詩「夏、洗面台にて」

有原野分

夏、洗面台にて

洗面台で顔を洗う

水が渦を巻いて流れていく

小さく震える旅がようやく終わる

排水溝の影に髪の毛が一本または二本

薄い黒色に白い陶器はよく映える


渦を描くように

時間は短縮されていく

流れはいつまでも苦々しく

どうしてもやりきれない

顔をいくら洗っても

なにもきれいになんてなっていない気がする

ずっとする

生まれたときから

思えば

これからも

ずっと


手のひらに受けた音が

跳ねて

広がって

飛び散って

逃げるかのように

重力は自由だ

最後の運命を誰が予想などできる?


大人しく流されていく水のほうがよほど利口

  に見えるのはそれほどぼくが大人になっ

    てしまったという証拠かもしれない

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

詩「夏、洗面台にて」 有原野分 @yujiarihara

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ