第20話 時也SIDE 怒れるチャンプ


「これは一体なんなんや」


話さない訳にはいかないな。


実はな…


「なんや、それ!兼六が揉めて、賢吾が絡んで怪我して、やり返そうとした健四郎も怪我した…なんの冗談や! それで、相手は何人や…5人か10人か?」


「いや、リングの上でちゃんとした試合だ…」


「相手は世界ランカーなんか? 俺がぶちのめしたるわ!」


「それがライセンスも持っていない…」


「なんの冗談や!賢吾は兎も角、健四郎は東洋チャンプなんだ、そんな奴に負ける訳ないやろうが! どんな小細工をしたんや」


小細工なんてしてない。


だからこそ困るんだ。


「いや、グローブもバンテージもこちらが巻いた。だから小細工なんてしていない…」


「会長、それじゃただのど素人に東洋チャンプの健四郎が負けた言うんかい? それで2人は俺に合わす顔が無くて此処に居ないんか? まぁ良い…情けなくてカッコ悪いが、気にせんとけと言って置いて! しかし、情けなぁ!」


ああっ言いたくない。


言うと時也の性格からして碌な事にならない。


だが、言わない訳にはいかない。


「二人とも、病院送りだ、兼六くんはまぁ痣だけで済んでいるが、賢吾も健四郎も大怪我を負って、入院中だ...医者の話ではもう二度とボクシングは出来ない、後遺症が残るそうだよ…」


「なんや、それ」


「時也、言って置くが、ちゃんとした試合の結果だ! しかも、嫌がる人間を無理やりリングにあげた結果だ、恨んでも仕方ないぞ…よくよく聞いてみれば、最初のイザコザも兼六から仕掛けたんだし、健四郎に至ってはうちのジムの人間を使い拉致するように連れてきたんだ…余り大事にしないでくれ」


「そうか? 俺はこれでも世界チャンピオンじゃ、馬鹿はもうせんよ!それで翔子は2人の看病の為に此処に居ないのか…」


「いや違う、実は…」


これで時也は止まらなくなる。


諦めるしかないのか…


「連れて行かれただと! どういう事だ!」


話すしかないな。


「相手が得にならない事はしたく無いと言い出したら翔子ちゃんが『あんた健四郎が怖くて逃げる気なんでしょう?』となって自ら賭けの対象になったんだ」


「なんや、それ…」


「なぁ、堪えてくれ時也、次の試合まであと2週間なんだ…なぁ」


「会長、これでなんで俺が堪えないとならんの!」


「健四郎と翔子ちゃん、賢吾に兼六が馬鹿やっただけだ…」


「女を拉致って何処が正しいんだ」


「これを見ろ!確かにやり口は汚いが、翔子ちゃんの件もちゃんと弁護士が間に入って契約されている!しかもこれを作ったのが南条財閥の顧問弁護士、えげつない程巧妙に作られていて…他の弁護士に聞いてみたが『勝てない』という事だった」


「なぁ、会長、俺は…俺は...駄目だ、堪えられない!どうしたら良いんや?」


仕方が無い。


「どうしてもやるなら…正式に試合をするしか無い『得が無いから』そういう人間相手だ…翔子ちゃんを取り返したいなら賭け試合しかないだろうな…」


「そうか、ならば俺の此処2試合分の取り分6千万、これを賭ければ良いんか?」


「多分、半分で充分じゃないか?」


「いや、翔子の為だ、全額で交渉してや…その代り勝った方の総どりや、俺は負けないからな、腹は痛まない」


「時也なら…そう思いたいが、相手は亀岡仙人の弟子だ…お前だから絶対に勝つとは言えない」


「亀岡仙人なんや?」


古い話だ。


時也が知らないのも無理は無い。


「亀岡仙人とはな…」


俺は亀岡仙人の話を話した。


「獣と戦う格闘家? 鯨やシャチ巨大なサメと戦い生涯を終えた? そんなの嘘やん…詐欺やで、詐欺!」


「俺もそう思っていた。都市伝説だと!だが、実際に賢吾や健四郎がたったのパンチ1発で壊されたんだ! 賢吾は兎も角、東洋チャンピオンが1発でおしゃかだ!信じるしか無いだろう…」


「確かに強いのかも知れないが獣よりなんて…」


「確かに亀岡は高齢と病気で獣には勝っていない!だが獣と戦い生き延び続けていた、病気にも関わらずだ…晩年の口癖が『亀岡流は非力なる人間が獣を超える為の技』そう言っていたそうだ」


「それ、マジか?」


「ああっ、少なくとも彼奴は亀岡の鉄の拳を持っていた、人間を一発で壊せるパンチだ。なぁすぐにでも翔子ちゃんを取り戻したいのは解かるが、此処は空手家を招いて対策を練るべきだ」


時也程の動体視力ならあのパンチは恐らく避けられる。


だが、あれは正に空手で言う1撃必殺。


あれを喰らえば時也でも1発で沈む可能性が高い。


2枚看板の1枚はもう失ってしまった。


この上時也まで失う訳にはいかない。


「そこ迄会長が言うなら解った…だが一体誰に学ばせるつもりなんだ」


「伝手はある。実戦空手仏神会館長、飛鳥謙信を頼ろうと思う!悔しいのは解るが1週間、1週間だけ学び特訓してくれ」


「解った…その代り1週間たったら、そいつぶっ殺しても良いんやな!」


「ああっ、解った」


クソ、また賭け試合をしなくちゃならんのか…


だがやらないと時也は前に進めない。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る