第24話 再会①
「なぁ、こっちの方ってなにかあったけ?」
「んー、どうだろうね」
「いや、どうだろうねって」
川で涼んだ俺たちは、美優に連れられて川から離れて何もない道をただ歩いていた。
田んぼと畑だけが広がる道の描写としては、何もないが正しい表現だろう。
田んぼにはすでに稲が植えられていて、育ちつつある稲が一定間隔で並んでいて、一部稲が植えられていない部分には、夏の空が映し出されていた。
まだ川で冷やされた体は日に当たっても心地よく、前を歩く美優の背中には乾ききっていない濡羽色した長い髪が揺れていた。
「こっちの方にあったものっていうと……」
「思い出してきた?」
前を歩く美優の声色が背中越しに明るい口調になっていた。
まるで、目印も何もないこの道を知っていたかのような口ぶりに疑問を抱きながら、俺はこの先にあるものを確実に思い出していた。
「いや、思い出してきたも何も、」
おばあちゃんの家に来たら、必ずと言ってもいいほど訪れていた場所。確か、ちょうど目の前の十字路を右に曲がって、すぐにある民家を改装したような建物がそれだった。
「ほら、ここにーーえ?」
そして、そこにあったのは、ひっそりと畳まれた駄菓子屋の姿だった。
「えええ!? 嘘、つ、潰れてる!?」
「いや、ここ潰れたの四年ぐらい前だぞ?」
よくある駄菓子屋の前にある自販機だけ生きてるパターン。まぁ、その自販機たちの並びに、未だに酒の自販機があったりするわけだが。
「うそ……楽しみにしてたのに」
美優はそういうと、その場にぺたんと女の子座りでへたり込んでしまった。
後ろから見ても分かるくらいに肩を落として、がっくりうな垂れていた。
「いや、ただの駄菓子屋だぞ? そんなにへこむほどでもないだろ」
俺は大袈裟にへこむ美優にそんな言葉をかけながら、何か引っ掛かりを覚えた。
あれ? 何だこの感じ?
どこか既視感を覚える構図を前に、俺は美優の肩を叩こうとしていた手をぴたりと止めていた。
そして、俺の声に反応するように振り返ったその姿が、七年前に見たことのある思い出と重なってーー
「ん? あれ? いやいやいや、え?」
そんなはずはない。ただの勘違いであって、こんな再会を果たすなんてことはない。
しかし、思い出の中にいる女の子と、目の前にいる美優の瞳が同じ色をしていた。
記憶の中の女の子は、ずっと目が髪で隠れていたせいで忘れかけていたが、吸い込まれそうな黒水晶のような瞳をしていた。
つまり、それは目の前にいる美優ととても似ているわけでーー。
「……もしかして、『みゅー』か?」
俺の言葉を受けて、美優は一瞬目を見開くように驚いた後、じんわりと頬に熱を帯びさせてから小さく笑みを浮かべた。
「……やっと、言えるね」
美優はそんな言葉を口にすると、すくっと立ち上がってから髪を耳にかけて、優しそうな笑みをこちらに向けた。
「久しぶりだね、お兄ちゃん」
頬に帯びていた熱が瞳を揺らして、その目には涙のような物が浮かんでいた。
高校一年の夏の始まり、俺は七年前に会った女の子と再会を果たした。
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