第28話 サイバーパンクとちょっとした歴史

「来るよー」

「「はい!」」

 子供たちは武器を構えて森の中、木々で暗い空間で光魔物の目を真剣な顔で見ている。

 魔物が突撃してきた。見た目は地球のイノシシに似ているが、足が多く六本もある。蹄のかわりに鋭い爪が生えていた。

 ライフル銃を構えた子供が射撃する。それは暴徒制圧用スタンガンだ。銃弾には細いワイヤーが繋がっていて、そこから高圧電流を流す。

 イノシシの魔物が悲鳴をあげて地面へ倒れる。まだ意識はあるようで、六本の足を動かす。

 続けてボウガンを構えた子供が矢を発射した。深々と魔物の体へ突き刺さる。そして槍を構えた子供が駆け寄ると、全力で突く。

「やあああっ!」

 チタン合金の穂先は魔物目玉を貫き、その奥の脳までも破壊して即死させた。槍を持つ子供が大きく息を吐く。

『対象の生命活動の停止確認』

「すごい。今回は動きがスムーズだったよ。慣れてきたんじゃない」

 イクシーの言葉に子供たちが嬉しそうにする。自分たちだけで魔物を倒したのは、これが三回目だった。最初は怖がってまともに武器を構えることもできず、イクシーたちが助けた。

「もうみんな戦えるんじゃねえか?」

「でも、たくさんの魔物に襲われたら危ないよ」

 ガレとオーフの会話を聞いて、たしかにそうだと考える。

「武器のことしか考えてなかったけど、防具が必要だよな。インベントリにあったかな」

 ゲームだと防具を装備するのではなく、サイバネボディの装甲を強化するので意識していなかったのだ。レイドアーマーやパワードスーツは防具になるのだろうかと、イクシーは思う。

「よし。いったん戻って次の子たちだ」

 一度に子供たち全員を指導するのは難しいので、複数の班にわけて魔物狩りを行うことにしていた。

 昼になる前に全員が魔物狩りを終えた。

「でもさ、魔物多くない? すぐ襲ってくるし」

 全員で昼食中にイクシーが発言すると、バイセンが呆れた顔で見る。

「森の中に行くからだろ。呪鎖の荒野の近くといえば、魔物だらけだって常識じゃねえか」

「いや知らないから」

 呪鎖の荒野は数百年前にできたという。かつては荒野ではなく、木々と草があり麦畑が広がり、大きな都市が存在していた。そこの領主でもあった魔法使いが狂い、恐ろしい魔法を使うと荒野となり、異常な強さを持った魔物が溢れかえる地獄に変わった。

「へー」

「知ってたか?」

 ガレの質問にオーフは首を横に振る。

「何で誰も知らないんだよ……」

 イクシーにとってここは見知らぬ場所であり、ガレとイクシーは貧しい村で生まれ外に出たことはなく大人も知識がなかった。シャロは記憶喪失である。

「今はいないが、強い魔物が荒野の外にも出てきたらしい。それだけ魔物が多かったってことだ。おかげで周辺の村や都市も襲われて、国そのものがぶっ壊れた。それ以来このあたりは国のない場所になったって話だ。おかげで貴族どもがいなくて、俺には気楽だがな」

「ええっ? 国がないの?」

「ああ。それぞれの縄張りを、自分たちで守ってる。俺がいるロックリザードみたいにな。そこを支配しているやつが正義で法律だ。逆らうやつはぶっ殺す」

「うわー。どっかの漫画か映画みたいな設定。だからこんなに野蛮なのしかいないのか」

 思わず上を見上げた。子供たちを拐ってきて魔物と戦わせたり、簡単に殺したり。この世界は命が軽すぎる。

「わかったか。だから移動するには護衛がいるんだよ」

「うーん」

 イクシーとしては別に護衛をしてもいいと思っている。ただここに残していく子供たちが気がかりだった。

 子供たちを元いた場所に帰そうと考えたのだが、全員が帰るのを嫌がった。幼く仕事もできないので親に売られた者や、家族がすでにいなくて居場所がない者ばかりだったのだ。帰っても幸せな結果にはなりそうにない。

 楽しそうに食事をする子供たちを目だけで見る。

「バイセンって強いの?」

「あ? ブレスホークのやつらに捕まったのは、人数が多かっただけだ。二三人相手なら負けるわけがねえ」

 歯を見せて凄むバイセンをスキャンする。レベルは十六。ガレとオーフのレベルは十九と高く、他の子供たちは十二から十五。魔物狩りでレベルが上がっていた。

「だったら安全そうかな? ドローンと防衛ロボットも置いておいて。それでも心配だなあ。やっぱりサイバネ手術だ!」

 ガレだけは乗り気だったが、それ以外の子供から拒否された。


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