それはひとえに、愛

柚月 ひなた

Should I love him or not?


 答えはきっと……。


 誰かが言った。「恋は自由」だって。

 でも、許されない恋だってこの世にある。


 例えば?

 ——お嬢様と裏社会に生きる男の恋。


 そう、わかっているの。

 私のこの恋は許されぬ想いだってことくらい。

 痛いほど、わかってる。


 住む世界が、大事な物が、二人は違い過ぎるから。


「だめ、放しなさい! 放してってば!」


 強引な彼に手を引かれ、引きずられて廊下を歩む。


 戻らなければ。

 今は大事な会議の途中だったのだ。

 耐えきれず、私は精一杯の力をこめ、パシッと手をはねのけた。


「助けてやったんだ。感謝して欲しいくらいだな」

「何を勝手な! 私は……!」


 うそ。本当は嬉しかった。

 あんな息が詰まるとこ、一秒だって居たくなかった。

 

 ——だけどそれは許されざることだわ。

 こうして貴方と一緒に居る事だって本来ならば。


「ったく、素直じゃないな。ほら」

「……その手は何?」


 すっと差し伸べられた大きな手。それが何を意味するのか、私は問いかけた。


「抜け出しちまおうぜ。デートだ」


 ああ、私はどうすれば……どうしたらいいのだろう?

 こんなにも嬉しいのに。いますぐその手を取って逃げ出してしまえればいいのに。


「冗談は休み休みにして! わかっているでしょう? 私と貴方じゃ……!」

「身分が違う——って? そんなもの関係ない」


 不意に右手を掴まれ、貴方の胸の中へ引き寄せられる。

 大きな手が頬に優しく添えられて——抵抗する間もなく唇が重なった。


 パンッ!


 乾いた音が廊下に響く。

 ドクンドクンと脈打つ鼓動がうるさい。頬が熱く、胸が痛い。

 同時に頬を張った左手がじんと痛んだ。


「お前の言い訳は聞き飽きた。オレのものになれ」


 なんて理不尽なの。不条理よ。

 どうして出会ったのが彼だったのだろう?


 私には出来ない。生きてきた世界を敵に回すだなんて、そんな覚悟。


 Should I love him or not?

(答えはyes。彼を、愛しているわ)


 だからこそこの恋は叶わない。許されてはいけないの。


 愛する罪には愛されない罰が下るのよ。

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それはひとえに、愛 柚月 ひなた @HINATA_YUZUKI

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