第8話 兄に甘える義妹
最近義妹になった妹が、部屋着の丈の短いショートパンツ姿で俺の部屋にやってきた。
ふんだんに太股を晒す服装で俺の前に現れた妹の美優は、俺のベッドの上に座るだけではなく、膝枕なるものを提案してきた!
一体、これからどうなっちゃうの!?
「えへへっ、少し照れくさいかもね」
「……そうだな」
そんなふうに考えていた時期が、私にもありました。
このまま密室で膝枕をしてもらうことになるのか。そんなふうに考えていたのだが、蓋を開ければ立場が逆でした。
俺が枕になる側で、寝ているのは美優でした。これぞまさに、叙述トリック。
オタク泣かせも良い所だぜ。
まあ、甘やかして欲しいって言ってたわけだし、勘違いしていたのは俺の方なのだろうけど。
人生初の膝枕をするという体験。こんな時、手の位置はどこに置けばいいのだろうか?
頭? いや、つむじの用を触ろうとすると、変な感じになりそうだし、撫でるなら側頭部か?
「はぁ……なんか癒されるかも」
「さいですか」
目をつぶって俺の太ももを枕代わりにして、美優は気持ちよさそうな声を漏らしていた。
ただ枕になっただけで、そんな声を出してもらえるのなら、枕のしがいがあるってもんだ。
問題があるとすれば……少し無防備すぎるということだろうか?
別に、上に着ているTシャツはそこまで問題はない。問題は下である。
短い丈から覗く白くて滑らかそうな太ももから、ふくらはぎまでのラインが妙に煽情的だった。
さすがに、この位置からはお尻の形や足の裏などは見ることはできないが、普段から美優がこの服装でいるとなれば、いつかそれを覗き見るチャンスがやってくるということになる。
こんなふうに考えてしまうのは、思春期の男子にとっては普通のことなので、可能な限り目をつぶってもらえるとありがたい。
いや、この距離で見るようなことは今後はないかもしれないな。
……なんとかこの位置から見えたりはしないだろうか。
俺は美優が目をつぶっていることをいいことに、体を後ろに少し傾けてーー
「お兄ちゃん?」
「え?」
傾けたところで、すぐにそれはバレることになったのだった。
俺が状態を逸らしたことで、微かに頭の位置が変わったのかもしれない。
こちらを見て、ぱちくりと瞬きをしていた美優は俺の視線の先に気づいたのか、みるみるうちに耳の先を赤くしていった。
「……えぁっ」
そして、どこからか出したのか分からないような声をあげると、耳の先の熱を徐々に顔全体に伝えようとしていた。
「いや、ちがっ……くは、ないよ、よな」
なんとか誤魔化そうともしてみたのだが、当然無理があるに決まっている。
完全に容疑を認める言葉。寝込みを襲おうとしたのではなく、視姦しようとした純度の高い変態の兄が見参してしまった。
「べ、べつに、私何も言ってないよ。……うんっ」
美優はそんな俺に気を遣おうとしたのか、わたわたと体起こすと、手のひらをぶんぶんと横に振って、何も知らないようなふりをしてくれた。
バタフライでもしているかのように泳いでいる目が、何も知らないわけがないのだけれども。
「え、ええっと、私、一旦部屋戻ろうかな! うん!」
美優はそう言うと、持ってきたラノベを手に取ると、急ぐように俺の部屋を後にしたのだった。
「……終わった」
一人部屋に残された俺は、誰に言うでもなく部屋でそんな言葉を漏らすのだった。
どうやら、距離が近づいたはずだったが、以前以上に距離を取られる未来が確定してしまったみたいだ。
「~~っ!!」
自室に戻ってきた私は、勢いよく扉を閉めてそのまま扉に寄りかかっていた。
さっきからずっと感じてた視線。なんだろうと思っていたけど、さっきのお兄ちゃんの反応でそれは確信に変わった。
「お、お兄ちゃん、私の脚凄い見てた」
羞恥の感情から来るものなのか、どこから来ているか分からない感情が、私の心臓をうるさくしてくる。
緊張? 辱めを受けたから? 正体不明のそれによって、鼓動の音は早くなるし、顔はどんどん熱を持って行くのを感じた。
あのままあそこにいたら、本気で顔から火でも噴き出ていたかもしれない。
早々に撤退できて、本当に良かった。
私がこのショートパンツを履いて部屋に入ってから、ずっと視線が下に向けられているとは思っていた。
もしも、その視線がおっぱいとかに向けられていたのなら、もっと早く気付くことができたと思う。
でも、まさかあんなに熱視線を向けていたのが脚だったなんて気づくはずがなかった。
私はきゅうっとショートパンツの短い丈を掴みながら、そこから伸びる脚を見て一つの疑惑を抱いた。
「あ、脚フェチなのかな? お兄ちゃんって」
男の人の中では、そんな性癖を持つ人がいると噂程度には聞いたことがある。
脚なんて体育の授業とかでも出す機会あるし、制服着てるときなんて常に出している。
ということは、お兄ちゃんは学校で常に発情しているということになるけど。
……い、いや、さすがにそれはないか。
今までだってここまでの熱視線は浴びたことなかったし、何か特別な条件を満たすと発動するのかな?
「あとは、お、お尻?」
私は姿見鏡に自分の全身の後ろ姿を映しながら、振り向いてお尻を確認してみた。
そこに映っていたのは、ただのショートパンツ越しの後ろ姿だ。
別に、ショートパンツからお尻が溢れているなんてこともない。
……ただのショートパンツ姿だよね? なんで体捻らせたまで見ようとしてたんだろう?
考えてみてもその答えにはたどり着ける気がせず、ただ疑問は深まるばかりだった。
勘違いということにしてもいいんだけど、それだとその考えを否定したお兄ちゃんの言葉の理由がつかなくなる。
「理想な妹になりたいと思ってるけど、お兄ちゃんにとって、妹はそういう対象ってこと?」
今になって思えば、お兄ちゃんって妹について語るときやけに熱弁してたし、基本的に妹と恋愛する系の話が好きだし、そうじゃない方がおかしいのかもしれない。
「じゃ、じゃあ、もしかしたら、お兄ちゃんはあの頃から?」
そんなことを考えてしまうと、収まりかけていた熱が再度暴走を始めてしまい、ただ立っているだけでは処理をすることが難しくなった。
私は手に持っていたラノベを机の上に置くと、収まるどころか再熱して暴れ出す感情を発散させるために、ベッドにダイブしたのだった。
「~~っ!!!」
枕に顔を押さえつけながら、足をじたばたとさせて感情を発散させる。
その感情が何なのか理解するよりも先に、私はただ発散させることだけに努めていた。
それでも、その感情は中々発散されることはなく、私はどうすることもできなくなった感情を前に、ただ悶々とすることしかできなかった。
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