第6話 レベル10!!!

「田上純一君、まさか、このような狂った猿のような姿を自分で見る事になるとは思わなかったろうが、これが人工男根の正に劇的な効果なのじゃよ。



 だが、これで君も男性としての自信も取り戻せるだろうし、いい相手がいれば結婚も可能なのじゃ。何しろ、片方の睾丸は君自身の本物じゃから精子もできる。子供も生む事ができるしのう……。



 まあ、あと2~3回、実験して、その結果を世界の学会で発表させてもらいたいのじゃ。

 勿論、被験者名は匿名にするつもりだし、君の顔や声は、モザイク等で編集して、学会に発表するつもりやから、君の今後の教師生活にも影響は全く無いじゃろう。



ただ、一つだけ君に忠告しておきたい事があるんじゃ。特に、これは重大な話だからしっかり聞いてもらいたいのじゃが……。



 さっきの彼女のとの行為の時の性欲度や快感度等は、全てレベルは5じゃったのじゃが、どうも、この点に関しては、特にマッシュルーム社やアップルパイ社等の独断がある様に思えてならないんじゃ。



 このワシの、人工男根に関する最新論文『カオス的人工男根新構造理論』では、性欲度や快感度は今言ったように最高レベル5までしか想定していなかったのに、例のマッシュルーム社かアップル社かのどちらかは分からないが、何とその2倍の「レベル10」を、敢えて作り出してリモコンに設定してあるんじゃ。



 ともかく、あまり詳しい話はここではしないが、脳波の振幅度が0μV(ミューボルト)の場合がレベル0で、それがレベル5では脳波の振幅度100μVで設定を止めるべきとの私の論文を、まるであざ笑うかのように、最高のレベル10では脳波の振幅度は200μVまでの高レベルまで設定されているんじゃ。



 先程の彼女、前田彩華君との行為中の君のリモコンレベルは、全てがレベルも5じゃったが、特に万一、この性欲度や快感度が両方とも、最高レベルの10のMAXに至った場合、ワシの『カオス的人工男根新構造理論』にも書いてある通り、どういう結末が起きるかが、このワシでも、全く想定できないんじゃよ。



 これが、もの凄く心配なんや……。



 何故と言うに、この新型のリモコン装置には、フィードバック機能が付いていてのう。

 リモコンから君の人工男根並びに大脳をコントロールできると同時に、逆に、君の大脳等の性的興奮をリモコン自身が関知して、例えば人工・本物の精嚢に精液が溜まり過ぎた場合など、逆に、大脳がリモコン装置を勝手に動かす場合も想定されるのじゃよ。



 そやから、一言だけ君に忠告させてもらうとすれば、間違っても、性欲度等はレベル5までで留めておいて欲しいのや。



 万一、このレベルを全て5以上に上げていくと、このワシにも、想定外の事態が起きる事が危惧されるのじゃ。絶対、これだけは守ってもらいたいのじゃよ」



「いやいや、私は、まともに、今までのように教師生活に戻れればそれで良いがです。私が、例のリモコンの性欲等をMAXのレベルを10にして使う事は、未来永劫に無いでしょうよ……」



「それを聞いて少しは安心したよ。ところで、前田彩華君は、先程の実験の後、随分と君の事が気に入ったみたいじゃが、もし、君にその気があるんなら、このワシが、君達の交際の仲に入ってあげてもいいぞ」



「いや、私には、きっともっと好きな人がいますから……結構です」そう言って、私は、自分が初めて体験した女性の前田彩華との今後の関係は、敢えて断った。



 それにしても、自分の下半身を自分の意志で自由自在にリモートコントロールできるとは、確かに、何処かが間違った科学技術や医学技術ではあろうが、それはそれで、それなりの価値はあるのかも知れない。



 現に、この私は急速に男性としての、自信を取り戻してきたのだ。



 私が、あれ程優しかった前田彩華との交際を敢えて断ったのも、この急激に自信を取り戻してきた自分の「不遜な心」がその大きな理由であったに違いがない。



「不遜な心?」



 そう、私は、急激に男性としての自信を取り戻すとともに、あの人工男根のもの凄い威力というか効果を、この生身の身体を使った人体実験で身にしみて感じ取っていたからである。



 もはやいかなる女性であろうと物怖じする事は決して無いであろう。

 例え身長180センチ以上の外国のスーパーモデルであろうともである。



 そう感じた時、私は、ついさっきまで、もの凄く高値の花で、絶対に自分とは関係の無い存在であった筈のあの絶世の美人の大神優子に、急激に焦点を絞り始めたのだった。



 あんな絶世の美人との結婚自体はまあ無理としても、一度ぐらいなら、やれるのではないか?



 そう考えただけで、私は興奮して、心の高揚を抑えきれなかったのだ。



 ……そんな自分の心の変化を見て、「不遜な心」と言ったのだが、確かに、私の心がこの当たりから少しずつ変化していったのは確かだった。



 1月8日になった。この日は、三学期の始業式である。



 私は、地元の超有名私立大学付属小学校の6年C組の担任の先生だったのだ。



 学校生活では、今までどおり、何も変わった事は無かった。私は、事務的に仕事を片付けると、既に父親も母親も他界してこの私以外誰もいない自宅に戻った。いつもの平凡な教師の一日であった。



 しかし、その日の午後10時頃に、私のスマホにあの前田彩華から、テレビ電話での着信があった。前田彩華がどうして私のスマホのアドレスを知っていたのかは不思議であったが、きっと大神博士にでも聞いたのであろう。私は、前田彩華とのテレビ電話に出る事にした。



「ねえ、田上さん。どうして私の誘い断ったの?私の事嫌い?」と、妙に甘えたような声と表情だった。



「そ、そ、そんな事は無いですけど、でも私は、人工男根を埋め込まれた、SF小説にでも出て来るような、謂わばサイボーグや人造人間みたいな存在で、もう、本物の人間じゃ無いですからねえ……。

 これでも、自分ではまだ心の整理がついていないんですよ」と、自分のスマホに内蔵されているカメラに向かって言った。



「じゃ、心の整理がついたら、また、この前のように私を愛してくれるぅ?」



「いや、前田さん、事はそう単純なもんじゃ無いんですよ。



 確かに貴方は、私に対して大変に優しかったけれど、それは、あくまで人工男根の実験がうまくいくように、私に対してそういうポーズを取っていただけかもしれないし、それに、今、あなたが私を誘っているのも、私という人間個人そのものを愛してくれているのか、それともあの人工男根が予想外に貴方には気持ちが良くて、私を誘っているのか、一体どっちなんです?」



「うっ!」と、ここで、前田彩華は返答に詰まってしまった。



 と言う事は、やはり前田彩華は、私個人よりも、その長さや大きさ、持続時間が自由にコントロールできる、あの人類史上初の人工男根に惚れているのは明白だった。

 ともかく私にはそうとしか思えなかったのだ。



「うーん、でも例えそうだとしても、今、私が、田上さんに恋愛感情を持っているのは確かだし、それに、いくら人類史上初の人体実験とは言え、実験されたのもこの私なんだし、それを全く嫌がらなかったんだから、もっともっと大きな見地からみても、私は、あなたを愛していたから、そんな事を許せたと思うのよ……。そう思うでしょう」



 私は、この前田彩華の嫌みったらしい言い方に、少々、腹を立てた。



「いやいやいや、それこそ詭弁なんです。



 じゃ、私が、あのまま心因性インポテンスのままだったら、今のように、私に恋愛感情を告白できますか?」と、畳み掛けるように言うと、前田彩華は、ここで思いがけない行動に出たのだ。



「この馬鹿。この堅物。分からず屋。だったら、この前の、快感をもう一度思い出させてあげる!」



 と、それだけ言って、彼女は、スマホを自分の下着を脱いだあそこに直接向けて、私を挑発してきたのだ。



 その時である。この2日間、人工男根のリモコンを操作していなかったためか、私の下半身には、本物の精液と、人工精液が二重に溜まっていて、既に、限界点に来ていたのであろう。私は、急に猛烈な性欲を覚えたのだった。



 その時、私は、机の上に置いてあったカード型の人工男根のリモコンの液晶の色の変化にも驚いたのだった。人工男根の各種レベルは、長さ、太さ、持続時間、性欲、射精感覚の5つの項目毎に、レベル0~5まで、自在に設定できるようになっているのは何度も述べた通りである



 その内の興奮度や快感度が、大神博士の言う安全地帯を突破して、ドンドン、レベルが上昇していくのであった。

 そのスピードは速く、紫色の感度1レベルから黄色、そして安全レベルのレベル5が緑色、やがて危険区域のオレンジ色、そしてMAXのレベル10の状態の真っ赤な液晶レベルに到達するのに、ものの数秒もかからなかった。



「ピ、ピ、ピ……」と、極小さな音で、リモコンが、最大値に到達した事を知らせた時、私の臀部の筋肉はビクンビクンと激しく痙攣し、とてもとても、この世の感覚とは思えない程の、異常な程の快感と陶酔感と幸福感が私を襲ってきたのだ。



 そして、そのまま、私は、気を失ってしまったのである。



 おお!だが、一体、あのえもいわれぬ感覚や感激は一体どこからやって来るのだろう?



 きっと、エンドルフィン等のような脳内神経伝達物質の大量放出状態が、麻薬や覚醒剤、LSD等のような薬物を遙かに凌駕するような快感を私の脳内に惹起したに違いないのだ。



私は、急に怖くなって、夜の11時を過ぎていたが、急遽、大神博士に、今の出来事をスマホで電話した。……ただし、リモコンのレベルは、あくまで7でストップした事にして話しをしたのだが……。



 博士は、明日、至急、自分の医院に来るように言った。それに、リモコンの裏側の右角部分に小さなストップボタンがあり、安全圏内と思われるレベル5で設定した後、シャープペン等の先で押すと、それ以上の状態に進まないように自動ロックがかかる事を電話で教えてくれた。



 その自動ロックの方法を聞いて少しは安心した私は、リモコンのすべてのレベルを最高でもレベル5でストップするよう設定して自動ロックをかけ、そのまま寝入ってしまった。……これで、フィードバックによるリモコンの暴走はもう無いであろうとの安心感も出てきたからだ。



 しかし、次の日の夜、私は、大神医院内にいた。例の応接間で、例の如く大神博士と昨日の事件について克明に報告をした。大神博士は、小型のノート型の電子カルテに詳しい情報を書き込んでいた。



「うーん、本当に不思議な話だ。フィードバック機能そのものは、溜まり過ぎた本物の精液や人工精液の排出には不可欠な機能なのだが、一体、何故、レベル10までもの最高単位のリモコン装置を作る必要があったのだろうか?」と、大神博士は独り言を言った。



 どうやら、あの人工男根のリモコンの異常作動(暴走)には、大神博士本人は全く関係していないらしい。



 しかしながら、何度も何度も言うように、一体、何故、大神博士はこんな訳も分からない人工男根の研究を開始したのか?いや、開始する必要があったのだろうか?



 これが、私には最大の疑問であったのだが、その回答は見いだせなかったのだ。



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