第13話 西山須美子の本性
「でもよ、田上や。お前の言っていた人工男根の暴走とは一体どんな現象なんや?」
パソコンやコンピュータに関しては天才的頭脳を有する湯川の質問に、私は内心焦った。
何故なら、湯川も私と同じ石川県金沢市の出身であり、現在、金沢市を震撼させている連続不同意性交殺人犯の事件には、多分、他人よりは相当に興味を持っているだろうからだ。
私は、慎重に言葉を選んで、湯川に人工男根の暴走状態について説明をした。勿論、全部が単なる作り話ではあったが……。
「いや、何、私は今現在、私立小学校の教師だろう。……しかも六年生の担任や。
ところで、小学校六年生の女の子の中には、結構大人顔負けの色っぽい子供も沢山いる。
それが、授業中フト、気を許した時に、私の欲情した脳波を、例のリモコンが関知して、さっきのように急に膨張をはじめるンや。
そうなると、もう、こっちは冷や汗もんやよ。まあ、私の前には教壇があるから、何とかごまかしてはいるが、これでは授業になどに集中できんやろう。
そこで何としても、リモコン上の欠陥でもあるこの人工男根の暴走回路を切って欲しいんや。まあ、そんなところやかな……」
「ふーん、田上も北野名誉教授の誘いにのって、俺のように大学院へ進学すればそんな心配をしなくても良かったのになあ……」
「まあ、私が、教師の道を選んだのは、親父や母親への弔いの強い強い思いがあるからであって、それ以外の何物でもないんやがね」
「そうか、それはまあまあ分かったが、ともかくそんな奇妙な人工男根を、どうして、田上、お前自身が装着するハメになってしまったんや?」
ここで、私は、昨年末からのいきさつ、特にクリスマス・イヴの時の話から、大神博士にだまし討ちのような形で麻酔を注射され、人工男根を装着するまでの経緯を簡単に語った。
この私の話は、随分と湯川の心を動かしたようで、
「そうか、実は、この俺にも、似たような経験があるんや……」と、湯川はここで今まで私も知らなかった話をし始めたのであった。
「あれは、俺がまだ20歳になる前の夏休み前の時の事や。俺達、コンピュータ研究会と、某女子大学文学部の文芸部の連中と合同コンパを行った事があったのや」
「ふーん、私のつきあっていた彼女も、文学部の文芸部の女やったんやがなあ……」と私は、西山須美子を思い出して感慨に浸った。
「そうか、田上の元彼女も文学部在籍やったんか?まあ、それは良いとして、俺は、同僚や先輩達と一緒に、その合同コンパに行ったんや。
席順は籤(くじ)や。で俺の横にそこそこ綺麗な女性が座ったんや。まあ俺も20歳前のギンギンの年齢や。そこそこ綺麗な女性が横に座ってくれると、心底、嬉しいわな。
ところがな、約1時間程コンパが過ぎると、彼女が、急に気分が悪くなったと言い始めたんや。悪酔いしたとな。
で、先輩も同僚も、皆、目配せして彼女を彼女のマンションまで送れと言うんや。
まあ、俺も若かったもんで、言われるままにタクシーで彼女を彼女のマンションまで送ったんや。
すると不思議な事に、マンションに着いた頃には、彼女の気分は良くなったと言う。
で、自分のマンションに俺を招き入れたのや。
また、夏休み前の蒸し暑い夜だったので、少し、シャワーを浴びてくると彼女が言うんや。
結構な美人で、スタイルも良い女性が、狭いマンションの一室でシャワーを浴びていると想像するだけ、当時、童貞だった俺の息子は、もうビンビンさ。
で、そこへバスタオルを巻いた彼女の出現と来れば、もう、これは誰にも止められないやろう。俺は、直ぐにGパンを脱いでパンツも脱ぎ彼女に挑みかかったのやが、敵もさるもの。ちゃんとベッドの中に隠してあったゴム製品を俺の下半身にうまく取り付けたのや」
「で、湯川はその彼女とやったのか」
「当たり前やないか。俺は、ずっとコンピュータ・バカと言われて来ているが、この時ばかりはもう他の何も目に入らなかった。もう、彼女の裸身がいやに眩しかったのを覚えている。ただ……」
「ただ?」と、私は、湯川にゆっくりと質問した。
「まあ、ここだけの話やがな。俺もまあ、童貞で若かったもんで、挿入後、あっというまに果ててしまったんや。すると、急に彼女の態度が激変しての……。
この早漏男だの、役立たずだの、それはもうボロクソさ。
で、その場にいたたまれなくなった俺は、GパンとTシャツを着て、ほうほうの体で彼女のマンションから、おさらばしたのさ。まあ、田上のように唾を吐きかけられなかったのが、唯一の救いだったかもな」
「そうか、湯川にもそんな経験があったのか」
「それに、普段、女性にはそれ程興味のない俺だったが、何しろ生まれて初めて入れさせてもらった女性だったし、結構な美人であったため、その後も、俺は友人達を通じて彼女については随分詳しく調べた事があるんや」
「ほう、湯川にストーカー的性格があったとは、こりゃまた、驚きだな」
「で、俺が、調べたところによると、彼女の父親は大阪市の某地方銀行の副頭取。また、高校生時代にはローズ文庫恋愛小説大賞をも受賞している事が分かったんや。
結構な文才もあったんやなあ。しかも、それでいて、彼女の口癖は、セックスはゴルフや乗馬と同じ軽スポーツなんやとさ。聞いてあきれるよ」
「ちょ、ちょ、ちょっと待てよ、ローズ文庫恋愛小説大賞を受賞していたとは、もしかして、まさか彼女の名前は、西山須美子じゃないだろな?」
「ビンゴ!どうして分かったんや、田上」
「その西山須美子こそが、あのクリスマス・イヴの日に、この私に唾を吐きかけた張本人なんやよ」
「な、何だって、じゃ、下手をすれば、俺と田上は、俗に言う義兄弟になるところやったんか?」
「ああ、しかし、これで、西山須美子の本性が良く分かったよ。
結局、振られて正解だったかもしれんなあ。
しかし結局、この私が人工男根を装着するようになったのは、その西山須美子のせいなんだから、これは、いつかそれなりの復讐をさせてもらいたいもんやのう。
はっ、はっ、はっ!」私は、力なく笑うしか無かったのである。
「そうか、田上、どうもおまえとは今後も縁が切れそうにもないなあ。
それに、田上にここでハッキリ言ってしまうが、気を悪くしないでくれ。
さっきも言ったように、俺も西山須美子には、今でもそれなりに関心があって、友人達から、彼女の話を聞いているんやが、彼女には遠距離で交際している男性がいたらしいが、それが田上だったとは、全く知らなかったよ。
しかしなあ、西山須美子は、実は、大阪でも何人もの男がいて、週に数回は、相手を替えてたりして、やりまくっていたらしいんだ……。それは、今も続いているといるという情報を得ている。
田上は、どう思っていたかは知らないが、結局、おまは、西山須美子とは、絶対に結婚できなかったんや。まあ、そういう事やったんやな。
あと、田上よ、ここで最後にもう一つ話させてくれ。
今まで俺は、湯川秀樹博士の親戚と言ってきたが、あれは、名字が同じだけの事で親戚でも何でもないんや。ただ、俺もいつかはノーベル賞を取りたいとの思いから出た単なる嘘なのや。長年、騙してきたが堪忍してくれ」
「いや、湯川よ、おまえの今の研究熱心さを持続さえできれば、いつかはノーベル賞も夢ではないよ」、そう言い残して、私は、湯川の元を去った。
結局、私は5日間東京にいた後、金沢に舞い戻った。
入学式の準備もある。が、その前に、私は、花束と数珠を持って後藤綾ちゃんの家へ弔問に行った。これでもう五回目の訪問であったが、やはり両親の顔色は恐ろしい程に悪いままだった。
私は、後藤綾ちゃんの御仏壇の前で、新たな誓いを立てたのである。
確かに後藤綾ちゃんを陵辱し絞殺し焼却したのは、誰でもないこの私である。しかし不思議と良心の呵責は全く感じなかった。
何故なら、あの湯川に解析してもらってから、やはりどうも全ての原因は、あの人工男根のリモコンの回路やプログラミングに原因がある事は、動かしがたい事実と分かったからだ。
誰かが、どういう理由でかは分からぬが、人工男根のリモコン装置に、明らかに「明白な意図」をもって、人工男根暴走用の回路やプログラムを仕込んでおいたに違いが無いのだ。
そのもっと詳しい事実を究明しない事には、私の心は永久に晴れないであろう。
しかも、いつ警察に捕らえられるかも知れない、明日はどうなるかも分からない身分なのでもある。
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