俺はモテるために、彼女はウソのために、塩対応の幼馴染みと恋人ごっこが始まった。

@panda_san

第1話 神ハルと塩レナ


 学年が二年生になり、学校の雰囲気や生活にも慣れて来たこの頃。我が高では恋愛が盛んである。


「晴人ー今週は原宿に洋服を買いに行くって約束でしょ? イトーヨーじゃ嫌だからね」

「わかってるよ。舞の洋服……選んじゃうからね//」


 学校の階段ではこれだ。全く、つまらない。本当ーにつまらない。


「今週一緒にテスト勉強するって約束だろー?」

「覚えてるよ! カレンダーに赤マル付けといたから」


 教室ではこれだ。つまらない。本当ーにつまらないぞ。


「かずき……好き」「僕もモモちゃんが好き……」


 校舎裏ではこうだ。キスはせめて、校内でするのをやめてくれ。俺が可哀想だ。


 最近では、高校生のリアリティー番組や、SNSの普及などもあって、そりゃもう恋愛パラダイスだ。


 このパラダイスに——俺は足を踏み入れる事が出来なかった。


 昨日は学年でno.1と評判の美少女、千歳さんに告白し、真っ直ぐな思いを伝えた。その結果、どストレートにフラれた。


「千歳さん……俺、好きなんだ! 千歳さんの事が……初めて君を見た時から、好きでした! 俺と付き合ってください!」


「……気持ちは嬉しいんだけど。ごめんね、勘太郎くんに魅力を感じないの。恋愛経験とかもあんまり無いし……そう言うの分かんなくて」


 魅力を感じない……なんて言うストレートな断り方。恋人はおろか、友達にもギリギリ慣れないラインの振り文句。


 魅力を感じない……の後に続いた言葉が全く耳に入らずだった。


 千歳さんは、俺の初恋の人だ。本名は、千歳ちとせ はる。彼女は知らないだろうが、俺と千歳さんは中学の時に受験会場で出会っている。




***


 千歳さんは俺の前の席だった。彼女は、持って来たシャーペンが壊れてしまい、相当に焦っていたのだ。そこを俺が予備で持って来た鉛筆で彼女を助けた。


「これ! よかったら使って——」


「……ありがとう。ほんっとーにありがとう!!」


 彼女の白い手、透き通った肌、髪の毛からするいい匂い……何よりも横顔から、全てが可愛いいいいいいっ!!

 

  その時俺は、彼女の名札を見てしまい、名前を覚えていた。それがまさか、同じ高校に進学し、今では同じクラスになるとは。


***





 千歳さんは、誰に対しても優しく、スポーツ万能のバスケ部。そんな日の光を感じさせる彼女に付いたあだ名が、神ハル。神対応の千歳 春との事だ。


 そんな千歳さんは、この前まで三年の先輩と付き合っていたなんて噂があった。

 

 がしかし、「千歳さん、今フリーらしいぞ」


 その突拍子もない風の噂が耳に入り、ソッコーで告白した。結果は惨敗、魅力が無いと言われてしまっては、俺にもどうしたらいいのか分からなくなってしまい、絶望を感じている。




「そんなに、気を落とすなって——ほら、果汁100%のオレンジジュースでも飲めよ。ビタミン大事だぞ。勘太郎」


「高木ぃーーー。男ってどうやって、磨くんだよ。教えてくれよ、俺に」


「知らねーよ。そのうち、何とかなるだろ。髭とか、雰囲気とか、まあ社会人になれば、金とかさ」


「見た目とか、年齢の話? そうじゃなくて、今すぐに効くやつ。即効性のある秘薬みたいなのが欲しいんだよ……」


 放課後の下校中、友達の高木と一緒に街を歩いていた。俺はカラオケバイトのために、高木と別れた。

___________________________________





 バイトをして数時間経ち、集客のために看板持ちをやらされる。


「いらっしゃーせー。カラオケ今なら、ドリンク一杯無料キャンペーンやってまーす。ご来店をお待ちしておりまーす」


 集客をしていると、目の前から女子高生と男子高校生3人組が歩いてやって来た。


「ごめん、無理」


「そんな事言わないでさぁー。めっちゃ可愛いじゃん。いいじゃん。少し遊ぶぐらい」


「……無理」


 あれ……清水じゃね?


 どの角度から見ても可愛い整った容姿、クラスの女子が憧れる程よいスタイル。更には、とある理由で彼女は学年一目立つ存在でもある。


「ほら、カラオケあるし。どうよ?」


「何で、私が行かないと行けないの? ってか初対面ですよね。絶対無理」


 はぁ……すごい絡まれてるな。仕方ない、助け舟を出すか。僕は清水に声をかける事にした。


「清水。お前、休憩時間とっくに過ぎてるだろ! さっさとエプロン付けて仕事に戻れよ」


 清水は驚いた表情で俺の方を見る。俺は、何とか話の辻褄合わせようと、彼女に演技をしてくれと、左目でウインクをして頼んでみた。


「勘太郎……何で私がバイトしなくちゃ——」


 こいつ、やっぱり天然だ。


「すみませんねぇ、お兄さん方。ここまで、連れ戻してくれてありがとうございます。この子、いつも休憩時間にバイトサボる癖があって——」


 俺は清水の手を握りながら、身体を半ば強引に、こちら側に引き寄せた。


「——ちょっ//」


「チッ……なんかシケたな。もう行こーぜ」


 男3人組は行ってしまった。


「ふぅーー。男3人共去ったな。清水、大丈夫か?」


「あっ、ああ。手、手が」


「ごめんごめん、忘れてた」


 俺も恥ずかしくなり、清水と繋いでいた手を解いた。


「じゃっ!」


 清水は礼も言わずに、その場を立ち去り駅の方向へと消えていった。


「お礼ぐらい、言っても良くない?! まあ良いけどさ。なんか俺、魅力無いのかな、やっぱり……」


 さっき俺が助けたのは、清水 礼奈れな


 他クラスのイケメンや、一個上の先輩の誘いにもお堅い表情を見せて、斬り伏せる。まぁ、ここで言いたいのは男子だけではない。男女問わず、彼女は普段から塩、塩、塩の塩対応だ。


「清水さん、俺と付き合ってみない? 俺なら、君を満足させる彼氏になれると思うよ?」


「興味ないんで……無理」


 噂では高一の頃からモテまくっていたとか。告白されるたびに、男子を振って来たらしい。そんな事が続き、塩対応過ぎる彼女。


 そのせいあって、陰では塩レナと呼ばれている。


 そんな彼女なのだが、昔はこんなに塩対応ではなかったのだ。どちらかと言うと、ワンパクな女の子で、人とはコミュニケーションを頻繁に取る子だった。


 彼女は途中で転向し、たまたま高校が同じになったら、これだった。


 清水は去年違うクラスだったけど、今は一緒のクラス。


 塩レナって誰だよ? と思いワクワクしながら新しい学級に入ると、まさかの幼馴染みだったと言う話。


「あいつも十分可愛いけどなー。モテてるのに、なんで彼氏作らないのか謎だよなあー。あれ、何か落ちてる」


 女の子用のイヤーカフか? これ多分、清水のじゃないか? 明日会って渡すか。その日は、カラオケバイトを終えて、家に帰宅した。

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