第7話 【過去】地獄の始まり…早く死にたい



「何故、此処にきたんだ、もっと近くでも良かったじゃないか?」


「いや、ちょっとだけ、此奴に同情したんだ、此奴まだ何もしていないんだろう?ただ『スキル強奪』のスキル持ちなだけだしな。命令には逆らえないが、楽に死ねるこの場所にしてやろうと思って…」


「確かに、ゴブリンの巣やオークに比べたら此処は天国だ、運が良ければ、快楽の中で死ねるからな」


「恨まないでくれよ!此処はバンパイアとサキュバスが巣にしている血と快楽の地下城だ!運が良ければ快楽の中死ねる…」


どうせ、死ぬんじゃないか…


まだ喋れないし、動けない。


俺は此処で死ぬのか。


異世界なんて来なければ良かった。


特殊なスキルで浮かれた俺が悪いのか…


俺は…いや、もう良い。


同級生もこの世界も全部が俺の敵だった。


それだけだ…


俺は一体、どんなスキルを奪ったんだ。


もしかしたら…なにか反撃...


「悪いな、万が一お前が逃げ出し、反撃されても困るから、右手首を貰っておくぜ!右手が無ければスキルは発動しないからな」


やめろ…やめてくれ...


俺が入っている袋に手をいれると、騎士の男が俺の右手を切断した。


「馬鹿、なにやっているんだ! 此処はもう快楽の地下城の前だ血は不味い…えっ、グハッ」


「あらあら、久々の獲物ね…うん美味しいわ」


袋越しに血が飛び散ったのが解かった。


一体何が起きているんだ。


「酷い、全部吸い尽くして…久々の獲物なのに…殺しちゃうなんて、生き血の方が美味いのよ、ペロっ」


「化け物め…死ね」


何が起きているか解らないが、争っているようだ。


「此処は女バンパイアとサキュバスの巣窟、もし抵抗しなければ苦痛なく殺してあげるわよ」


「我が剣は炎」


「残念…ね」


争いは一方的で騎士の敗北で終わったようだ…


「あら、この袋になにか入っているわ」


「嘘、人間…しかも異世界人…」


「これは、凄いご馳走じゃないかな…持ち帰らないとね」


体が動かない俺が目にしたのは、騎士を面白半分に殺し血を吸いながら俺を見つめる妖艶な美女達だった。



◆◆◆


『助かった』


そう思ったのは大間違いだった。


今の俺は無数の美女に囲まれている。


幼女から熟女まで…


「あはははっ、これ最高だわ…こんな上手い血は初めてだわ」


「極上のワイン、それに匹敵するのがこの血だわ」


「ううん、血だけじゃないわ…精の方も最高…吸っても吸っても吸い尽くせない極上の物よ」


「た、助けてくれーーーーーっ」


毒だったのか睡眠薬だったのか解らないが此処でようやく薬が薄まってきたのか声が出せるようになった。


「あら、あら、痛い事はしていない筈よ? それにこんなハーレムはなかなか経験できないでしょう?」


確かに見た目はハーレムだ。


更に言うならハーレムなんて規模を遥かに超える美女の群れ。


見た感じ、傍に居るだけでも50は下らない美女から美少女、美幼女がいる。


そしてそんな美しい女たちの前で俺は裸で…噛みつかれ、吸い付かれていた。


確かに痛くはない。


痛くはないが無数の女が牙を剥いて噛みついてくるし、吸い付いてくる。


「嫌だ嫌だ嫌だーーーーっ!助けて、助けて…糞 スキル強奪、スキル強奪――っ」


「あら、何かしたのかしら…」


一瞬牙を離したが、何も起きないと解ると再び噛みついてくる。


そうか…


『そのスキルは人間にだけしか使えないらしいわ』


此奴らはどう見ても人間じゃない。


このスキルは意味がない。


「ぎゃぁぁぁぁーー助けて、助けてーーっ糞っ、ステータス」


「あはははっ、貴方右手が無いのよ? 知らないの? 右手が無いとスキルを持っていても、使えないのよ…馬鹿ね」


そうなのか。


だから右腕を切断したのか。


そう言えば騎士も言っていた気がする。


もし、スキル強奪が魔物相手に使えても、右腕を切断された俺には何も反撃は…出来ない。


このまま血や精を吸われ続ければ死ぬだろう。


あの時、騎士が言っていた『運が良ければ快楽の中死ねる』って。


女バンパイアも言っていた『もし抵抗しなければ苦痛なく殺してあげるわ』と。


「…抵抗はしない…好きなだけ吸えば良いさ…」


俺は静かに目を瞑った。


バンパイアに血を吸われても、サキュバスに吸い付かれ皮膚から精を吸われても此奴らが言っている通り、痛みはない。


だが、見てしまうと無数の牙が噛みついている様子が見えるし、吸い付いている姿が見える。


そんなのは見たくはない。


きっと、もう俺は女とのキスには嫌悪感や恐怖しか感じないだろうな...


怖さしかない。


「しかし、なんでこれで死なないのかしら?」


「もう、何十人もの同胞が血を吸い続けているのに死なないなんて…あれれ、よく見ると手が生え始めているわよ」


「不味いわ、手が生えたら反撃してくるかもよ」


「引き千切っちゃいましょう...ねぇそうしよう」


「どうせなら足も、なんだか体が動くようになって来てるし、足も取っちゃった方が良いわ」


「そうね」


「「「「そうしましょう!せーの!」」」」


ビチビチッーーッ


「うわぁぁぁぁーーーー!ぎゃぁぁぁぁぁーーーーーっ痛い、痛いっ ふんぐっううん」


四肢が千切られた。


転げまわる様な痛みの中急に唇が奪われた。


俺の人生最初のキスは血の味がした。


「うんふぐっうんうん、美味いわ、私は口から精を吸わせて貰うわ…噛んだらその目を潰すわよ?」


「うんぐっううんっ、ハァハァ痛い…」


「ぷはぁ…サキュバスは夢魔とも呼ばれているのよ、身を任せなさい、そうすれば、痛みすら忘れる快感をあげるわ…受け入れなさい」


「ハァハァうんぐ…ふぁい」


俺には、もう受け入れるしか無かった。


それは人間の尊厳を捨てる事なのかも知れない。


恐怖、痛みから逃げる為にはそれしか無かった。


早く、早く…死にたい。


この恐怖が終わるなら…それで良い。


少しでも早く...終われ。












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