第12話 叔母との再会

夫は、私への気持ちがと話した。

結局、夫が話したのはをしたくない事だけだった。

電話を切るのがわかっていたけれど、私は盗聴器を聞いていた。

独り言でも話してくれないかと期待していたからだ。

しかし、夫は何も話さない。

もう、今日は収穫は得られないのがわかる。

私は、盗聴器の電源を切った。

この日から、毎日のように夫を盗聴器で観察し続けた。

そんな日々が、が過ぎた。


リリリリーンーー


仕事の支度が終わり家を出ようとした私のスマホが鳴る。


「もしもし……」

『会社に行く前に、先にこっちに寄ってくれる?』

「わかりました」


叔母からの電話だった。

朝一番に、叔母に会いに行く。


「呼び出してごめんなさいね」

「いえ。伺うつもりでしたので」

「一週間が経って、はとれた?」


私は、叔母の言葉に固まっていた。


「その顔は、とれなかったのでしょう」

「どうして?」

「私は、あなたより先にやったんですよ。で」

「そうでしたね」

「証拠が残らないという事は、だからですよ」


叔母は、私の前にを差し出してきた。


「続けたいんです。相手との関係を……。だから、を残さないようにをするんです」

「そんなの、を見ればいくらだって。証拠なんて簡単に……」

「スマホ?そんな盗んだ証拠が何の役に立つのですか?それに、言い訳をされてしまえば終わりです。ちゃんとした不貞の証拠を突き付けなければ相手は言い訳をして逃れるのですよ。それに、その証拠を突き付けた結果。あなたが訴えられたらどうするんですか?お金は、あるかもしれない。でも、あなたの今の地位は?会社での立場は?それを考えて賢く行動しなければなりませんよ」


私は、叔母が置いたカメラを手に取る。


「これだって同じじゃないですか?結局、プライバシーの侵害などと言われたら終わりじゃないですか……」


叔母は、首を左右に振った。


「これを使うのは、証拠を突き付ける為ではありませんよ」

「じゃあ、何に使うんですか?」

「このカメラを設置して見るのは、浮気相手と会う場所です。紙にメモをするかも知れない。スマホのメッセージかも知れない。そのやり取りを見ていない所で削除したり捨てられてしまうば何もわからないのです。しかし、このカメラ達を設置すれば……必ず見れます。私も、そうだったからわかります。見たくない真実を見る勇気があるのなら、見た方がいいと私は思うわ」


肉眼で、カメラだと見つけれる程の大きさではないカメラ。

このカメラを夫の部屋に何台もつける。

確かに、盗聴器よりもは見つかるだろう。

まだ、躊躇ってしまう自分がいる。


「愛が冷めた気がしても、夫婦は夫婦なんですよ。どちらかが死ぬまで添い遂げようと誓った想いは、そう簡単には消せない。裏切られても、愛していたから信じたい。私にも経験があるからわかりますよ。ただ一つ言える事があるとすれば、私はをした事にはしていないという事……」

「どうしてですか?」

を殺してまで一緒にいる必要はないと思ったの。それにね。私は、君千嘉さんをこれ以上嫌いになりたくなかったのよ。したいとまで思った相手だったから……。君千嘉さんの幸せを願えるうちにしたかったのよ」


私には、叔母の言葉の意味がよくわかった。


「昔、母から言われた言葉があるの。は鏡のような存在……だから、を憎むような別れはしてはならない。それは、鏡の中のを傷つけるようなものだからと……。その言葉の意味を理解出来たのは、君千嘉さんとしてからだった」


叔母は、カメラを一つずつ確認しながら丁寧に箱にしまっていく。


「君千嘉さんと過ごしただと思わなかったのよ。もしも、あの時だと思うような別れをしていたら……。私は、私の全てをしていたでしょう。それがどれ程、なのか……。わかったんです。あのを出てから」


叔母は、箱にしまったカメラを差し出してくる。


「使うか使わないかは、あなたの好きにしなさい。ただ、あなたにまだ愛があるのなら……。愛があるうちに。その為の証拠を手に入れてね」

「わかりました……」


叔母の言う通りだ。

別れを選ぶなら、夫に対しての愛があるうちがいい。


「朝から呼び出してごめんなさいね。もう、こんな時間ね……。会社に行かないといけないわね」

「あの……。叔母様」

「何かしら?」


私は、どうしても叔母に話しておかなければいけない事がある。


の事です」

「花井が入院したのは聞いたわ。体調がよくなかったのね。花井も歳だから……」

「そんな単純な事ではありません。は……」


続けようとした言葉を飲み込む。


「花井は、そんなに悪いの?」

「いえ……。ただ、叔母様の第二の人生にが必要ではないかと思っただけです」

「家政婦なら足りているわ。だから、花井がいなくても……」

「叔母様。私、あの夜見てしまったんです。と叔母様の事を……。叔母様、もう縛られるものはないんじゃありませんか?」

「花井の事は、あのの中でだけの事。もう、終わった事よ。あなたが心配する事は、何もないわ」


叔母は、チラリと時計を見る。


「あなたには、あなたのやるべき事があるでしょう。私や花井を気にしないで構わないのよ。これを持って行きなさい。どうするかは、あなたが最後に決めるのよ」

「わかりました」

「ただ……。あなたの母親のようになってしまえば終わりなのはわかっていなさいね」

「わかっています。叔母様……」


私は、頭を下げて叔母の家を後にした。

。その事は、私が一番わかっている。

母が私に対すると同じようになったら終わりだと叔母は言ったのだ。

私は、ずっと母に

それでも、一緒にいるのはという鎖に縛られて離れられないからだ。


「会社に向かいますか?」

「お願いするわ」

「そちらは、預かっておきましょうか?」

「いえ、結構よ」

「わかりました。では、すぐに車を出します」


私は、流れる景色を見つめながら……。

母が許さないと言ったを思い出していた。

あの目、あの声……。

私は、本当に

私が、夫に同じ気持ちを抱いたら?

私は、一生母のようにを抱いて生きなければならないの……?

母の人生は、幸せそうにはとても見えない。

会社に着くまでの間、考え続けたけれど答えは出ないままだった。

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