転生神様のシュンパテイア ~天地開闢から始める世界創造物語~

クスノス

神格0 プロローグ

0日目(終わりの日)

山上護は、ただの会社員であった。そんな、彼の運命が大きく変わったのは、25歳の秋。少し遅い夏季休暇を取得した護は、絶景スポットとして有名な神社を訪れていた。


「これは確かにすごいな」


お椀状になった大地に隙間なく植えられた木々が揺らぐ。目の前に広がる油絵のような光景に護は魅了されていた。美しい花に誘われる虫のように、護は無意識に前へ踏み出す。


グギー…


しかし、その歩みは足元の柵に止められる。木製の柵は腰より少しだけ高いくらい。永い年月によりだいぶ風化していたそれは人を守るにはあまりにも心もとない。そんな柵の先は崖。高低差は30m以上ある。


(これ、落ちたら死ぬだろ。柵も古いし意味あるのか?)


護は突然の死の予感に先ほどまでの夢見心地から一気に現実へ戻ってくる。そうして、怖くなった護はその蠱惑的な光景から目をそらした。


そうして、なんとなく眺めた柵の人影が二つ。それは先ほどの護のように魅了された親子が身を乗り出していた。


「ママ、すごい!」


「そうね、すごくきれい」


子供はそのまま柵に体重をかけていく。それに危険性を感じた護はせめて柵が劣化していることは伝えるべく親子に近づいて行った。


ボキッ!


乾いた音を立てて柵の一部が折れる。


「「え!」」


突然のことに呆気にとられる二人。しかし、すでに親子を支えるものはなく、見えない手に掴まれたように奈落に引き込まれていく。


「間に合った!」


しかし、ギリギリのところで護が滑り込む。そうして近場の柵を掴み、全力で二人を神社側に押し返す。しかし、この時護は致命的なミスをしていた。


ボキッ!


護は必死であった。故にあれだけ危険と思っていた、に体重をかけて子供と女性を支えてしまった。壊れかけの柵に平均男性より少し重い男性の体重が合わされば結果はどうなるか。そんなことは決まっている。


気がつけば護の体は自由落下を始める。そうして護はこれから訪れる自分の運命を受け入れるように、そっと意識を手放すのだった。



気がつくと、護は真っ白な空間にいた。


飛び起きたことで、周囲の花びらが中を舞う。


「あれ、俺は確かにあの時…」


護は慌てて自分の体を確認するが、傷一つ存在しない。


「安心したまえ、君はまだギリギリ死んではいない。まあ、これからのじんせいは大きく変わってしまったがね。」


背後から響く声に護は振り向く。そこには30代ぐらい男性が立っている。


「さて、いろいろ言いたいことがあるだろうが、今は時間がなくてね。簡潔に結果だけ伝えさせていただく。」


「あの…」


「まあ、聞いてくれたまえ。質問はその後でもできる。そうだろう?」


護は現状に混乱しながらも、目の前の人を信用することにした。どうやったのかわからないが、結果的に救われた命がある。それだけで護が目の前の人を信頼するには十分だった。しかし、この信頼は数秒で変わることを彼はまだ知らない。


「まず、君には私の世界に来て貰う。申しはけないがこれは決定事項だ。いわゆる異世界転生というやつだ。」


(うん?)


「あと、肉体については再構築となる。これでも私は創造を司る神だからね。最高の器を準備させていただく。」


(は?神??再構築??)


「最後に転生後のじんせいについてだが、君には自分の世界を作って貰いたい。これはこちらの都合もあるからね。しっかりサポートさせていただくから安心したまえ。とりあえずここまで、何か質問はあるかね?」


「質問しかないんですけど?」


「なるほど、しかし本当に申し訳ないのだが、君の魂の状態が不安定になってきているため、時間がなくてね。」


護は自分の体に目を向けると、若干透けて来ていることに気がついた。


「故に、決定事項は先に実施してしまおうと思う。」


「え、ちょっと」


「では、よきを祈っているよ。親愛を司る神、護君。」


護は神秘的な光につつまれていく。

こうして、護の神生が始まったのであったのであった。



数ある作品より、お読みいただきありがとうございます。筆を執るのが初めてですので、つたない点があるかと思いますがお付き合いいただければ幸いです。

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