第26話 再会③ 美優side
小学生三年生の夏休み、一人の男の子と出会った。
おばあちゃんの家に遊びに行ったときに出会ったその男の子は、私と色んな事をして遊んでくれた。
川に連れていってくれてサワガニを見つけたり、一緒に釣りをしたり、夏祭りに一緒に行ったり。
お別れをするときには声も出せなくなるくらい泣いちゃって、また来年会うことを約束して別れたのだ。
……結局、翌年の夏を迎えるよりも早く、当時のお父さんとお母さんが離婚しちゃって、おばあちゃんの家に行くことはなくなったのだけれど。
当時、約束を守ろうと思って行くための道を調べたりしたけど、当時私が持っているお小遣いでは運賃が足りず、離婚したお父さんの実家に遊びに行きたいとも言えなかった。
結果として、私はその男の子との約束を破ることになってしまったのだった。
そして、高校に入学しても、その男の子の面影をどこかで追っていた。
今は何歳になったのだろう。実は、もう大学生とかだったりするのかなと思いながら、クラス分けされた教室に向かうとーー
「……お兄ちゃん?」
妄想の中で、すっかり大きくなった姿をしたお兄ちゃん。その姿と重なる男の子がそこにいた。
いやいや、ありえないありえない!
ずっと人見知りが治らなくて、友達ができなくて、ずっと『お兄ちゃん』のこと考えてたから、ただ似ているだけの男の子にその姿を重ねているだけに違いない!
お兄ちゃんによく似た男の子は、私のことにまるで気づく素振りはなかった。だから、勘違いだと思い込んで、その場をやり過ごしたのだった。
そして、やってきた自己紹介のタイミング。そこでその男の子の名前を聞いて、私は確信した。
お、お兄ちゃんだ! 確か、お父さんに『はると』って呼ばれてたし、間違いない!
うそ! こんな所で再会するなんてことあるんだ! あれ? 勝手に年上だと思ってたのに、同級生だったんだ。
不意の再会を前に、私の心臓の音は飛び出るんじゃないかって本気で思うくらい、うるさくなっていた。
久しぶりの再会で緊張しているのか、私の心音は周りの人聞こえるんじゃないかってくらい、大きくて速い音を立てていた。
私の順番が回ってくる前までに、なんとか言葉を噛み倒さないくらいまでに心臓の音を落ち着かせよう!
そんなことを考えて、私は自分の順番を静かに待った。
そして、回ってきた私の番、私は席から立ち上がると、少しだけ体の向きをお兄ちゃんの方に向けて口を開いた。
「雪原美優です。……雪原、美優、です」
私の自己紹介を聞いたお兄ちゃんはというと、他の子に向けていた目と同じ目をこちらに向けていた。
聞き取りやすく二回も名前を言ったというのに、表情一つ変えないお兄ちゃん。
まさか、気づいてないの?
私はすぐに気づいたのに、名前もはっきり言ったのに?!
いや、時間が経ってるわけだし、分からないのは仕方がないのかもしれない。それは頭では理解している。理解しているんだけど……。
「お、おい、雪原さんなんか怒ってないか?」「なんか睨んでる?」「あれ? なんか視線が冷たくなってないか?」
そのときの私は自分が思っていた以上に、お兄ちゃんへの不満が顔に出てしまっていたらしい。
それからしばらくして、私はいつからか周りから『氷姫』などと呼ばれるようになっていったのだった。
そんなふうに呼ばれるようになっても、私はめげることはなかった。
まだ話もしてないし、気づかないのも仕方がないかもしれない。多分、これから色々話していく中で、少しずつ私のことを思い出してくれるだろう。
……そう思った時期が、私にもありました。
お母さんが再婚して、ただの年上だった『お兄ちゃん』が、兄妹としての『お兄ちゃん』になった。
そのことに感動を覚えて、私は少し泣きそうになっていた。
お母さんも、お兄ちゃんのお父さんである圭司さんも、当時の私達のことを覚えていてくれていて、そのことにも感激した。
そう、ただ一人を除いてしっかりと覚えていてくれたのだ。
その一人というのは他でもない、お兄ちゃんである。
廊下で会えば『あっす』くらいの挨拶しかしてくれないし、学校に登校する時間もずらそうとか言ってくるし、挙句の果てには基本的に自分の部屋に閉じこもってるし。
こんなの全然兄妹じゃない! 昔の方が本当の兄妹みたいだった!
両親が出張で家を空けたときは、ちょっとチャンスだと思った。
さすがに、家に二人しかいない状況なら、私ともたくさんお話をするはず。そう思って、臨んだ数日間だったのだがーー
私生活の中どころか、食事中も全く話しかけてくれなかった!
私から話しかけても『え、あっ、はい』とか『自分はどっちでも、はい』みたいな返事しか返ってこないんだけど!
なに、私は上司なの?! 先輩なの?! 違うでしょ、い、も、う、とでしょ!!
私が脳内で悶々としていると、お兄ちゃんはお弁当をかき込んで食事を終えると、私の隣を通り過ぎて部屋に籠ろうとしていた。
「……もう限界」
「え?」
お兄ちゃんが気づくまでは、教えてやらないとか変に意地張ってたけど、そんなのじゃいつまで経っても気づかないし、いつまでもこんな距離間でなんていられない!
「え、ちょっ、ぼ、暴力はーー」
色んな感情が一気に溢れてきて、私はよく分らないけど瞳が潤んでしまっていた。
ずっと抱えていた寂しさとか、再会を一緒に喜べない悲しさとか、全然私に気づかない怒りとかで感情はぐちゃぐちゃだった。
私はお兄ちゃんを正面から見つめて物申すため、手のひらで顔をがしっと掴んでいた。
「え、あれ?」
そして、戸惑うお兄ちゃんをそのままに、私は塞き止められなくなった感情を爆発させた。
「『春斗くん』、他人行儀過ぎ! もっと私とお話して! もっと構って!」
「……え?」
「春斗くん、お兄ちゃんなんだよね?! もっと、私を妹みたいに扱って!!」
「いや、俺たち同級生じゃ……」
「私の方が誕生日遅いから妹なの! もっとお兄ちゃんして! あーまーやーかーしてよー!!!」
こうして、私は後になって布団の中で悶絶するような駄々をこねて、お兄ちゃんを困惑させることになったのだった。
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