第23話 side 陽人

コンビニに入って、適当に腹に溜まるものやら酒を買う。

コウキは、一人でお菓子やスイーツを見ていた。

お会計を済ませて、並んで歩く。

俺とコウキの間を流れる距離感は、微妙で……。

俺達は、まったく話さなかった。


まさか、浮気相手と一緒にここに帰ってくるとは思わなかった。

俺は、玄関の鍵を開ける。


「お邪魔します」

「どうぞ」


不思議と自分のした事に罪悪感がないのは何なのだろうか?



「つまみになるの買ったから、飲もうか?」

「うん」

「そこ座ってて」

「あっ、うん」


絵茉の椅子が目に入っても罪悪感はなかった。

むしろ、コウキがその横に座ってるのを見て滑稽にすら思える。


もしかして、俺。

子供、望んでなかったのかな?


買ってきた惣菜を電子レンジで温めながら、昔、先輩が言った言葉を思い出していた。




「えっ?離婚ですか?」

「ああ。向いてなかったんだよ。結婚」

「でも、もう五年もいるじゃないですか……」

「そうなんだけどな」

「離婚するの泰子やすこ先輩は、どう思ってるんですか?」


会社の先輩夫婦だった大山輝昭おおやまてるあき大山泰子おおやまやすこ

二人の幸せを心から願っていた俺は、その言葉に絶句していた。

まだ、しほりと結婚する前で独り身だった俺には先輩の向いてないの意味がわからなかった。



「泰子は、悲しんでたよ。俺の子供が欲しいから、そろそろ不妊治療したいって言ってたから」

「だったら、子供作ったらいいじゃないですか?そしたら、先輩の考えも変わって」

「無茶言うなよ。子供なんか出来たら、俺達の人生じゃなくなるんだぞ!それに、子供に十字架背負わせたくないしな」

「十字架ですか?」

「自分のせいで、両親は別れられなかったなんて思って欲しくないんだよ」


先輩は、悲しいとも困ったとも言えない複雑な顔をしながらビールをいっきに飲み干した。



「先輩が結婚に向いてないわけないじゃないですか」

「向いてないんだよ。俺も結婚するまで気づかなかった。だから、まだ独身の陽人にはわからないと思う。だからって陽人に結婚するななんて言わない。ただ、結婚って向き不向きがあるんだよ。どうやら俺は、誰にも縛られたくなくて家の中でも自由でいたかったみたいだ。同棲してたのに気づかなかったのは、あの頃は責任がついてなかったからだろうな」



先輩の言葉は、俺の中に深く重く突き刺さった。

だけど、あの頃の俺には関係ない問題で……。



「何か寂しすぎます。二人の事、入社以来ずっと見てきたんで」

「そう言ってもらえて嬉しいよ。だけど、本当。子供作る前でよかったよ。俺の友達がさ。子育てに向いてないって言って5歳の息子と7歳の娘置いて家を出たんだよ。それも、二人ともだぞ!その子は、今、祖父母に育てられてる。泰子の事、傷つけておきながら。それよりマシかな?なんて思って、馬鹿だよな」

「子供を置いてくなんて最低ですよ。先輩は、その人より全然マシです」

「ハハハ。ありがとな」

「離婚に賛成は出来ないですけど。二人が決めた事なら、応援します」

「ありがとな!結婚しても陽人は俺みたいになるなよ」


今なら、先輩の言葉がよくわかる。

俺は、あの日先輩に最低だと言った友人と同じだ。



ピー

ピー

ピー


トレイに惣菜を並べてコウキの元に持ってくる。


「こんな事言ったら駄目だろうけど、俺。結婚も子育ても向いてなかったのかも知れない」

「俺も同じだから、よくわかるよ」



コウキに言えたのは、コウキが絶対的に俺の味方だってわかっていたからだ。



「やってみなきゃわからないもんだな?」

「そうだな。何でもやってみなきゃわからないもんだろうな」

「だけど、絵茉にとって父親は俺しかいないのはわかってる。でも、俺」

「可愛くないのか?」


コウキの言葉に口に出せないでいる。

もし、それを言ったら俺は最低最悪な人間だ。



プシュ……。


「ぬるくなっちゃうから飲もう。乾杯」

「乾杯」


コウキの優しさに涙が自然と流れてくる。

俺の中をずっと駆け巡ってる酷い言葉。

口に出して、誰かに聞いてもらってスッキリしたい。

スッキリ……。











「可愛くない……」






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