、遊びでだなんてーーん?」
「え?」
いつの間にか小さくガッツポーズを作っている美優を前に、俺は疑問をそのまま口に出したような小さな声を漏らしていた。
そして、そんな俺の様子を見て美優も小首を傾げている。
いつの間にか甘く感じていた雰囲気は、初めからなかったのではないかと勘違いするほど澄んでいた。
「……もしかして、ただ俺と遊びに行きたいって話? それで思い出を作ると?」
「? ずっとその話してたよね?」
美優は俺の考えている展開などまるで頭になかったかのように、眉を潜めていた。
どうやら、俺の勘違いだったらしい。
危ない、危うく実質一択の選択肢を迫られるところだった。
「な、なんだ。そういうことか。ベッドの上で恥ずかしそうに『……思い出、欲しいな』なんて言うから、移植前のエロゲ展開かと思ったぜ。あ、いや、なんでもない、なんでもない」
「ベッド、思い出、エロゲ?」
美優は俺の言葉を思い出すように、視線を上に向けて少しの間考え込んでいた。
そして、それから俺の顔を覗き込んで、その赤さに気づいたのか、声にならないような声を上げていた。
「~~っ!!」
「いや、違うんだよ。今のは勘違いするなって言う方が無理なんだ。その、妹ルート的に」
そう、これが妹じゃなれば勘違いしなかったかもしれないが、美優が妹だったのだから仕方がない。
今の状況であんな言葉を言われたら、そのままCG回収のためにセーブの準備をするのが普通なのだ。
美優は羞恥の感情によって、一気に耳の先まで赤くさせると、目を強くきゅっとつぶった。
「そ、そんなんじゃないんだからっ、勘違いしないでよね!!」
「あ、ツンデレ妹?」
「い、今のは違うからっ!」
こうして、思い出(意味深ではない方)を欲しがった美優のために、俺たちは思い出づくりのための案を出し合うことになったのだった。
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