人類は砂のもくずになりました
ちびまるフォイ
砂の押し付け合い
「おい、なんだあれ」
道行くサラリーマンが指さしたのは空。
青い空から砂がサラサラと降り注いでいた。
どれだけ目をひんむいても、どこから砂が流れてくるのか見えない。
空から降ってくる一筋の砂の柱。
砂は24時間止まることなく砂時計のように流れ続けていた。
数日後、地上の1階建ての建物は砂におぼれて見えなくなった。
「地上のみなさん!
高層ビルを避難先として開放しています!
砂に埋まる前に、必要なものだけ持って避難してください!」
あいかわらず砂漠の砂のようにサラサラの砂は空から落ち続けていた。
平地にある二階建ての建物が砂に埋まるのも時間の問題。
道路はとうに砂に埋まってしまい、電車や自動車も使えない。
ーー1週間が過ぎた。
地上の海や川は砂に埋れてしまった。
人々は電波塔や高層ビル、高い山に避難していた。
高階層のビルのハズなのに下の階層はすべて砂に埋れてしまい、
地上から見ると2階建て程度にしか見えない。
山もふもとはすべて砂に埋没しているので、
せいぜい公園の小高い丘のようにすら思える。
「私たち、このままどうなるの……?」
「わからない。だが、砂に埋れてたまるか」
ビルの屋上にいる家族はお互いに体を抱きしめあって結束を固めていた。
空から降ってくる一筋の砂は止む気配すらない。
毎日よどみなく砂を地上に降り注ぎ続けていた。
さらに数日がすぎる。
もはやビルだの山だのに避難していても意味がなく、
あらゆる人工物は完全に砂の下へ埋もれてしまった。
地上はだだっ広い砂漠だけになり、
砂漠の上では人間や動物だけが突っ立っているだけの不毛な地として残った。
そんな状態になっても、まだ空からは砂が落ち続けている。
砂場が広がるだけの世界になった頃、地上では散発的に争いが起き始めた。
「や、やめてください! それは私が家から持ってきた食料です!」
「うるせぇ!! こっちには子供がいるんだ!!」
かつて結束を固めていた家族の夫が、
砂地に取り残された他の人の食料を力ずくで奪っていた。
なおも抵抗する人に対し、父親は力いっぱい首をしめて殺してしまった。
食料の持ち主の遺体は砂の上に捨て去られ、
砂に埋れてもう見えなくなってしまった。
この事件を皮切りに、砂の地表に取り残された人たちによる争いが始まった。
「なに独占してんだよ!! みんなに分けやがれ!」
「そんなことしたら自分の分がなくなっちまう!」
「おい! こいつ缶詰持ってるぞ!! 取り上げろ!」
砂の上に残ったものはなにもない。
人々による資源の争いは人死にが出るほど苛烈になっていった。
砂に溺れて死んでいく人はごくわずかだったが、
人同士の争いによって砂の地表によって70%近くの人が死んでしまった。
やがて、そんな争いをする必要もなくなるほど資源が尽きると
砂の地に残された人々はただ絶望するだけとなった。
「食料も水もなくなってしまった。
このままではみんな砂に埋れてしまうだろう……」
誰もが呆然と空から降り続ける砂を見上げるばかりだったが、
たったひとりの若者だけが立ち上がった。
「諦めないでください。俺が砂にもぐって物資を持ってきますよ」
「なんだって? 砂に潜る?」
「この足元の砂の下には、きっとまだ持ち出せていなかった食料があるはずです」
「それはそうだが……。
地面を掘っても、この地上に戻ってくるには同じ距離……。
いや、倍以上の距離を掘ることになるんだぞ」
地面に潜っている間も砂は落ち続けている。
地上に戻ってくるためのゴールは常に遠くなり続ける。
「かまいません。このまま何もしなければ、ただ死ぬばかりです」
「すまん……。私達はもう体力が残ってない。
まだ若くて体力のある君がみんなのために砂の下へ向かってくれるかな」
「はい! かならず食料を持って帰ります!」
若者は砂の上に残された人たちに誓って、砂の下へとモグラのように進んだ。
「みんなを……みんなを助けるんだ!」
若者は掘って、掘って、掘り続けた。
かつて人々が暮らしていた地上に到達するまで力のかぎり掘り進めた。
幸いにも砂はサラサラだったので、
土を掘るよりもずっとスムーズに掘り進められた。
「あ、あった!」
ただひとり、砂の下へと向かった若者はついに人工物へと到達。
砂に埋れたそれらはかつて地上にあったショッピングモールだった。
砂がモールを埋めてしまったため、日差しは届かず
冷たい砂の中で冷やされて食べ物や飲み物は無事だった。
若者は自分自身の栄養補給をしつつ、
ある程度の物資をまとめてその先をロープにつなげた。
「これを持って帰ったら、きっとみんな助かるぞ……!」
地表への浮上には全部を持っていくことはできないので、
運びきれない物資はつないでいるロープの先を地表に持っていくことにした。
そうすれば、地上から生えているロープの先をたどることで物資を引きあげることができる。
まるでお祭りの千本引きのよう。
「みんな待ってろ! 今戻るぞ!」
若者は今持てる限りの物資をかかえて、砂の浮上をはじめた。
浮上は潜るよりも難しい。
上に潜っても顔をあげることはできない。
顔を伏せながら必死に掘り進めるが、まっすぐ進んでいるかもわからない。
蛇行して時間がかかるほど、今も砂は空から落ちてきて地表への距離が広がる。
「はやく、はやく向かわなきゃ……!」
若者は力が尽きるまで必死に掘り進めた。
そしてついに。
「や、やった!! ついに地上に出たぞ!」
砂の地表へと生還した。
若者は大きな歓声に迎えられると思ったが、
だだっ広く見渡しのいい砂漠の地表には誰もいなかった。
「おかしいな、なんで誰も……」
ただひとり残された若者だったが、すぐに理由に気がついた。
「がっ……はぁっ……これ、空気が……薄い……!?」
若者が地面に潜っている間も、地上には砂が降り注ぎ高さを上げていた。
やがて空気の層は薄くなり、地表に残された人で空気を使い切ってしまった。
すべての人は地表で息絶え、ただ砂の下に埋没して見えなくなっていた。
潜っていたことで若者ただひとりだけが無事だった。
「みんな、もう誰も……生き残ってないのか……」
せっかく持ってきた物資も施す先がなくなってしまった。
地表にとどまり続ければ若者も他の人と同じように窒息するだろう。
「このまま……死んでたまるか!!」
若者に残された選択肢はふたつだった。
1つは、地面に潜り直し砂の間にほそぼそと残る空気を吸いつつ
砂の下に残された物資で暮らしていく砂の生活。
そして、2つ目はーー。
若者は空を見上げた。
相変わらず空からは砂が滝のように振り続けている。
なんと若者はその滝に向かって体をつっこませた。
今度は潜るのではなく砂を泳ぐように滝を昇ってゆく。
「どうせ死ぬのなら、この先がどうなっているか確かめてやる!」
まるで鮭が激流をさかのぼっていくように、
若者は強い決心のもと落ちてくる砂の滝をあがっていった。
どれだけ砂を泳いだのかわからない。
無我夢中で砂をかき分け上に上にと登り続けた。
やがて、若者は地表に到達する。
「こ、ここは……」
砂の外は明らかに地球ではない場所だった。
紫色の太陽があたりを淡い紫色に染めている。
砂に埋れているが、見たこともない建築物がいくつも並んでいた。
砂の地表で暮らしているのは8本足の宇宙人だった。
地表に現れた地球宇宙人の若者にめんくらっている。
「◯△×■!?!?」
宇宙語で何かを訴えているが、若者にはわからない。
自分の言葉も通じないと思いつつ若者は叫んだ。
「あんたらが、ここの砂を地球に落としやがったんだな!!」
すると、言葉が理解できたのか宇宙人たちは触手を何度も振って否定した。
「うそつけ! 俺は落ちてくる砂をたどってここへ来たんだ!
砂のでどころはこの場所だろう! 許さないぞ!!」
宇宙人たちは必死に否定する。
やがて、1匹の宇宙人が触手をそっと空へと向けた。
それが答えだった。
「あ……」
若者は、宇宙人の星にも空から砂が落ちているのを見た。
落ちてくる砂がどこからやってくるのか。
それはどれだけ目を凝らしても、最後まで見えなかった。
人類は砂のもくずになりました ちびまるフォイ @firestorage
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます