第7話 教え子の陵辱殺人

 3月に入った。



 石川県の教育委員会から、各学校へ緊急の連絡が入った。



 何でも、私の小学校の近隣で、連続不同意性交犯が出没しているという情報である。既に被害届けだけで3件出ているそうだが、被害者の情報を総合すると身長は160センチ以上は確実で、時には女装もしているらしいと言う。



 私は、勤務先の小学校では防犯担当委員なので、即、校長に頼んで、全生徒を講堂に集合させて、その危険性を訓辞してもらった。



 それにしても、今年の冬は異常な程の暖冬だった。

 何しろ3月3日のひな祭りの日には最高気温25度を記録したほどで、このような暖冬が、連続不同意性交犯の性欲を刺激しているのではなかろうか?と、私個人、そう考えた程だった。



 3月21日、小学校の卒業式の翌日であった。卒業式は昨日、滞りなく終了していた。



 私は、卒業式の後片付けと書類の整理のために、朝から出勤していたのである。



 さて、午後4時になって、大体の書類が片付いたので、学校の裏門から、自分の車が留めてある駐車場へ向かった。他の職員は、全員午前中で帰っていた。



 その時である。

「田上先生」と、可愛い声で私を呼ぶ者がいた。



 振り返ると、私のつい前日まで教室で教えていた、昨日卒業したばかりの後藤綾ちゃんがいた。手にはピンクのリボンが巻かれた小箱を持っている。



 彼女は、顔を赤らめながら小走りに走ってくると、私に、その小箱を渡そうとした。



 しかし、拍子の悪い事に、彼女が直前で躓いたため、その小箱を私の目の前で落としてしまった。



彼女は、その小箱を拾おうとしてしゃがんだのだが、その時ミニスカートを穿いていた彼女の下着が見えた。

 真っ白い下着であった。彼女に関しては、以前から、どこか、あの大神優子似の可愛い子だなあ……と私は内心思っていたのだったが……。



 だが、この時、私は、後藤綾ちゃんを大神優子のように、急に、愛しく感じたのだった。



 その時である。私の人工男根のリモコンが、又も、例の異常なフィードバックを起こし始めた。私の下半身がグングン大きくなってきたのだ。それとともに、猛烈な欲望が起きてきた。



「後藤綾ちゃんを襲たい!」



 胸ポケットにしまってあるリモコンが「ピ、ピ、ピ……」と、またも最高値の音を私に告げてくる。自動ロックがかけてある筈なのに、全く、効いていないのだ。



 この状態は、正にMAXのレベル10の状態だ!



 危険だ、危険過ぎる!!!



「我慢しろ、私は、これでも教師なのだ!」



 ……しかし、その声は、私の人工男根には届かなかったようだ。



約30分後、私は、無惨に陵辱され、絞殺されて死体となっている、後藤綾ちゃんを呆然と見ていた。



 その光景が如何に悲惨で、目を覆いたくなるような状況なのかを敢えてここで記さない。それは、この文章を読んでいる人のそれぞれの頭の中で想像してもらうだけだ。



 だが、それは紛れもない現実となって私の眼前に確かにあったのである。

「しまった、自動ロック装置が故障したのだ!レベル5では制御できなかったのだ!」



 私は、そう呟くと全身に冷や汗をかきながら、ともかく後藤綾ちゃんの死体を目立たないように校庭の茂みの奥のほうに隠した。



 まだ、春ではないので雑草は茂ってはいなかったが、それなりに手入れされた校舎の庭には、小柄な後藤綾ちゃんの死体ぐらい、一時的に隠せるぐらいの庭木は植えてあったのである。



 私はこの小学校の防犯担当委員をしている。この場所は、校舎の周囲に約10個取り付けてある防犯カメラや録画装置の死角になっている事は、十分に承知していた。



 まずは、一端、自宅に帰って善後策を講じよう。今の時間帯では、まだ明るく、人目に着く恐れがあったのだ。



 私の自宅と、小学校とは車で普通約15分、飛ばせば約10分で自宅に到着する。



 私は、泥で汚れたスーツ、汗でびっしょりとなった下着を脱いで、普段着に着替えた。

 しかし、一体、これから自分がどうすべきかが、判断できないのだ。



 いっそ、大神博士に連絡して、警察に自首しようか?



 この場合、大神博士は、私が人工男根の人類初の装着者である事ぐらいは証明してくれるかもしれない。……しかし、本人に何の承諾も無く、勝手に手術を遂行する程の人間(悪人)なのである。



 私が、この場合、最も証明して欲しい筈の人工男根のリモコン装置の暴走について、この前は私は前田彩華との例で十分説明したものの、その一番肝心な点を果たして証明してくれて、私の弁護に廻ってくれるものだろうか?



 ……だが、それはまずは無いであろう、と考えたのだ。



 何故ならば、私の弁護をすると言う事は、結局、人工男根の研究が失敗だった事を意味する事になるからなのだ。



 とすれば、結局、「自分の尻は自分で拭くしかない」のだ。大神博士は今回は信用できない。



 では、一体、どうすればいいんだろう?

 私は、動物園の中の熊のように、自分の書斎の部屋の中をグルグル廻っていた。前にも言ったかもしれないが、私は、死ぬ事に対する恐怖感だけを感じないだけで、非常に矛盾した心理なのだが、一般的な感情の起伏は一般人以上に十分に持ち合わせていたのだ。



 ともかく、私は、不同意性交犯殺人の汚名だけは着る事ができない。……亡くなった両親に顔向けが出来ないからだ。



 ふと、机の上に目が留まった。そこには、大神博士から紹介してもらった金沢駅前の心療内科の女性医師からもらった薬袋があった。中を覗いてみると、薬の効能書と何かの薬剤が入っていた。



 その効能書には、「心の緊張・不安を取り除き、硬直した首や肩の筋肉のこりをほぐす効能:精神安定剤(マイナー・トランキライザー)、処方量:一日朝晩二回1錠ずつ服用、薬品名○○○」と極簡単に書いてあった。



 今は、これを飲んでともかく落ち着くしかないのではないか。

 私は、台所でその薬を飲んだあと、再び書斎に戻り数冊の推理小説を本棚から取り出し開いて見ていた。



 確か、私のような衝動殺人を犯した犯人が、友人の自称推理作家に、死体の隠蔽方法を伝授される話があった事を思い出していたからだ。



 その小説の話では、人口の少ない小さな市の事だったので、まずペットの死骸を抱えて小さな市の市営斎場に乗り込み、ペットの死骸を焼却している間にその火葬炉の操作方法を完全に覚え、次にその斎場の職員を持参した金槌で撲殺、自分の殺した死体と斎場の職員と同時に、ガスバーナーで完全焼却すると言う内容であった。



 この小説の題名は『善良な殺人者』と言い、作者は北陸出身の橘優一郎とあり、結構有名な推理小説の賞を貰っているだけあって、小説自体の話はもっともっともっと複雑であり、衝動殺人を起こした人物そのものが別の大きな犯罪トリックに、実は巻き込まれており、その話自体は2重、3重に反転していくのであるが、ともかくこの方法を利用できないか?と考えたのである。



 ……だが、即、その話は、金沢市のような大きな市営斎場を有する市では不可能である事に気がついた。

 自分の両親の火葬は金沢市の市営斎場で行ったのだが、大きな斎場であり、警備員も数名いるのである。その小説のように人口数万人の田舎の市営斎場ならいざしらず、金沢市営斎場を利用して、後藤綾ちゃんの死体を焼却する事は絶対に不可能なのだ。



 では、一体どうすべきか?



 一つには、カーナビを頼りに白山市の麓の林道か農道の端に、死体を捨てて来る事である。しかし、じきに山菜採りのシーズンとなる。とすれば、直ぐにでもその死体が発見される危険性は高いであろう。



 では、同じくカーナビを頼りに能登半島の麓(ふもと)まで死体を車に積んで行って捨ててくるか?だが、大波によりその死体が海岸に打ち上げられる危険性も捨てきれない。



 どちらにせよ彼女の死体が見つかったが最後、彼女の死体内に残された精液のDNA鑑定により、犯人は私だと判定される危険性が十分にあった。何しろK大学医学部に行けば、私のDNAのデータは、腐る程ある筈だからである。



しかも、もっと悪い事に、この私の住む住宅の周囲は閑静な住宅街で、例え、私が車を飛ばして死体を何所かへ捨てて来たとしても、どちらにせよ帰宅時間は夜遅くになるであろう……。



 となれば、後藤綾ちゃんの失踪日に、この私がいつもより遙かに遅く帰宅する車の音が近所に聞こえる事は、周囲の住人に怪訝に思われる危険性が十分にあったのである。



このように、例え車を使って死体隠蔽処理をしようにも、かようなアリバイ工作の面で相当な苦心が要求されたのだ。


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