第7話 妹の服装について
結局、美優が帰ってきたのは夕方くらいだった。
自室のベッドの上で買い溜めていたラノベを読みながら、俺は美優が帰ってきたのを音だけで感じていた。
休みの日だし、普通に買い物とかにでも行ってきたのだろう。
そんなことをなんとなく考えながら、俺はそのまま手元にあったラノベに視線を落していた。
それから少しだけして、控えめに部屋の扉がノックされた。
まだ両親は帰ってこないはずだから、そのノックの主が誰であるのかはすぐに見当ついた。
「はーい、どうぞ」
すでに昨日美優を部屋に入れているので、今さら隠す物もない。そう思って、俺は特に何も考えずにそのノックに返答をした。
俺の返答を受けて、ゆっくりと開かれた自室の扉。
「――な、んだと」
「えっと、どうかな?」
扉の先に美優がいるのは想像できていた。
実際にそこにいたのは美優だったので、そこに対する驚きはない。
問題は美優の服装にあったのだ。
少しゆったりとした白色のTシャツに、部屋着用の鼠色のショートパンツ。あられもなくなった素足を惜しみなく露出するタイプの、ホットパンツ並みに短い丈のショートパンツだった。
部屋着というラフな服装ながら、男のフェチの急所を突いてくるようなショートパンツ。それは、鼠色と短すぎる丈がゆえにその存在を下着と近いものと錯覚させる服。
「えっと、妹キャラがこういうの来てたから、着てみたんだけど」
美優は頬を赤く染めながら、恥ずかしそうにこちらから視線を逸らした。
そりゃあ、俺が本から目を離して凝視し続ければそんな顔にもなるだろう。
でも、仕方がないことなのだ。
妹キャラによくある部屋着のショートパンツの採用率の高さ。言うなれば、お家モードの妹の正装と言ってもおかしくないかもしれない。
つまり、今の美優は妹を着ているのだ。
……ニチャァ。
「えっと、似合ってないーー」
「いや、滅茶苦茶に似合ってる」
「え? あ、ありがと」
俺が食い気味に美優の言葉に反応すると、美優は驚いたように数回目をぱちくりとしていたが、そのまま照れくさそうに視線を逸らした。
自分でも反射的にそんな言葉が出てしまったことに驚いたのだが、俺の反応に対して美優も嫌がっている素振りはないし、悪くはない反応だったらしい。
そういえば、こんなふうに正面から女の子を褒めたことって初めてなんじゃないか?
俺がそんなふうに少し考え事をしていると、美優はそのまま扉を閉めて部屋の中に入ってきた。
「よ、よいしょっと」
何か用だろうかと思ってそのまま眺めていると、美優は俺がいるベッドまで来て、そのまま俺のベッドに上がってきた。
「ん?」
そして、流れるように俺の隣に腰を下ろすと、壁に背中を預けて、手にしていたラノベを読み始めた。
最近できたばかりの義妹が妹の正装をして、俺の隣に座って妹物のラノベを読んでいるという状況。
なんだこの妹づくしセットは?
そんな状況に置いていかれている俺をそのままに、美優は早くも開いた本のページを捲ろうとしていた。
「……何が起きている」
俺はよく分らなくなってしまい、思わずそんな言葉を漏らしていた。
よく分らな過ぎて、軽くパニックになっていたのだろう。独り言にしてはでかすぎる言葉が漏れていた。
「なんかアニメとかだと、妹がお兄ちゃんの部屋に遊びに行くのは普通みたいな感じだったから、お兄ちゃんも喜ぶかなって思って」
「え、ああ。まぁ、確かにそういうものか」
美優はそう言うと、ラノベに視線を落したままそんな言葉を口にしていた。
心なしか頬の熱が下がりきっていないのは、この状況に少なからず照れているからだろう。
拳一個分くらいしか離れていない距離で二人きり。それもベッドの上で並んで座るという状況を前に、何も意識しないという方が無理がある。
そして、それ以上に気になるのが、俺の位置からばっちりと見える太ももの存在だった。
程よく引き締まっている真っ白な太ももと、形の良いふくらはぎ。
なめらかそうな肌質と、程よい柔らかさと押し返してくるような反発力を兼ね備えているような脚をしていた。
靴下を履いていないため、指の先まで眺めることができた。その裸足の指の形が妙に艶めかしく見えてきて、俺は手元にあるラノベで視線を隠しながら、大胆に素肌をさらしている脚から目を離せなくなっていた。
「と、時に、お兄ちゃん」
「は、はいっ!?」
ちらちらと見過ぎていたことがバレたのかと思って、返事をした俺の声は裏返っていた。
美優は数ページ呼んでいた本を閉じると、体を少しだけこちらに向けてきた。
朱色に染まった頬と少し不安そうに泳ぐ視線。いつもよりも近い距離と、ベッドの上という状況が相まって、俺の心音を加速させていった。
「私、結構妹として頑張っていると思うんだよね」
「そ、そうだな」
初めはどんなことになるのかと思ったが、美優の思惑通りたった一日で距離はぐっと近くなった。
同居生活を始めてから距離が縮まらなかったのに、それをこの一日で詰めたというのは美優の功績以外の何物でもない。
「だから、そろそろご褒美があってもいいのかなと」
「ご褒美?」
俺が小首を傾げると、美優は少しだけ頬を膨らませていた。
「私は妹をしてるけど、妹としてお兄ちゃんに甘やかされてはいないんですよ」
「……つまり、俺に甘やかして欲しいと?」
「つまり、そういうこと」
そう言われて、つい先日の美優の言葉を思い出した。
『私の方が誕生日遅いから妹なの! もっとお兄ちゃんして! あーまーやーかーしてよー!!!』
確かに、初めは美優に甘やかしてくれと言われていたのだった。
美優と理想の兄妹になることを意識してはいたが、美優を妹として扱うということはできていなかったかもしれない。
今まで少し気まずかった関係が、隣に座って本を読むような関係まで発展したのだ。
ここまでしてもらったのだから、俺も何か返したいと思わないことはない。
「俺にできる範囲でよければ、何かするのはいいけど」
「本当!?」
「お、俺にできることで頼むぞ」
瞳をキラキラとさせて、体を前のめりにするくらい食いつかれると、何を要求されるのか不安になってくる。
それと、ただでさえ近い距離にいるんだから、それ以上距離を詰めないで欲しい。
……あまり、心臓に良くないので。
いや、普通に考えて可愛い子に至近距離で見つめられれば、誰だって緊張するだろ。
「それじゃあさ、膝枕とか、どうかな?」
「……へ?」
一体、何を要求されるのか。そんなふうに身構えていた俺にされたお願いの内容を聞いて、俺は間の抜けたような声を漏らしていた。
少しだけ恥ずかしがるように頬を赤くしながらされたお願い。
それの内容は、美優を甘やかせるという大前提からそれたものだった。
……え、美優さん。その格好でするってマジですか?
そして、美優の言葉を聞いて、俺の中の思春期は沸々と盛り上がってしまっていた。
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