第34話 サイバーパンクの新武器をあげよう
「本当にやるのか?」
苦虫を噛み潰したような顔で問うのはバイセンだった。
「ハイ!」
強く返事をしたのは、ロックリザードの構成員である少年ドッタだ。両目に決意の炎が揺らめいている。
「大丈夫だよ。サイバネ手術は痛くないし、初期ランクだからすぐ終わるよ」
笑顔のイクシー。彼と一緒にドッタは手術室へと入っていった。
「本当に大丈夫なのか……」
来た道を戻るラボトレーラーのなか、バイセンはロックリザードと、ブレスホークと組んで襲ってきたドラグニアスとの戦争になるだろうと言った。それを聞いたドッタは、自分も参加して腕の怪我のお返しがしたいという。
「まあ総力戦になるから、お前も駆り出されるだろうな。だが、お前は殺し合いの経験があるのか?」
「……その、ブレスホークに襲われたときが初めてです。俺はこの前ロックリザードに入ったばっかりなので……」
「スラムから出たばかりのガキか。まあ死んでねえんだから運だけはありそうだな」
バイセンはそう言ったが、内心「コイツは死ぬだろう」と思っていた。威勢だけはいいが、実際にその時には怯えて動けなくなる。何度も見てきた人間と同じ種類だった。
「じゃあ俺が強くしてあげようか?」
不意にそんな事を言ったのはイクシーだった。
「は? どうやってだよ」
「サイバネ手術で。こんな感じに」
イクシーの腕が割れて中身を露出させた。異様な光景に、ドッタは悲鳴を上げて椅子から立ち上がって距離をとる。
「ひぇっ! な、な……」
「こうやって腕に武器を装備できるんだ。力も今より強くなるよ。そうだ。動画を見たほうがわかりやすいかな」
突然中空にホログラムが出現する。そこには右腕から剣を生やしたガレが、ブレスホーク男を切り捨てる映像があった。
「これって、何……?」
「ほら。こんな子供だってこんなに強くなれるんだよ」
映像のガレが、何人もの男を殺していく。相手が持つ剣を叩き割り、革鎧ごと体を切り裂く。子供の筋力では不可能なはずだ。それを軽々と右手だけでやってみせる。
ドッタの視線は、ガレの金属でできた腕に吸い寄せられてしまう。あれが俺にもあれば同じことが出来るかもしれない。
「種類もたくさんあるし、とりあえずリストを見てみない?」
イクシーの笑顔は、ある意味で悪魔の誘惑だった。
「終わったよー」
手術は三十分もかからず終了した。二人が手術室から出てくる。
プリンターで出力したサイバネ義肢を生身の腕と交換するだけなので、イクシーにとっては簡単すぎた。
「…………」
ドッタは新しい自分の右腕を、しげしげと眺めている。見た目は普通の腕だが、右肩から先は人工皮膚の下に金属のフレームと電子機器が詰まっている。
「見た目は普通の腕だな……」
「腕の武器を試して見ようか。場所はレイドアーマーの格納庫にしよう。あそこが一番スペースが広いし」
レイドアーマーの前、格納庫の片隅にイクシーは自分の身長程もある円筒形の物体を運んできた。
濃い青色のそれは、いわゆるサンドバッグだった。格闘技のジムに置いてある、パンチやキックの練習に使う器具。しかしこれはただのサンドバッグではない。バイオテクノロジーで作成された特殊な細胞の塊で、普通の銃弾では表面にめり込む程度、刃物で切りつけても傷をつけるのすら難しい。ゲームでは武器の威力を試すために練習場に設置されていたアイテムだった。
「これを狙って攻撃して」
サンドバッグから三メートルほど離れた位置にドッタが立つ。パンチもキックも届かない距離だが、何も持たない右腕を構える。
「ハァッ!」
右腕を振る寸前、腕が割れた。そこから鞭のような物が飛び出し、サンドバッグに巻きついたと思った瞬間、内蔵されたモーターが猛烈に回転し、鞭が腕の中へ戻る。一連の動きは一秒未満だったが、サンドバッグはズタズタに切り裂かれていた。
「これは……」
ドッタは呆然と自分の右腕を見ている。
「これが【ラットトゥース】だよ! 無数の特殊金属でできた三角形のチップが繋がったワイヤーで、相手を切り裂く武器なんだ!」
イクシーは嬉しそうに説明した。
バイセンは知らないうちに恐怖で顔が歪んでいる。こんな凶悪な鞭は見たことがない。剣も槍も届かない距離からあの攻撃が来るのだ。誰も近づけないだろう。
「これなら戦えるよねっ」
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