第19話 蘇った伝説


まさか、あの伝説の亀岡流の後継者が居たのか…


だが、賢吾に続いて健四郎のこの有様。


東洋チャンピオンがたったパンチ1発で壊された。


しかも顎が複雑骨折で再起不能。


賢吾の方はイカさまだと言えても、これはイカさまではない。


バンテージを巻いたのもジムの人間。


グローブのチェックは俺がした。


何処にも不正が入る余地等、全く無かった。


それで、アレだ。


最早認めるしかない。


彼奴は、亀岡象将の関係者だ。


亀岡象将…通称亀岡仙人。


強いと言われながら、殆どの戦いで勝利していない。


だが、その理由も解らなくもない。


なにせ、亀岡が戦っていたのは人では無い。


鍛え上げた亀岡の拳は鉄の様に固かった。


一切の筋トレをすて古武術の動きだけを日常にして鍛え上げたその体は、常人離れしたスピードを身に着けていたとも聞く。


亀岡曰く『儂は一瞬で人間の頭をハンマーで殴れるような物じゃ、だから人間とは戦わぬ』と言い、人と戦わず、闘牛や熊、挙句は虎とも戦った。


人は『狂人亀岡』そう言った。


ただ、負ける為に強い獣と戦い大怪我をしていく狂人。


だが、亀岡の体の事が解ると、違う話になっていく。


まず、亀岡は闘牛と戦った時に既に86歳の老人であった。


もし若ければ?


そういう疑問が格闘技マニアの間で話に上がった。


だが、それだけではない…実は、この獣たちと戦った時、亀岡は末期のガンであった。


その為、もし健康な体で若ければ、あらゆる獣に勝っていたのではないか?


そう言う論議が醸し出された。


亀岡には弟子はいない。


だから、あくまで論議の中から出ない。


亀岡の最後は、入院中、闘病の辛さから逃げる様に逃走。


そして入水自殺した。


と言う話だが…此処からもまた尾ひれがつく。


亀岡が自殺した海岸に靴とあった遺書には…


『強い奴と戦い、人生を締めくくる』


そう書いてあったそうだ…


そして、亀岡が入水自殺した海岸には無数のシャチの死骸が打ち上げられたとか、6メートルのホオジロザメの死骸が打ち上げられた、挙句の果てにはマッコウクジラの死骸が打ちあがった等の不確かな情報が出回った。


あくまで、これは伝説。


いや、冗談紛いの笑い話の都市伝説だ。


だが…俺は見てしまった。


『亀岡流飛竜拳』


人間の骨を簡単に破壊する拳。


あの狂人が密かに弟子をとっていた…それしか考えられない。


こんなの詐欺じゃねーか。


格闘経験が無い…そう言いながら、あんな物騒な技使いやがって。


何が、空手を少しだ…


だが、どうすんだ…これ…


うちのジムに来年から入所して新人王を狙う筈だった賢吾。


そして、東洋チャンピオンだった健四郎。


それがぶっ壊された。


これはジムとして凄い痛手だ。


その状況で、翔子ちゃんが連れ去られた。


時也が出ない訳がない。


翔子ちゃんは時也の彼女だ。


グレて悪い道に進んでいた翔子ちゃんを時也は時間を掛け、説得して真面な道を歩めるようにした。


それが連れ去られた。


世界チャンピオンの鶴橋時也が壊されたら、このジムは終わる。


どうすれば良い…


「なんや、会長浮かない顔して」


「時也?」


「遠征から帰ってきたら辛気臭い顔して、うん、健四郎は居ないのか?翔子はきてねーの?」


「ああっ」


どうして良いか俺には解らない。



◆◆◆


「時也ってもしかして有名人?」


「呆れた、格闘家なのに知らないの?日本が産んだ数少ないミドル級の世界チャンピオンじゃない?」


「なに、それ?」


「鶴橋三兄弟の長男、世界ミドル級チャンピオン鶴橋時也…良くテレビにも出ているじゃない?」


「格闘技、あまり好きじゃないんだ」


「そう? だけど『亀岡流飛竜拳』だっけ? 凄い技使っていたじゃない?」


俺が小さい頃入院していた時、同じ部屋のお爺ちゃんに、つい虐められていると相談したら…『壁をたたくのじゃ』と言いながら拳の握り方を教えてくれたんだよな…


チョキの状態から人差し指と中指も握り込む。


その状態だと中指の第三関節が飛び出るから…そこで壁を叩けって言うんだ。


『叩き続ければ、強くなれる』


そう言っていたんだよな…多分耄碌した爺さんの与太話なんだけど、子供の俺には解らなくてひたすら壁を叩いていたんだよな...


だから嘘だ。


こんな技は無いが、まぁ適当で良いよな。


「亀岡流の空手だよ…」


こんな物で良いだろう…


俺はもう人外だから、普通に考えて人には負けないだろうからな。


「そう、それじゃ頑張って時也を倒してね!」


「え~と」


「時也の弟二人を病院送りにして彼女迄寝取ったんだから…絶対に時也と揉めるわよ?」


「ハァ~まだ戦わないといけないのかな…」


「こんな可愛い、翔子ちゃんを彼女にしたんだから…頑張れ!」


そう言いながら翔子は俺に抱き着いてきた。


やるしか無いのか…


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る