第4話 黒づくめの女【修正しました】

会社についた私は、秘書の間小宮まこみやと今日の予定についての話を聞いていた。

いつもは、9時に出社するのだけれど……。

今日は、先方が8時しか無理だという。

その為、今日は受付の小山こやまさんと山村やまむらさんに朝の7時に出勤して欲しいとお願いしていた。

二人は、快く引き受けてくれてきちんと応対もしてくれている。


ただ……。

二人が応対している人物は、私が今日会う約束をしている先方ではない。

その人物は、全身を真っ黒でコーディネートしている。

嫌な予感が胸をざわつかせる。

その予感が的中したのは、その人物とすれ違う時だった。


【フルーティーフローラルの香り】


最近、夫がスーツにつけて帰ってくる香りと同じ匂い。

私は、一瞬でこの女が夫の浮気相手だと理解した。

気づけば、彼女を引き留めていた。

彼女は、私とは違い素朴な人。

夫が惹かれた理由がなんとなくわかった。

私とは、違う種類の人間。


こんな時間にここに浮気相手がやってきたという事は……。

お金を取りに来たのか?

妊娠しているのか?


もし、妊娠しているなら……。

私は、用済みで夫に捨てられてしまう。

動揺を悟られないように、彼女に話しかける。

夫の不倫相手かと尋ねた私に、彼女は何故か「違います」と答える。

その瞳は、揺らぐ事なく真っ直ぐと私を見つめる。


動揺しちゃダメ。

私は、いつだって凛々しくいるじゃない。

そう自分を奮い立たせるようにしながら、夫と別れてくれるのかを彼女に尋ねる。

自分が、酷く情けない顔をしている気がする。

それでも、私は夫を失いたくはない。


「協力して下さい」彼女の言葉を理解するのに数秒かかった。

私が、夫の不倫相手の為に何を協力すればいいのだろうか?

私は、彼女を社長室に連れて来た。


彼女と話をして、夫の不倫相手ではない事がわかった。

彼女の名前は、しほりさん。

話すとますます愛らしい人なのがわかる。


彼女が不倫相手ではない事に凄く安心した。

だけど、それと同時に、彼女が何かを隠している気がした。

私は、彼女が隠す【何かを……】見せてもらう事にした。

彼女が見せてくれた【動画】を見ながらやっぱりと思っている自分がいた。


その言葉を口に出すのはずっと怖くて仕方なかった。

今まで【私は、夫に愛されていない】と感じていながらも見ないようにする日々を送り続けていた。


夫と結婚を決めたのは、彼の言葉だった。

5年前、30歳だった私に友人の恵利華えりかが合コンを開いてくれた。


「30歳越えたらお見合いしなきゃならないんでしょ?」

「仕方ないよ。家の為だから……」

「仕方ないで、子供を産むの?」

「それは……親が……」

「好きでもない男の子供何か産みたくないし、育てたくもないでしょ!例え、家の為でも……」

「だけど、すぐに相手何か出来ないわよ。それに来月には、お見合い予定だし」

「だったら、今日行こうよ」


恵利華は、その場ですぐに男友達に連絡をとってくれて、その日のうちに合コンをする事になった。

恵利華が知人を呼んで、5対5の合コンが始まる。

私は、この合コンにあまり気乗りしていなかった。


「夕貴ちゃんって、綺麗だね。何て言うか人形みたいだね」

「わかる、わかる。居るだけで、別世界って感じ……」


やっぱり、こんな事しか言われないんだ。

私は、苦笑いを浮かべ続けていた。

結局、楽しくない合コンが終わり。私達は、店を出た。


「二次会行く人」

「夕貴ちゃんは?」

「私は、やめておきます。迎えが来ますから……」

「コウキは?」

「あーー、俺もやめとくわ。明日早いし」

「じゃあ、他は行けるって事で」


私と彼を残して、みんなは二次会に行く。


「じゃあ……」

「待って、待って。迎えが来るまで待っとくよ。一緒に……」

「いいですよ」

「危ないから……」


彼の言葉に胸がズキっとするのを感じる。

いつもは、すぐに迎えを呼ぶのに私は彼と少し話しをしたくて……。

迎えを呼ばずに、彼といろんな話をした。

気づくと、私はどうして今日の合コンに参加したのかを話していた。


「私、来月お見合いするの。それで、恵利華がこの会を開いてくれたの」

「へーー。いい男見つかった?」


私は、首を左右に振る。


「そっか。でも、君ならすぐに見つかるよ」

「そうだと思う。お金もあるし、見た目も悪くないから……。それに男は群がるようにくるんだと思ってる」

「何それ?本気で言ってる?」

「どういう意味?」

「君は、普通のどこにでもいる女の子だよ」


彼の言葉と優しい笑顔に、一瞬で惹かれるのを感じた。

今までと違って私を取り巻く世界が、キラキラと輝くのを感じる。


「また、会いたい」


私の言葉に、彼は頷いてくれる。

それから、私達はデートをした。

私は、両親に3ヶ月だけお見合いを待って欲しいとお願いして5回目のデートで、私は彼に告白した。


「いいよ。付き合おう」


彼は、ニコニコ笑ってくれた。

そして、穏やかで幸せな時間はあっという間に過ぎて……。

私は、彼にプロポーズをした。


「お金でもいい。見た目だけでもいい。私は、コウキと結婚したい」

「夕貴は、何でそんなに自分を卑下するの?俺は、夕貴のお金も見た目も関係なく傍にいるんだよ」

「でも……私。普通じゃ……」

「夕貴は、普通だよ。普通のどこにでもいる女の子だよ」

「そんな言葉を言うのは、コウキが初めてだよ」

「俺は、夕貴をシンデレラには出来ないよ。それでもいいの?」

「普通の女の子にして欲しい」

「それなら、出来る」


彼は、私のプロポーズを受けてくれて私達は結婚した。

今、思えば……。

私は、夫から言葉をきちんともらった事がない。

【好き】も【愛してる】も、全部私からで。

だから、彼女に見せられた【動画】でハッキリと気づいた。

私は、最初から夫に【愛されていなかった】のだ。


夫は、私を普通の女の子にしてあげると言っただけで……。

私を【愛してる】とは言っていない。

こんな簡単な事に私は、今まで気づかなかった。

それだけ私は、夫を愛していたのだ。

そして彼女も、また夫を愛しているのが痛い程わかる。

だからこそ、許せないのだ。

二人を地獄に突き落とせるなら、どんな事でもする。


彼女と別れ、私は変わらず仕事をこなした。


「お嬢様。お体大丈夫ですか?」

「えっ?どうして?」

「涙を流しておられるので、熱があるのかお体がしんどいのかと思いまして」


運転手の丸山まるやまに言われて自分が泣いているのに気づいた。


「疲れているだけだと思う。大丈夫よ」

「では、午後からの予定はキャンセルにしておくように間小宮さんに連絡しておきましょうか?」

「そうね。そうしてくれると助かるわ。あっ、ちょっとだけ、佐原さはらさんの所に連れて行ってもらってもいいかしら?」

「かしこまりました」


心が壊れている事に私は気づかなかった。

いつも通り出来ると思い込んでいた。


「つきました」

「ありがとう。丸山、待たなくてもいいわよ」

「いえ、お待ちしております」

「わかったわ」


私は、佐原佳代子さはらかよこを尋ねた。


「珍しいわね。夕貴が、一人で来るなんて……どうしたの?」


佐原佳代子は、私の叔母だ。

10年以上、叔父に不倫をされていて昨年ようやく離婚する事が出来た人物。


「佳代子叔母様。私に力を貸してくれませんか?」



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