第33話 一回立場を入れ替えて考えてみたら分かりやすいと思いますよ

 私は歩美を学校近くにあるショッピングモールのカフェに呼び出していた。この前才人とカップル限定メニューを頼んだあのカフェだ。それぞれメニューを注文した後、歩美から口を開く。


「それで私と話したい事って何ですか? まあ、何と無く想像はつきますが」


「それは勿論才人の事よ」


「やっぱりそうですよね」


「ちょっと歩美に相談したくてね」


 ラブホテルで一線を越えてから一週間以上が経過したわけだが、私は才人の今までと同じように接する事が出来なくなってしまったのだ。

 勿論才人の事を嫌いになった訳ではない。むしろ前よりも好きになったくらいだ。だが才人の事を見た瞬間ドキドキし過ぎて何も話せなくなってしまった。だからあの日以降私と才人は顔を合わせていない。

 その事を私は歩美にも洗いざらい話した。すると歩美は少し呆れたような顔で口を開く。


「真里奈さんって意外とうぶなんですね、その辺は全然気にしないのかと思ってました」


「才人とあんな事をしたんだから気にしないなんて無理よ」


「私のアドバイス通りにちゃんとお兄ちゃんを誘えたのは本当に偉いと思いますけど、まさかこうなるなんて予想外でしたよ」


 実はあの日の夜、私は才人がお風呂に入っていた間歩美に電話していた。そこで歩美から才人を誘えと言われたのだ。

 歩美曰く才人はめちゃくちゃヘタレだから何か決定的な事がないとこれ以上私達の関係が進展しない可能性があるからと。

 だから私は勇気を振り絞って才人を誘う事にした。そして無事に手を出させる事に成功したというわけだ。まあ、私もその後こんな事になるとは思ってすらいなかったわけだが。


「てか今これだけ動揺してるのによくお兄ちゃんと最後までできましたね、私的には恥ずかしくて途中で辞める可能性もあるかもって少し思ってましたけど」


「……お互い深夜テンションだったから完全に勢いでやった感じね」


 正直あの時の事はあまり記憶に残っていない。気付いたら全てが終わっていたのだ。


「とりあえず真里奈さんの話はよく分かりましたけど、今の状況は正直あまりよくないですね。お兄ちゃん色々誤解してるみたいで落ち込んでますし」


「ち、ちょっと誤解してるってどういう事よ!?」


「お兄ちゃん、真里奈さんから嫌われたと思ってるみたいです」


 歩美からはっきりとそう言われて私は凄まじいショックを受けた。


「私的には全然そんなつもりはないのに……」


「一回立場を入れ替えて考えてみたら分かりやすいと思いますよ」


 歩美にそう言われて私は立場を逆にして考え始める。態度が急によそよそしくなって話しかけても適当で目すら合わせてくれない。挙げ句の果てにLIMEのメッセージも既読スルーされる。

 うん、どう考えても嫌われて距離を取られているとしか思えない。そこまで考えた私は自分の愚かさにようやく気付く。


「こ、このままじゃ才人に嫌われちゃうじゃない!?」


「確かに今のままだとかなり不味いですね」


「私はどうすればいいのよ……」


 ようやく事の重大さを認識し始めた私は頭を抱えてただただ狼狽える事しかできない。


「だからお兄ちゃんの誤解を解きましょう、今なら全然間に合うので」


「でもどうやって誤解を解けばいいのよ?」


「お兄ちゃんは今真里奈さんから嫌われていると思い込んでいるのでまずはその辺りから解消した方が良いですね」


「そうね」


 それから私達は才人の誤解を解くための作戦会議を始める。しばらく二人で話し合った結果、歩美に色々と説明をしてもらい私から電話を掛けて誤解を解く方向で決まった。


「そう言えば今の偽装カップルっていつまで続けるんですか? そろそろ終わらせても良いと思いますけど」


「お、終わらせるってまさか才人と別れろって事かしら?」


「そんなわけないじゃないですか、そろそろ本物のカップルにステップアップしましょうって事です。それが今回の件で出来た距離を修復する一番の近道だと思うので」


「でも才人に振られるかもしれないし……」


「そこは大丈夫です、お兄ちゃんは間違いなく真里奈さんの事を好きなので」


 弱気になっている私に対して歩美は強い口調ではっきりとそう言い切った。


「ほ、本当?」


「何年もお兄ちゃんの妹を続けているので普段の態度とかを見てたら考えてる事は大体分かります」


「良かった」


 才人が私の事を好きだと分かればひとまず安心だ。


「ちょうど明日板橋区で花火大会があるのでお兄ちゃんと一緒に行ってください。そこで完全に仲直りをしてついでに本物のカップルになりましょう」


「えっ、明日!? それはちょっといくら何でも急過ぎる気がするんだけど……」


 せめてもう少しだけゆっくりと考える時間が欲しい。


「仲直りするのは早ければ早い方がいいですよ、それとも真里奈さんはお兄ちゃんと仲直りしたくないんですか?」


「そんな事ないわ」


「なら明日決着をつけるしかないですね。あっ、私も全力でサポートするのでそこは安心してください」


「ありがとう歩美」


 私は歩美に感謝の言葉を述べた。歩美の方が私よりも年下のはずなのにめちゃくちゃしっかりしている。本当に中学三年生なのか疑わしいレベルだ。


「じゃあ明日の事を話しましょうか」


「ええ」


 私達は引き続きカフェの中で作戦会議を続けるのだった。

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