第14話 ちょっと才人、もっとちゃんと抵抗しなさいよ

 真里奈の家に到着した俺は風呂場を借りてシャワーを浴びていた。濡れた制服に関しては真里奈に乾かして貰っている。


「マジで生き返るな」


 真里奈の家でシャワーを浴びるのは少し変な感覚だったが、雨水で濡れた体に温かいシャワーから出るお湯が染み渡ってめちゃくちゃ気持ちよかった。

 シャワーを堪能した後、脱衣所に用意されていたバスタオルを使って体を拭いてドライヤーで髪を乾かし始める。俺の髪はそんなに長く無いため割とすぐに乾いた。


「まだ制服も乾いてないみたいだし、適当に時間でも潰すか」


 流石にパンツ一丁で真里奈の家の中をウロウロする事は出来ないため、そのまま脱衣所に留まってスマホをいじり始める。

 しばらく待っていると脱衣所の外から足音が聞こえてきた。思っていたよりも早かったがもしかしたらもう乾いたのかもしれない。そんな事を思っていると突然脱衣所の扉が開かれる。


「……えっ?」


「あら、才人君来てたのね」


 扉を開けたのは真里奈のお母さんだった。どうやら俺がここにいる事を知らなかったらしい。


「へー、昔よりも男らしい体つきになったわね」


「き、急に何するんですか!?」


「えっ、才人君の筋肉を堪能させて貰ってるだけだけど?」


 なんと真里奈のお母さんは俺の上半身を触り始めたのだ。これが男女逆だったならどう考えても事案に違いない。こんな様子を真里奈に見られたらかなり面倒だ。


「ママ、脱衣所の前で何やってるのよ!?」


「あっ、真里奈おかえり」


「ただいま……ってそうじゃないわよ。脱衣所の中にはパンツ一丁の才人がいるのよ?」


「知ってる、だから才人君の筋肉を触らせて貰ってるの」


 真里奈のお母さんは平然とそんな事を言ってのけた。


「ママってそんな趣味あったの!? と、とにかく今すぐ辞めなさいよね」


「えー、もう少し触りたいな。才人君もそんなに嫌がってなさそうに見えるし」


「ちょっと才人、もっとちゃんと抵抗しなさいよ」


「真里奈待て、それ以上こっちに来ると……」


「……えっ?」


 パンツ一丁の俺の姿が見える。そう言おうとしたが残念ながら手遅れだったらしい。


「きゃあぁぁぁ!?」


 俺の姿を直視した真里奈は顔を真っ赤にして大きな叫び声をあげた。


「ほら、言わんこっちゃない」


「真里奈は大袈裟ね、昔は才人君と一緒によくお風呂入ってたっていうのに」


「ママは一体何年前の話をしてるのよ、いいから才人はさっさとこれを着なさい」


 そう言って真里奈は顔を真っ赤にさせたまま何かを投げつけてくる。


「なんだよこれ?」


「パパの服よ、体型が似てるから多分問題無く来れると思うわ」


「ありがとう」


「ほら、ママは早くこっちに来る」


「あっ、才人君の筋肉が……」


 真里奈のお母さんは残念そうな表情を浮かべていた。いや、あんた既婚者だろ。渡された服を着終わった俺が脱衣所を出ると真里奈が待ち構えていた。


「着替え終わったみたいね、制服が乾くまでまだ時間がかかりそうだからしばらくはその格好よ」


「ああ、助かる」


「とりあえず私の部屋に行くわよ」


 俺は真里奈と一緒に部屋へと向かう。


「それで何をするんだ?」


「うーん、そうね……今日は勉強するって気分でも無いしテレビゲームでもしましょう」


「オッケー、真里奈とゲームするなんて久々だな」


「そう言えば子供の頃はよく一緒にしてたわね」


 そんな事を言いながら真里奈はテレビに接続されていたゲームの電源を付けてソフトを選択する。


「へー、オリマカートか」


「そうよ、これなら二人で遊べそうでしょ」


 オリマカートはスーパーオリマブラザーズというゲームに登場するキャラクター達がレーシングカート風の乗り物で競争するレースゲームだ。

 コース上に多彩なギミックが配置されていたり、レースを有利にするための様々な効用を持つアイテムが登場する事がこのゲームの特徴となっている。

 リモコンを受け取った俺は操作キャラを選択し、真里奈がコースを選び終わるまで待つ。


「じゃあ早速始めるわよ、どうせ勝つのは私だと思うけど」


「まあ、ゲームなんだし気楽に楽しくやろうぜ」


 それからゲームを始めた俺達だったが結果は俺の圧勝だった。俺は昔からオリマカートをかなりやっていたので真里奈より強いのは当たり前だろう。

 てか真里奈の場合は普通にCPUにも負けているためむしろ弱いと言える。


「さっきのタイミングで甲羅投げるのは卑怯でしょ」


「いや、あのタイミングで使わなかったらいつ使うんだよ」


「悔しいからもう一回よ」


 しばらくゲームをやり続ける俺達だったが相変わらず俺が勝ち続けていた。だが真里奈は負けず嫌いなため何度でも挑んでくる。


「なあ、そろそろ辞めないか?」


「勝ったまま逃げるなんて許さないわ。あっ、ちなみにわざと手を抜くのは無しだから」


「おいおい、マジかよ」


「分かったら早くコントローラーを握りなさい」


 だから雨が降り止んで制服が乾いても真里奈は中々俺を解放してくれなかった。結局真里奈が勝つまで長時間続けさせられた事は言うまでもない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る