第14話 彼女からの提案

「使いたくないよね」


私の表情を見て、彼女は苦笑いを浮かべる。


「まだ、信じたいでしょ?私も同じだから……」


小型のカメラをトントンと叩きながら彼女は遠くを見つめる。



「夫は、関係を長く続けるつもりなのだとわかった。それなら、を使わなくちゃいけないのはわかる」


私の言葉に、彼女は涙目で見つめてきた。


ドクン……胸の奥が痛む。


「夕貴さん……」


私は、彼女のカメラを持つ手に触れる。


「今朝、叔母と話してきたの」

「そうなの……」

「叔母はね。叔父に不倫をされていたから……。これも、叔母が使いなさいと提案したもの」

「それで、使おうと決めたの?」

「なかなか決められなかった。だけど、叔母の言葉に考えさせられたのは事実」

「どんな言葉を言われたの?」

「まだ、うちに別れたかったって……。そのが棘のように刺さってるの」


彼女の言葉に私の心臓は、ズキズキと痛むのを感じる。

私は、彼女から手を離そうとした。


「しほりさんは、どう思う?」


彼女は、手を握りしめてくる。


「娘の為にも……。その方がいいのかもしれないと思う」


裏切りは

だけど、それはだ。

には、何も関係ない。


「やっぱり、そうよね」

「夕貴さんは、まだ子供がいないのにこんな事、提案するべきじゃないのはわかってる。だけど……。夫を憎んで別れたら。大きくなった娘に私は、夫に会いたいと言われた時にって言う事が出来ない」


涙が頬を濡らしていくのを感じる。

彼女の気持ちを思うと自分がどれだけを言っているのかわかっている。


「しほりさんの気持ち、よくわかるわ」


彼女の言葉に私は、手を握り返した。


「私はね。ずっと許されない側のなの。それは、母からでね。夫は、私達家族の間を取り持ってくれたわ。だからこそ、になりたくない」


彼女の言葉に強いを感じる。


「夕貴さん。これを仕掛けましょう」


もう、迷う必要などなかった。


「その前に、音声重ねて聞いてみる?」

「そうね。これ……」

「ありがとう」


私と彼女は、昨夜の音声を重ねて聞く。

何の話をしているのか、理解出来なかったものが繋ぎ合わせればわかった。


「それと、これ」

「これは?」

「調べてもらったの。そしたら、私の夫としほりさんの夫は同じビルで働いてる事がわかったわ」

「って事は、出会いは会社?」

「そうなるわね。もしかすると、ビルの防犯カメラに接触する様子が映ってるかもしれない」

「すぐに調べられる?もし、調べられるなら見たい」

「しほりさんが撮った映像のようなものが映っていたらどうするの?」


彼女の言葉に迷いが湧かないのを感じた。

何故か、それならそれでいいと思えたのだ。

彼女との関係は片付けば終わるの何てわかっている。

だけど……。

彼女は、傍にいてくれそうな気がしていた。


「それなら、それで。仕方ないと思う」

「そう。だったら、すぐに行きましょう」

「はい」


私は、彼女から手を離す。

これが終わっても、私は彼女の傍にいたいと思ってしまう。

それほど、彼女はに似ていて……。


「大丈夫?熱があるんじゃない?」


彼女が私のおでこに手を当てる。


「だ、大丈夫。赤かったかな?」

「そんな気がしたけど……。違った?」

「本当に大丈夫だから……。行こう」


立ち上がった瞬間。

フラッと目眩がした。


「しほりさん。大丈夫?」


私は、彼女に支えられる。

ドキドキと胸の鼓動が耳まで聞こえてきて……。

彼女にバレてしまう気がした。


「ご、ごめんなさい。ちょっと目眩がして」

「少し休んで行きましょう。いっきに色々と話が決まったからついていけてないのかも知れないわ」


彼女は、私をソファーにもう一度座らせる。


「早く行かないと駄目でしょ。上書きされちゃったりしたら大変だし……。私は、大丈夫だから」

「大丈夫よ。だいたい、半年から1年は置いてたりするものよ。私の会社だって、1年間の防犯カメラ映像は残してるわ。DVDに保存して……。だから、大丈夫」

「それなら、よかった」

「それに、映像よりしほりさんの方が心配だから……。少し休んで、被るもの取ってくるから」


私は、ソファーにそっと横になる。話しながら、彼女が恥ずかしそうに目をそむけた気がした。

身体中の体温が高くなるのを感じる。

熱なんかないはずなのに、いっきに体が熱を持つ。

彼女は、自分の机の方に向かっていく。

暫くして、花柄のタオルケットを持ってきてくれる。


「薄手だけど、寒くない?」

「大丈夫。お言葉に甘えて、少しだけ休ませてもらうね」

「うん。ゆっくり休んでね」


柔軟剤の香りが、心地いい。

好きな匂いが似てるのがわかる。

私は、このまま彼女の香りにずっと包まれていたい。


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