第2話  嘘は言ってないよ?

「片山君、この会社の資料、出しておいてもらえるかな?」


押し付けられた資料作成もそこそこに、別館の資料室を訪問して依頼を出しておく。

別館入口で入室許可を取り、社員証代わりのカード情報を当日限りの条件で書き換えてもらい、資料室のあるフロアーへセキュリティを解除して上がっていく。

『資料室』とは言っても電子化されているので、窓すら無いだだっ広い部屋には社内ネットワークのみに繋がる専用端末が人数分有るだけなんだが。

電子化前は、紙の資料が所狭しと散乱していたようですが。

外部ネットワークにこの部屋から繫げるのは佐木係長の隣りにある端末1台だけ。

スマホ等の通信機器は、入口でおあずけになり取り上げられます。

以前、スマートウォッチを預け忘れたドアホが、厳重注意処分を受けたとか受けてないとか。

端末モニターは、全て訪問者からは見えないようにセッティングされてるしね。


「……………………承知しました。10分程いただけますか?」


課長からの資料を渡されて表紙を一瞥して、何枚かめくって目を通してから、冷たいあしらいの彼女からの返事をもらった僕は、差し入れのドーナツとアイスコーヒーを人数分渡しながら、


「お願いします。これから佐木係長と話してくるから、よろしくね?」


資料室主任の片山君に返事を貰ってから、奥のデスクの佐木係長へ挨拶に向かった。

高卒入社三年目にして主任の役付きな彼女は、優秀の一言に尽きる実績を残してきた。

一言一品付けて資料をお願いするだけで、必要な分以上の物を用意してくれている。

適当な扱いをしてくる輩には、業務に支障のない範囲でテキトーな資料を渡しているようだが。

最近の我が社の業績向上の一翼を担っていると言っても過言では無いだろう。

最も、それをわかっている人材がどれだけ我が社に居るかは疑問だが。


資料室の責任者でもある佐木係長は、僕をこの会社に引き入れてくれた恩人で、『僕の正体』を知る数少ない人物でもある。

社内では、もう一人、先程の片山君に知られてしまっているけど。


「よう、盛山!久しぶりだな?元気にやってるか!どうした?」


「おかげさまで。暁商事を担当する事になりまして、資料をいただきに来ました。片山君に頼んであります。」


「う〜ん、暁商事か〜、新人に任せる案件とは思えんがな?九頭課長も何を考えているんだか。」


さすが、佐木係長!今貰ったばかりの案件を把握してるなんて。


「この案件、課長から直々にいただきましたよ。アドバイス貰おうとしたら、『自分で考えろっ!』と言われました。」


嘘は言ってないよ?正確には伝えてないけど。


「そっか〜、まあ、君なら大丈夫か。いつから掛かるんだい?」


「今からコンタクト取って、午後一で訪問してこようかなと?課長の資料見ただけでも急いだ方が良いかな〜と。」

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