第9話 私達はカップルなんだからそのくらい出来るわよ
「じゃあ次は映画を見に行くわよ」
「何かみたい映画とかあるのか?」
「ええ、今話題になってるつばめの鍵閉めを見ようと思ってるのよね」
「あの映画か、実は俺も気になってたんだよな」
つばめの鍵閉めは主人公の男子高校生がヒロインの女子大生とともに日本各地を回って災いを鎮めるロードムービーであり、恋愛要素もあるためカップルでこの映画を見に行く人も多いと聞いている。
「ちなみに時間とか予約は大丈夫なのか?」
「ああ、それなら心配いらないわよ。大人気映画だから一日にこれだけの数上映してるし」
「……なるほど、確かにこれなら大丈夫そうだな」
真里奈からスマホで見せられた上映スケジュールはまるで電車の時刻表のようだった。それから映画館に移動した俺達は券売機でチケットを購入し、ジュースとポップコーンを持って劇場へと入る。
「いつも思ってる事だけどさ、ちょっとCM長すぎじゃない? ここまで長いと流石に萎えてくるんだけど」
「それは俺も同感、まあ大人の事情って奴があるんだろうけどさ」
真里奈の愚痴に対して俺はそう共感した。多分この劇場内にいる誰もが同じ事を思っているに違いない。
しばらく待ってようやく劇場内が暗くなり映画が始まった。俺達はジュースとポップコーンを食べながら映画を見る。
前情報で聞いていた通りかなり面白い映画だったためあっという間に一時間が経過した。そして恋愛要素が強いシーンに差し掛かったところで隣に座っていた真里奈が突然手を握ってくる。
「ちょっ!?」
「黙ってこのまま大人しくしてなさい」
突然指を絡められて驚く俺だったが、真里奈から小声でそう命令されたためためそのままの状態で最後まで映画を見た。
「……どうして急に手を握ってきたんだ?」
「そういう気分だったのよ」
「いやいや、どんな気分だよ」
「もう、うるさいわね。それ以上しつこく聞いてきたら許さないわよ」
真里奈が逆ギレし始めてしまった事を考えるとそれ以上追求する事は難しそうだ。
「それでこの後はどうする?」
「うーん、そうね時間もちょうどいいくらいだしお昼にしない? ここのショッピングモールでちょうど行きたかったカフェもあるし」
「オッケー、そうしよう」
俺は真里奈の案内で飲食店街にあるカフェへと向かい始める。そして到着した場所はいかにもお洒落という雰囲気が漂っており、はっきり言って俺には場違い感しか無かった。
「……なあ、ここは辞めて他の場所にしないか?」
「どうしてよ?」
「ほら、周りがカップルだらけでめちゃくちゃ浮きそうだし」
「私達もカップルなんだから何も問題ないでしょ」
何とか真里奈を説得しようと試みたが無駄だった。店員から席に案内されたわけだが、中は予想通りカップルだらけだったためもう既に出たい気分だ。
「確か才人って昔から特に好き嫌いは無かったわよね?」
「ああ、それがどうしたんだ?」
「おすすめのメニューがあるからそれを一緒に注文しようと思うんだけど、才人もそれでいいかしら?」
「ああ、構わないぞ」
俺の言葉を聞いた真里奈は何故かめちゃくちゃ嬉しそうな表情を浮かべていたが何故だろう。その答えはすぐに分かる事となる。
「すみません、カップル限定ランチ二つ」
「……えっ!?」
なんと真里奈は注文を聞きにきた店員にそう注文したのだ。俺は伝票に注文を記入している店員を気にしつつ、小声で真里奈に文句を言う。
「お、おい。カップル限定ランチって一体どういう事だよ!?」
「ここのカフェって男女で来ると限定メニューが食べられるのよ、前々から食べたいと思ってたからちょうどいいと思ってね」
「いやいや、それを先に言ってくれよ」
俺の抗議に対して真里奈はどこ吹く風といった感じだった。完全に嵌められた気分になる俺だったが、すぐに更なる問題が発生してそれどころでは無くなる。
「それでは恋人証明のキスをお願いします」
「「えっ!?」」
店員からの言葉を聞いた俺と真里奈は顔を見合わせて同時に声をあげた。どうやら恋人証明のキスがある事に関しては真里奈も知らなかったらしい。
「恋人証明のキスが確認できない場合カップル限定ランチの注文は出来ませんが、どうしますか?」
「私達はカップルなんだからそのくらい出来るわよ」
「えっ、マジでやる気なのか!?」
「ここまで来たら後には引けないわ」
真里奈はマジでキスをする気らしく席から立ち上がると俺の隣にやってきた。
「じ、じゃあ行くわよ」
「あ、ああ」
真里奈は顔を真っ赤にしながら顔を近づけてくる。緊張し過ぎて心臓の鼓動が早くなっている事が自分自身でも分かった。
恐らく真里奈も同じ状態になっているに違いない。どんどん真里奈の顔が俺の顔に近付いていき、ついに唇と唇が重なる。こうして俺のファーストキスは真里奈によって奪われてしまった。
結局無事に恋人証明が認められたためカップル限定ランチを食べる事が出来た俺達だったが、料理の味なんて一切分からなかった事は言うまでもない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます