二羽の鳥 製作三日目 その2
さて、昼食は牛丼でもと思ったものの、K市には牛丼屋は2つある。
そう、大手チェーン店のYとSだ。
うーん、どっちに行くか。
港から近いのは、Yなんだよなぁ。
よし、今日はYにしとくか。
次は、Sに行く事にしょう。
もっとも、次も牛丼食べたくなるかは不明だが……。
ともかく、そうと決まれば迷いなし。
すぐにYに行くと、牛丼を頼む。勿論、大盛りつゆだくである。
あと、お新香と豚汁を忘れない。Yの豚汁、個人的に大好きなのである。
で、がっつり食事を終わらせると、さて本日のメインてある買い出しスタート。
買い出しリストを作成していたので、どう回るかは頭の中で計画済み。
問題なく買い出しリストを消化していく。
あ、途中、本屋に寄るのも忘れない。
面白そうな本を店内見回ってちょいちょいと買う。
ネットで買うのは大体、シリーズものであり、新規開拓は、ネットの友人に薦められてとか、無料を呼んでとか以外は、自分で本屋ですることが多い。
よくあるじゃないですか。本屋で見てたら、おっ面白そうとかね。
そして、本を買った後、本屋の自販機で、自販機専用の飲み物を買う。
店舗で売ってないやつとかがたまにあり、こういう機会じゃないと中々飲めないからねぇ。
そういう感じで、息抜きをいれつつ、買い物再会。
そして、最後に一週間+αの食材を買うと、最後に向かうのは行きつけの店である。
その店の名は『星野模型店』。
K市唯一の模型店であり、その品ぞろえは、隣のF県の結構有名な模型店やチェーン店にも負けないほどである。
また、品ぞろえだけでなく、いろんなイベントをやったりとかされており、かなり有名な店である。
そんな店だが、実はここは数少ないこっちの世界でのうちの商品を扱ってくれている店舗でもある。
もちろん、ノーマルのガレージキットではあるが。
それに店長の知識がかなりすごく、また融通が利く為、機材や材料もここにお願いしている。
また、趣味で模型を作ったりをするので、それもここで買っていたりする。
自分で一から作るガレージキットは、動物や鳥とかがメインなのだが、模型製作は、船や飛行機が多い。
キャラクター物は以前ちょっといろいろあって作りたい心境にはならない。
店舗の駐車場に車を止め、店の入り口のドアを押す。
カランという鈴の音と共に、大きすぎでもなく、小さすぎでもない大きさで「いらっしゃいませ」という声が掛けられる。
声の方向を向くと、大きめの眼鏡をかけた女性が微笑んでいた。
この店舗の店長、星野つぐみさんだ。
「あ、つぐみさん、どうも」
ぺこりと頭歩下げる。
そして、店内の一角に向かう。
そこは、ガレージキットのコーナーで、いろんなガレージキットが並べられているが、その中でも一際目立つ部分がある。
ショーケースに入っている完成品見本と、その下の棚に並ぶ商品。
もちろん、自分のガレージキットだ。
おっ。いくつか減ってるな。
嬉しく思っていると、後ろからつぐみさんが声をかけてきた。
「売れてますよ。やはり、価格が抑え気味なのと、かわいいのがいいみたい。最近増えている女性モデラーさん達が買っていかれてます」
その言葉に、思わず嬉しそうに言う。
「それはうれしいですね」
そして心の中で、続きの言葉を呟く。
『以前は、話題にならないほど売れなかったんですけどね』
そう、自分は、動物や鳥のガレージキットをやりたくていろいろやってみたけれど、すべて失敗してしまった事があるのだ。
チョコエッグ。
あのチョコレートの中に玩具が入っているお菓子。
あれが、自分が造形師になろうと思った起点である。
あんなリアルな動物や鳥を作りたい。
そんな思いが、突き動かしていったのだ。
しかし、現実は、厳しい。
動物や鳥のガレージキットなんて、誰も振り向かなかった。
皆、夢中になって買うのはキャラクターものやメカばかりであり、イベントに出ても売れて一つか二つ程度。
偶にじーっと見ていく人もいるが、大抵の人が、いい腕してるのになぁといった言葉やあのキャラなら買うのになといった言葉ばかりであった。
そして、自分を曲げて二度ほどキャラクター物を出したことがある。
だが、散々だった。
確かにある程度は売れたが、評価が酷かった。
出来はいいけどあのキャラクターではないという言葉から始まり、別物だよとか、リアルすぎて怖いとか、下手すると罵詈雑言をぶっ蹴られ散々だった。
その余りにも酷い評価に、ボロボロになった。
自分を曲げてやった結果だったから、余計だったのかもしれない。
だから、あの時は造形師を止めようとさえ思った。
だが、そんな時に祖父が亡くなり、そのアトリエがあった島を譲り受け、そして、気が付けば造形師として今も続けられている。
そして、少しずつではあるが、こっちの世界でも僕の作ったものが売れている。
不思議なものだな。そう思いつつ自分で作った見本を見る。
つぐみさんは、そんな僕の様子を目を細めてみていたが、口を開く。
「それで売れた分の補充を次にお願いしたいんですけど」
その言葉で我に返って答える。
「来週になりますけど、大丈夫ですか?」
「ええ。よろしくお願いします。それと新作、出来たらすぐ回してくださいね」
微笑みつつそう言われて益々うれしくなってしまった。
「はい。よろしくお願いいたします」
「それで今日はどうされます?」
そう問われて、少し考えこんだ後、口を開いた。
「そうですね。頼んでいた材料と模型を幾つか買っていこうと思ってます」
「わかりました。では、準備しておきますね」
そう言うと、つぐみさんは奥の方に行く。
恐らく頼んでいた材料を持ってくるつもりなのだろう。
なら、今のうちに買う模型を決めておくか。
そう決めると、艦船と飛行機模型のコーナーに足を向けた。
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