第12話 才人が私の所有物ってアピールするためには必要な事なのよ

 色々と忙しかった週末も終わり月曜日がやってきた。週明けはただでさえ嫌な気分だというのに、金曜日に真里奈が教室で盛大に俺と付き合い始めた宣言をしてくれたおかげでもっと憂鬱な気分になっている。

 目覚めた俺がベッドから立ち上がってカーテンを開けて背伸びをしていると部屋の扉が開かれ、セーラー服姿の真里奈が入ってきた。


「才人起きなさい……って、今日はもう起きてたのね」


「ああ、誰かさんのせいで朝から胃がめちゃくちゃ痛くてとても二度寝をするような気にはなれなかったからな」


「この私と付き合えてるんだからそのくらい我慢しなさいよ」


「ったく、他人事だと思って簡単に言いやがって」


 真里奈は俺の嫌味もどこ吹く風といった様子だ。


「じゃあさっさと準備して学校に行きましょう」


「ああ、先週の金曜日みたいにゆっくりし過ぎてまた遅刻しかけるのも心臓に悪いし」


 俺はパジャマから制服に着替えると、素早く朝食を済ませる。


「よし、準備できたから行こうか」


「ええ、そうしましょう」


 俺は戸締りを済ませて荷物を持つと真里奈とともに学校に向かって歩き出す。


「……なあ、腕を組んで歩く必要はあるのか? 偽装彼氏なんだから別にそこまでする必要は無いと思うんだけど」


「才人が私の所有物ってアピールするためには必要な事なのよ」


「おいおい、俺は真里奈の所有物扱いなのか……」


「あら、ひょっとして才人はペットとかの方がいいのかしら?」


「うん、どっちも嫌だ」


 そんな話をしている間にだんだん学校へと近付くわけだが、先週と同様通学している周りの生徒達から凄まじい視線を浴びせられる事になる。


「……まさかただ通学するだけでこんなに苦痛を感じる日が来るとは思わなかった」


「大袈裟ね、苦痛なのは今日が月曜日だからでしょ。才人は小学生くらいの頃から休み明けテンションが低かったし」


「いやいや、どう考えてもこの視線が原因なんだよな……」


「あら、そうだったの。まあ、そのうち慣れるわよ」

 

 苦痛の根本的な原因を生み出している真里奈は相変わらず他人事な様子だった。それから学校に到着した俺達は教室へと入るわけだがここでも大量に視線を集めてしまう。

 視線を全て無視して席に着くとニヤニヤした表情の航輝がこちらへとやってきた。


「よう、才人。今日も八雲さんと一緒に登校するって朝から思いっきり見せつけてくれるな、羨ましいぞ」


「立場を変われるならいつでも変わってやるけど?」


「いや、遠慮しとくよ。そのうち真里奈さんガチ恋勢の誰かに刺されそうだし」


「……おい、本当は全然羨ましいとか思ってないだろ」


「あっ、やっぱりバレたか」


 まあ、これだけ視線に晒されるような目には航輝もあいたく無いはずだ。てか、真里奈のガチ恋勢って何だよ。そんなのがいるならどう考えても俺やばいじゃん。

 しばらく航輝と適当に雑談していた俺だったが、一時間目の授業が始まる少し前になって問題が発生する。


「やばい。数学Bの練習問題解いてくるのを完全に忘れてた……」


「あーあ、才人やらかしたな。この前の定期テストで赤点ギリギリだった俺のノートでも良ければ自動販売機のジュース一本奢りとかで見せてやってもいいけど?」


「いや、航輝のノートならむしろ見ない方がマシだ」


「才人って地味に酷い事言うよな」


 理系科目は苦手だが航輝よりは成績がいいため、自力でやった方が絶対正答率は高いはずだ。ジュース代が勿体なさ過ぎるし。だが一番の問題は授業が始まるまでに終わらせる時間がない事だ。

 数学Bの教師はかなり厳しいためもし問題をやってない事がバレたらかなり面倒な事になるに違いない。どうしようか内心焦っていると真里奈が俺の席までやってきた。


「ほら、数学Bのノートよ」


「えっ?」


「問題解き忘れて困ってるんでしょ、特別に私のノートを見せてあげるから授業が始まる前にさっさと写しなさい」


 どうやら真里奈は俺と航輝の会話を聞いていたらしい。少し離れたところで朝霧さんや他のクラスメイト達と話していたはずだがよく俺達の会話が聞こえたな。


「……一体どういう風の吹き回しだよ?」


「今日はたまたまそういう気分だったのよ、それとも必要ないのかしら?」


「いや、助かる」


 俺は真里奈からノートを受け取ると大急ぎで問題の解答を書き写し始める。そしてなんとか授業が始まる前に終える事が出来た。


「ありがとう、真里奈のおかげでマジで助かった」


「じゃあ貸し一つね」


「……えっ、ただじゃないのか?」


「当たり前でしょ、って訳だからよろしくね」


 真里奈は綺麗な笑顔を浮かべながらノートを受け取ると席へと戻っていく。


「やけに優しいからなんかおかしいと思ってたけど、やっぱり裏があったのか」


「でもとりあえず問題は無事に解き終わったんだから良かったじゃん」


「まあ、それは確かにそうかもしれないけどさ」


 航輝はのんきにそんな事を言っているが後でどんな無茶な要求をされるか分からない恐怖があるため素直に喜べなかった。

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