第2話 ハッピーハロウィン trick&treat !(If お菓子ストーリー)

 今夜はハロウィンパーティーでご馳走様だから、お昼はさっぱりと和食で。

 おやつもそれに合わせて、エタンが職場に戻る直前、早めに準備した。

 もちろんハロウィン風の和テイストで。


 あらかじめ昼飯時に作り、くっつかないようちょっと甘さ少なめ砂糖水をかけて、冷蔵庫に保存してたそれを出す。


 それからこれも。


「わあ……コニーこの赤いゼリー綺麗だね!」

 クレールが早速嬉しそうに入れ物を除く。

 美的感覚が優れた彼は綺麗なものが好きなんだろうなあ、と私は思ってる。


「うん、これはこないだの残りの寒天で作ってるの。液体と寒天、そこにレモンとか酸味のもの入れて三分弱火で煮るとね。

冷めても固まらずにテロンとした滑らかゼリーソース状になるのよ」


 ほらね、と言いながら、三つのガラスの器に少しスプーンで入れ分けた。

「ちょうどいいサイズの器がこれだったから。なんか夏っぽいよね? ごめん」


「いや、コニー。キラキラして綺麗だよ」


 うぐっ、またクレールってば。

 そんな風に見つめながら嬉しそうに言われたら、まるで私が綺麗って言われたみたいな気分になっちゃうじゃん!


 次に砂糖水かけといた白いやつを入れて……。


「お! それって餅か! 団子か?」


「そうね、その仲間で白玉団子っていうんだよ。もっと簡単に作れるんだ、捏ねて茹でるだけで。それにね、できたのを冷たくてしといても硬くならないの。だから冷製和風デザートとかに使われてるよ。あと餅よりも腹にたまらないものとして、おしるこにも。食べたことある?」


「いや、ねえな。『甘味処』っていう和食デザート屋には入ったことないから」


「そっか。今日のはちょっとさっきの寒天の果物ソースと合わせた変わり種だから、普通の和風デザートとじゃないのよ。

ねえ、私もこっちの世界の甘味処に行ってみたいから、いつか一緒に行こうね!

あ! 待って待って。これ仕掛けがあるのよ。見ちゃダメ。向こうで待ってて」


 これは白い白玉団子だけど、ただの、ではない。


 クレールを意識した緑は抹茶で。

 エタンのはカボチャの裏ごし。

 私のは花茶を濃く煮出して。

 それぞれ色つけして捏ねたのを用意する。

 ココアのは少量で充分。


 ココア、各種の色、そして多めの白いやつ、と順に包み、潰さないよう半分に綺麗にスパッと切って、形を整えて。

 本当はまん丸が良いんだけど、火が中までしっかり通らずに粉っぽいのも嫌なので、ちょっと平べったくしてる。


 わたしは三つ。

 彼らは二個づつ三種で六つ。

 あまりのにつはお代わり用に置いといた。

 もう一つは茹で確認の時に私が食べた。


 器へと盛り付ける。

 上に白がくる向きに白玉を置いて、上からそっと、さっきの赤いソースをかける。


 水にカシスピュレ、砂糖、レモン、寒天を混ぜて煮て作ったもの。

 苺や木苺より黒みがあって暗い、赤ワイン薄めたような色味。

 先にガラスの器にスプーン一匙敷いたのは、白玉が皿に張り付かないよう念の為だ。


 今日は緑茶じゃなくて、スッキリ渋みのない紅茶を合わせる。

 さあ召し上がれ〜。


「おお! 大人っぽい赤い色合いがハロウィン風なのか? うまそうだ」


「まずはスプーンでかき混ぜてね。

白玉は味が三種類あって、ちゃんと柄を見て欲しいの。

驚かせようと手間かけたんだよ〜」


「へえー。すごいねコニー、頑張ったんだね。どれどれ」


「「……」」


 うふふ、驚いた?

 サプライズ成功かな。


「こ、これって僕たちの……」


「やべえ、赤いソースが急にやけに……」


「よくできてるでしょう! 

三人の瞳に合わせた目玉の白玉だよ〜、えへへ。

でもクレールの目玉はもっと鮮やかな緑だし、エタンの目玉はカボチャ味で、カシスに合わなかったらごめんね。初挑戦なんだ。

さあさあ、エタンの午後の出社もあるし、あんまりのんびり食べてると、白目が充血してグロくなっちゃうよ? 早く食べよ!」


「もう充分こえぇよ……」


「ああ……。でもコニーが作ったものだ。美味しいのは間違いない。

よし。……むぐ……あ、美味しい……」


「だな、さっぱりしてツルッといきそうなのをちゃんと噛みしめると、それぞれの白玉の味付けとも合って……」


「エタンの目玉も案外美味しいね!」


「えっと……その言いにはうんって言いづらいかな……。」


 うーむ、かぼちゃとカシスは相性いいんだなあ、新発見だ!


「苺だとちょっとピンクで可愛すぎるから、今回はドス黒さがあるカシスを選んだんだけど。

味も酸味が効いてててサッパリして、白玉との相性も悪くなかったね!」


「ピンクよりドス黒さが、コニーにとって今回重要だったんだな……」


「味付け自体は、硬めに捏ねた白いのに後から足すだけだから、どうってことないんだけど。

まあぶっちゃけ、目玉作りはめんどくさいかったわぁ。もしも次、白玉団子を作る時はただねて茹でるだけね。

これは今回だけの特別仕様、ごねんね」


「いや、ははは。大変なら申し訳ないから、普通でもう充分だよ、むしろそれで……。

でもこんな風に見た目に手の掛かったものは初めて見たし、食べたよ。

本当に驚いた。いろんな意味で……」


「地球にはさ、結構いろんな色で模したお菓子があるよ。でもそういうのは、色が着色料で身体に悪そうなのが主流だから私はちょっとね。

 夜は怖いやつだとあれなんで、可愛いおばけちゃんとかのモチーフにしようかと思ってるんだ。あと万聖節らしい豊穣をイメージした味主体の食事をね」


「そっか、コニーが作る可愛いは、きっと可愛いのど真ん中だろうな、クレール。

俺らは可愛いもんは大好きだぜ。

そんで美味いもんもな! すげえ楽しみだ。

でもあまり無理はするなよ。

一緒に楽しむことが一番で、コニーのことが大事なんだから」


 男子二人は自分の色の目玉をもう一個づつ追加で平らげ、エタンが出かけるのを見送った。


「エタンもクレールも可愛い好きなんだね。

エタンはともかく、クレールはなんか綺麗なものが好きなイメージあるけど。

あ、さっきのおやつのデザインはもしかして怖かった?」


「まあかなりびっくりしたから、その点コニーのイタズラは大成功だよね。

ふふ、僕はね、怖いよりもそうだなぁ。

コニーみたく、優しくて可愛くて甘くて綺麗なものが好きなんだ。

さ、紅茶もう一杯、僕が淹れようね」


 そんなこと言うクレールこそ、優しい気遣いと笑顔を浮かべて。

 綺麗な髪をサラリと耳にかけ、キッチンへと向う後姿を見ながら、私は思う。

 クレールはクレールの好みのまんまだなあ。

 ふふ、密かにちょっぴり笑ってしまった。






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