第37話 サイバーパンクと話し合い

「……それで、お前だけが生き残ったってことか」

「は、ハイッ」

 ドッタは顔に汗が浮かぶほど緊張した様子で答える。なにしろ相手はロックリザードの幹部。本来は顔を見ることすらできないような相手だ。言葉を間違えれば、自分の命など簡単に失われるだろう。

 ロックリザードの幹部、ロンキドはドッタの腕を見る。

「切られたにしては腕が綺麗だな」

「それはイクシーが治したからです」

 瞳だけで、発言したバイセンを睨む。刃物のような視線だが、気力を振り絞り耐える。

「さっき言ってた、世迷いごとか?」

 最初にバイセンが話していた。時系列は先だからだ。腕から剣が生える子供に魔法が使える子供、馬もいないのに走る鉄の馬車に巨大な鎧を着て城をひとつ崩壊させるイクシーという男。この部屋にはロンキド以外に、護衛と部下を多数抱える顔役も数人いるのだが、全員が呆れた表情をしていた。バイセンも体験せずに聞いただけならば信じられなかっただろう。

「ドッタ。腕を見せてやれ」

「わかりましたっ」

 ドッタが腕を見せる。次の瞬間、掌から腕にかけてが縦に割れた。周囲の人間が目を見開く。

「腕が割れただとっ! どうなってる!」

「これで信じてくれましたか」

 ロンキドはドッタの中身が露出した腕を凝視している。

「この腕には武器が仕込まれてます。広い場所でなら実演してみせます。なあドッタ」

 ドッタは無言で何度も首を縦に振る。

「……来い」

 建物の中庭で、ドッタは緊張した顔で立っている。目の前には人の胴体ほどの丸太が立っていて、周囲をロックリザードの人間たちが囲んでいた。

 覚悟を決めたドッタは右腕を横へ伸ばす。

「ハッ!」

 前へ振られた腕が割れ、普通の人間には残像しか見えない速度で金属の鞭が飛び出して丸太に絡みつく。

 周囲の人間が驚きの声でざわめくと、鞭がドッタの腕に高速で収納される。超硬度の三角形チップが連なった鞭【ラットトゥース】は、丸太をズタズタに引き裂いた。木片が血飛沫のように舞う。

 中庭は沈黙に包まれる。丸太は切断こそされていないが、深いところは半分以上えぐれていた。剣や斧とは違う切り口は、分厚いノコギリで削ったようになっている。

「これで信じてもらえましたか?」

 バイセンは隣に立つロンキドへ言った。彼は口を小さく開いた驚愕の表情で振り向く。

「信じられない……あれは魔法具か?」

「イクシーによると違うらしいですが。何しろ魔法も魔物もない世界から来たらしいので」

 バイセンは苦笑する。

「あいつの力はこんなもんじゃないですよ」

「……こいつは、本気で交渉するべき相手だな」


「暇だなー」

 その頃イクシーたちは、狭い部屋に押し込められていた。椅子が人数分あるだけでテーブルはない。シャロは座らずにイクシーの横に立っているので、椅子はひとつ空いていた。

『偵察の結果、この周辺には銃器及び火薬の存在は確認できませんでした』

 イクシーにだけ聞こえるフィアの声。

 椅子に座っていないものはもうひとりいた。ただしそれは人間ではなかった。

 大きさと見た目は大きめの冷蔵庫だ。ガンメタル色で、下部にタイヤがついた四脚がある。これはイクシー専用の武装コンテナだった。

「しっかし、イクシーの体って変わったよな。変なブーツも」

 椅子に座って足を揺らしながら、ガレが言う。

 イクシーは自分の体を改造していた。両腕には長方形のパーツが取り付けられ、肘方向に飛び出すほど長い。足にもブーツに似たレッグパーツが装着されていた。首の後ろと背中にも追加されたパーツがあるが、白衣で隠されている。

「イクシー様」

 シャロが何かに気づいた様子で顔をひとつだけあるドアへ向けた。

『複数の人間がこちらへ向かっています』

 ガンメタル色の冷蔵庫からフィアの声。

 ドアが開くとバイセンとドッタ、ロンキドとその護衛たちが入ってきた。狭い部屋は窮屈だ。

「話は終わったの」

「ああ。それでロンキドさんがお前の話を聞きたいと言ってる」

 ロンキドは冷たい目で見ているが、イクシーは特に何も感じなかった。たぶん偉い人なんだな、という感想だった。

 そのとき場違いな音が聞こえた。ガレの腹の音だった。

「ちょっとガレ」

「だってよお、腹へったし」

 イクシーはそこで思い出す。

「そうだ。トラックも置いてきたよね」

「ああ。それがどうした?」

 イクシーはバイセンに提案する。

「お土産いっぱい持ってきたでしょ。あれトラックに積んでるからそれを持ってきて、食べながら話そうよ。どう?」

 バイセンの顔がひきつり、ロンキドは何だこいつはと眉をしかめる。イクシーはというと、ただ笑顔だった。

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