第26話 side コウキ
「結局、俺が言った通りになったんだろ?だから、あんなに反対したんだよ」
隣を歩く保は、呆れた声で何度もため息を繰り返す。
こう言われるのをわかっていたから、会いたくなかったんだ。
「産まれた時から、こっち側なのに無理して女の人と結婚しようとするからこんな事になるんだよ」
保は、誇らしげに俺に言ってくる。
その言葉を否定する事が出来ないのは、その通りだからだ。
「まあ、まだ。子供がいないうちにわかってよかったじゃん。奥さんに説明して、さっさと別れてあげな。それが、コウキに出来る最後の優しさじゃないか?」
「そんな簡単に言うなよ!俺がいつ夕貴を嫌いだって言ったんだよ。嫌いじゃないんだよ。夕貴の事……」
「奥さん、夕貴さんって言うんだ。コウキは、俺や他の人達の事結婚式に呼ばなかったもんな。自分は、こっち側じゃないって線引きしたかっただけだろ?」
違うって否定出来なかった。
あの時は、夕貴にバレたくなかったから……。
俺が、そっち側だって。
「さっきのって、山波陽人だろ?」
「うん……そう」
「あいつに会ったから、こっち側に戻ってきたのか?」
「別に……そういうわけじゃない」
「嘘つくなよ。忘れられない相手だったろ?あいつ」
保の言葉に目を伏せた。
陽人は、俺を覚えていないだろうけど……。
俺にとって陽人は、初恋だった。
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「お前さ!何でいじめられてんの?」
「だって、僕。みんなと違うから……」
「違うって髪の毛が長いからか?」
「それだけじゃないよ。何て言うか……」
「スカートみたいなズボンはいてるからか?」
「うーーん。それだけじゃないってゆうか」
小学2年の夏休み。
俺は、お小遣いを貯めて女の子の服を買った。
女の子が、遊ぶおもちゃの化粧品なんかも買って……。
両親は、夏休みだけならと許してくれて。
俺は、近所の公園で遊んでた。
「女男!!」
「キモいんだよ」
「コウキは、おかま。コウキは、おかま」
同級生達にからかわれている所を助けてくれたのが陽人だった。
陽人は、俺を普通の人間のように扱ってくれて……。
「はるちゃん。いつも、遊んでくれてありがと」
「何言ってんだよ。お前は、俺の友達だろ!」
お前ってしか呼ばれてなかったから、きっと陽人は覚えてなんかいない。
だって、夏休みが終わって両親は、俺をこの街から追い出したのだから……。
「コウキ、あのね」
「いいよ。俺が話すから」
「何?」
「あのな、コウキ。新学期からは、お祖母ちゃんとお祖父ちゃんの所に行こうか」
「みんなで?」
「みんなは、無理だよ。コウキ、一人だけで行くんだ」
「何で?」
「向こうは、学校の人数も少ないからコウキにピッタリだと思うんだ。お母さんとお父さんを信じて言う事を聞いて欲しい」
祖父母の住む地域は、過疎化が進んでいた。
子供達は、ひとつのクラスに3、4人だったから……。
俺は、いじめられる事はなかった。
こっちに戻ってきたのは、分別がわかるようになった中学生の頃だ。
男を好きな自分は恥ずかしいものだと思っていた俺は、両親の為に隠し続けていた。
その気持ちが爆発したのは、保に出会った時で……。
まさか、保が受け入れてくれるなんて思わなかった。
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「保には、本当に感謝してる」
「何だよ。いきなり」
「保に出会わなかったら、俺は壊れていたから……。だけど、やっぱり
戻れないんだ」
「奥さんに嘘ついて、ずっといるのか?そんなの無理だろ?」
「出来るよ」
「出来るわけないだろ。いつか奥さんにバレた時、傷つくのは奥さんだぞ!嘘をつき続けるなら、一生つけよ。自分にだけじゃない。俺達にだって、俺は本当は女性が好きだったって話すんだ。こっち側にきたのは、ただの興味本位だったって。そしたら、例えコウキがいなくなっても誰の口からもバレる事はないから」
保の言葉が重く胸にのしかかった。この先、俺がついていく嘘は愛する人やかつての恋人をも苦しめていくんだ。
「保……。それなら、俺はどうすればいいんだよ」
保は、冷たい視線を俺に向ける。
俺は、この目が苦手だ。
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「コウキ、高校で彼氏ができたの?」
「何言ってるの母さん」
「母さんのパート仲間がみたのよ」
「俺は……俺は……。ずっと我慢してたんだよ。このままだと頭がおかしくなりそうだったんだよ」
「だとしても……。こんな裏切りはなかったわ」
「それなら、俺はどうすればよかったんだよ」
母は、俺に冷たい視線を向ける。
その目に、身体中が凍りつくのがわかった。
辛くて、悲しくて逃げたかったけど逃げられなくて……。
夕貴が、お義母さんに向けられる視線も同じで。
だから、俺は夕貴を守ってあげたいってさらに強く思った。
なのに……。
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「保……」
「結局、コウキはあの頃と変わってないんだよ。俺と付き合ってたのがバレた時、お母さんが悲しむから別れようって言ったの覚えてるか?結局、
「そんな事……」
「ないって言うなら、あの時、俺がどれだけ傷ついたかコウキに解るのか?あんな言葉言われるなら、好きな人が出来たって言われた方がまだましだったよ。だから、コウキの嘘や優しさじゃ誰も救えないんだよ」
保の言う通りだ。
しばらくして、俺は保に復縁を申し出て……。
俺達のデートを母が目撃して悲しんでおかしくなって。
だけど、夕貴と結婚ってなった時はおめでとうって言ってくれて嬉しそうに笑ってくれて。
ようやく、あの視線を浴びる事から解放されて……。
「今だって、救われてるのはコウキだけだろ?そのまま歩いて行った未来で誰が救われて幸せになるんだよ」
「嘘をつき続ければ夕貴や母さんが……」
「だったら、陽人ってやつが幸せじゃなくなっても気持ちに蓋をし続けられんのか?」
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出来るって言えなかった。
言えなかったから……。
今、こうやって陽人にすがりついてここまでついてきて……。
隣にある赤ちゃんの椅子。
俺は、陽人の子供を産んであげられない。
当たり前だし、頭ではちゃんとわかってる。
だけど、そのギャップがずっと苦しくて悲しくて……。
陽人と関係を持ったって、陽人が俺を愛してくれるわけじゃない事ぐらいわかってる。
だけど……。
「可愛くない」
陽人のその言葉に安心する。
与えられないものが嫌われていて正直嬉しいと思う。
こんな自分が最低なのはわかってる。
わかってるけど……。
「いつか、可愛いと思える日がくるかもしれないだろ?だから、陽人は自分を責めなくていいんだよ。もし、来なかったとしても。それを責める必要はないんだから」
陽人に寄り添ってるって……。
陽人の味方は、俺だって。
思ってもらいたいんだ。
そしたら、陽人がずっと俺を頼りにしてくれて、必要としてくれて……。
この関係に終わりなど永遠にこないのだから
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