第17話 なんでさっきから前屈みになってるのかしら?

 俺達が保健室からグラウンドに戻ると片付けが始まっていた。どうやら思ったよりも時間が経っていたらしい。


「あーあ、50m走とハンドボール投げをやり損ねた」


「才人も再テストの時にやるしかないわね」


「あれって確か放課後に集められるだろ? もうその時点で面倒なんだけど」


「諦めなさい」


 それから俺と真里奈は片づけに参加してカラーコーンやハンドボール、ラインカーなどを体育倉庫へと運んでいく。


「これで最後か」


「普段あんまり運動しないから今日は疲れたわ」


「確かにスポーツテストって一日で一気にやるもんな、分けてやる学校もあるみたいだけど」


「面倒な授業が一日潰れるからそれはそれでラッキーだけどね」


「おいおい、とても優等生とは思えない発言だな」


 今の真里奈の発言を教師達が聞いたらショックを受けるに違いない。


「別に私は勉強がそれほど好きな訳じゃないのよ、必要だからやってるだけだし」


「まあ、好き好んで勉強をしている奴の方が少ないか」


 二人でそんな会話をしながら体育倉庫から出ようとしていると入り口の方からバタンという重い扉の閉まる音とガチャっという鍵がかかるような音が聞こえてきた。


「……なあ、鍵が閉まるような音が聞こえてきたのは俺の気のせいか?」


「ううん、私にも聞こえてきたわ」


「ひょっとして俺達、閉じ込められた……?」


「とりあえず確かめてみましょう」


 嫌な予感がしたため慌てて開けようとする俺達だったが、どれだけ頑張っても目の前の扉は開きそうにない。


「ちょっと本当に閉まってるじゃないの」


「俺達が中にいる事を一切確認せずに閉めたみたいだな」


「どこの誰が閉めたかしらないけどちゃんと確認くらいしなさいよね」


 そう言いながら真里奈はイライラした顔で扉を蹴っている。


「蹴っても開かないからやるだけ無駄だ」


「そんなの分かってるわよ」


「とりあえず他に扉を開ける方法が無いか調べようぜ」


 しばらく真里奈と一緒に何とか外へ出る方法がないか色々と探してみたが、残念ながら何も見つからなかった。


「誰か俺達がいない事に気付いてくれればいいんだけど」


「帰りのホームルームの時間になっても私達がいなかったら流石に気付くでしょ、問題は体育倉庫の中に閉じ込められてるって発想になるかどうかよね」


「長期戦になりそうな予感がする」


「今出来る事は何も無いしここで大人しくしてましょう」


 無駄な抵抗を諦めた俺達は近くに置かれていたマットへと座る。


「へー、マットって思ったよりも柔らかいな」


「そうね、体育の授業でマットなんてあまり使わないからこんなに柔らかいとは思わなかったわ」


「これなら普通に寝れそうだ」


「ひょっとしてここに泊まる気?」


「そんな訳ないだろ」


 いくらマットが柔らかいとは言え体育倉庫に泊まるなんて絶対にごめんだ。


「泊まりで思い出したけど昔はよく私の家に泊まってたわよね」


「確か小学生の頃だっけ? そんな頃もあったな、真里奈の寝相が悪くてよくベッドから落とされてたのは今でも覚えてる」


「なんでそんな事を思い出すのよ」


「その記憶があまりにも強烈すぎるからな」


 今では考えられない事だが俺は真里奈と同じベッドで寝ていた。それは子供同士だったから出来た事で今同じ事は流石に出来ない。

 保健室で転びそうになった真里奈を抱き止めた時にも思ったがとにかく体の色々な部分が成長しているため一緒に寝るのは理性的な意味でまずいのだ。

 そこまで考えた俺だったがさっきの真里奈の体の感触を思い出してしまい下半身が元気になり始めてしまった。こんな事を真里奈に知られたら絶対に罵られるため隠さなければならない。


「ねえ、才人。なんでさっきから前屈みになってるのかしら?」


「い、いや。何でもないぞ」


「怪しいわね、何か隠してるんじゃないの?」


「マジで何でもないから」


 そう言って慌てて誤魔化そうとすると真里奈は立ち上がって俺の前にやってくる。


「それで才人は私に何を隠してるわけ?」


「マジで勘弁してくれ」


「ほら、大人しく白状しなさい」


 そう言って真里奈は俺の肩を掴んでくる。それに抵抗する俺だったが、真里奈が諦めてくれそうな気配はない。


「ここまで必死に抵抗するって事はよっぽど知られたくない何かがあるみたいね、ますます知りたくなったわ」


「いやいや、どんだけドSなんだよ」


 そこから数分間真里奈と攻防を繰り返していると外から体育倉庫の鍵を開けるような音が聞こえてくる。恐らく誰かが助けにきてくれたのだろう。

 安心して体から力が抜ける俺だったがそれがよく無かった。突然俺の体から力が抜けたせいで真里奈がバランスを崩してしまったのだ。そのまま俺達は二人揃ってマットの方へと倒れる。


「才人、八雲さん、助けに来たぞ……って、何やってんだよ!?」


「へー、真里奈って中々大胆ね」


 体育倉庫の中に入ってきた航輝と朝霧さんは次々にそう声をあげた。状況が理解できない俺と真里奈だったが、すぐに自分達の体勢に気付き二人揃って顔が真っ赤になる。

 今の体勢は押し倒された俺の下半身の上に真里奈が跨っている形になっているため側から見たら一線を超えているようにしか見えない。


「俺達が必死に探してやってたって言うのに才人はお楽しみの最中だったんだな」


「ねえ、真里奈どうだった? また感想を教えてよ」


「ち、違うから。俺達は何もやってないから」


「そ、そうよ。才人とは何もなかったから勘違いしないでよね」


 結局、航輝と朝霧さんの誤解を解くまでに結構な時間がかかってしまった事は言うまでもない。

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