ただの幼馴染は色んな関係に変化していった。

塚本ユウタ

第0話 プロローグ

 高校生の時、唯一の美術部員だったことで『Color』をテーマとした文化祭のために、ポスターやアーチを作成することがあった。

 『色のない暗闇の世界にいた人間たちは、天使に色を与えられ――空らは何を思い、何を成し遂げるのか』

 作品を生み出すにあたって、まずはストーリーがナイト作り出せなかった俺は、文化祭のテーマから適当に話を作り出し描いた。

 そんな作品に心を持っていかれ、そのまま物語を完結させたのは演劇部部長兼生徒会長だった。


「すごく綺麗な会場にしたから、是非君にも来てほしいんだ」


 気まぐれに連絡をしてくる会長に呼び出され、ファミレスに向かうと招待状を渡される。

 新郎の欄には会長の名前、新婦の欄には、高校以来一切連絡を取っていない幼馴染の名前、『清水芙由』の名前があった。


「これ、俺が行っちゃ駄目な気がするんですけど」

「どうしてだい?」

「新婦に嫌われている」

「彼女は嫌ってなんかいないよ。ただ気まずいだけさ」

「だとしても、ですよ」


 受け取りを拒否し、一口水を飲む。


 高校二年生の一学期最終日を最期に、芙由は音信不通となり連絡を取る術がなかった。いや、正確には連絡を取れなかった。方法は幾らでもあった。彼女の兄についていっただけで、彼女の家は俺の住む家の隣にずっとあった。話をすれば、頭を下げれば会う機会を設けてくれたはずだ。

 それは彼女の親だけではない。友人やパートナーにたった一言「会わせてくれ」と伝えれば、幾らでも機会は作れたはずだった。


 でも、出来なかった。


 何を話せばいいのか、どう接すればいいのか、生まれたときから約十七年間ずっと隣にいたはずなのに、何も分からなかったのだ。

 だから、今、再び彼女と会える機会を設けられても断る事しかできなかった。


「なら、こうしよう。僕の結婚式に来てほしい。新婦が誰であれ、君に祝ってほしいんだ」

「……幾らでも祝うんで、結婚式だけは、いけません」

「昔から君は強情だな」

「会長は昔から面倒くさいですよね」


 彼から目を逸らし、外を見ると雨が振っている。車は水しぶきをあげながら走り去り、傘を持っていない人間は鞄で頭を守りながら走る。

 皆が忙しなく行動しているなか、俺の時間だけは何時も何故だかゆっくりに感じる。


「まあ、でも今回は手段を選ばないでおくよ」

「会長がいつ手段を選んでいたんですか」

「はは、間違いないね」


 会長は笑い、俺は溜息をつく。


 彼の言った通り、十年来の友人や俺のパートナーを使って、無理やりにでも結婚式に連れ出そうとする。梅雨の真っ只中にも関わらず、空と海は青く、太陽が照らす浜辺は輝いている。

 案内人によって式場に脚を踏み入れると、目の前に飛び込んでくるステンドグラスは、幻想的な空間を作り出している。


 チャペルからは外の景色を見渡せ、今から開かれる式の主役たちを祝福し、まだ登場もしていない二人を想像して、涙で目の前を滲ませた。


 

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