第2話
その後、特になにも変わったこともなく時間は経過して、放課後になっていた。
海斗はあの箱のことなんてすっかり忘れて、早く帰ってゲームの続きがしたくてたまらなかった。
今日で最後までいけるかもしれないんだ。
多少時間がかかっても、明日の朝起きられなくても関係なかった。
ランドセルを乱暴にひっつかんで大慌てで教室を飛び出す。
廊下にはまだ誰も出てきていなくて、海斗は一番乗りだった。
そのまま一気に帰宅するつもりだったのに、腕を掴まれて足を止めることになってしまった。
「なんだよ」
文句を言いながら振り返るとそこには健が立っている。
「行かないのか?」
「行くってどこに?」
海斗は一刻も早く家に帰りたくてウズウズしている。
こうして引き止められている間にも生徒たちは次々に教室から出てきて、廊下はあっという間ににぎやかになってきた。
「手紙に書いてあったろ。4時に空き地でネコが轢かれるって」
そう言われて海斗はようやく今朝の黒い箱のことを思い出した。
「あんなの信じてるのかよ? イタズラに決まってるだろ」
「でも、もしかしたら本当なのかも」
健の意見に海斗は呆れてしまった。
あんなの嘘に決まってる。
「いいか健。あの紙に書かれていたのは今日の放課後の出来事だ。だけど受け取ったの朝だぞ? 書かれていた内容は適当なことに決まってるだろ」
それなのに健はまだ曖昧な表情を浮かべている。
まるであの手紙に書かれていたことが実際に起きるのではないかと、心配しているようだ。
「それに、よく考えろよ? 今日の放課後ネコが轢かれる。どこで? 隣の広場で。って、おかしいだろ。広場に車が突っ込んでこない限りそんなことはありえない」
とにかく早く帰りたい海斗はまくし立てて言った。
「確かにそうだけど、でもこのままほっといて帰って本当にネコが死んだら嫌じゃないか?」
だからそんなことはありえないんだ。
あれはただのイタズラで、未来を予言した紙なんかじゃない。
そんなものは実在しない。
そう言いたかったけれど、ここで押し問答している時間がもったいないと気が付いた。
海斗が折れなければ健はずっと説得を続けるだろう。
それならさっさと空き地へ行って、なにも無いことを確認したほうが早い。
時刻ももうすぐ4時になる。
「わかった。そこまで言うなら行ってみよう」
☆☆☆
生徒たちで賑わっているグラウンドを横目で見て、海斗と健は校門を抜けた。
問題の空き地は学校を出て右手にある。
昔は大きな屋敷が建っていたらしいけれど、今はそこも子どもたちの遊び場になっていた。
「別に、ネコなんていねぇじゃん」
空き地の中では4年生くらいの女子生徒が数人でだるまさんがころんだをしている。
その中にネコの姿は見えない。
「本当だ」
健がホッと胸をなでおろす。
ようやく理解してくれたようで海斗のほうもホッとした。
このままずるずると帰る時間が遅くなってしまったら、ゲームは全然進まなくなってしまう。
そうなると結局夜遅くまでプレイすることになり、翌日母親に大目玉を食らうことになるだろう。
1度の寝坊ならまだ許されても、2度3度となるとそうはいかないことを、海斗はすでに知っていた。
「よし、じゃあ帰るか」
そう言って空き地へ背を向けてあるき出そうとしたときだった。
「あ、ネコちゃん!」
女子生徒の1人が叫ぶように行った。
海斗と健は同時に足を止めて視線を向ける。
見ると茂みから勢いよく子猫が飛び出してきて、そのまま道路へ駆け出そうとしているのだ。
「危ない!」
海斗は咄嗟に叫んで両手を伸ばしていた。
スライディングして歩道に出てきた子猫の体を両手で捕まえる。
その直後、道路にはゴトゴトと音を鳴らしながら大きなトラックが走り抜けて行ったのだ。
一瞬、海斗も健も言葉を失った。
子猫を助けることができなかったら、いまごろどうなっていたのか安易に想像がついてしまったからだ。
「お兄さん、子猫を捕まえてくれてありがとう!」
だるまさんがころんだをしていた女の子たちが海斗に駆け寄ってきて、海斗はようやく立ち上がった。
手には子猫を抱きしめている。
「あぁ……」
「お兄さんケガはない?」
「うん。大丈夫だよ」
「よかった。子猫もケガはないみたいだね」
女の子たちが胸をなでおろすのと同じように、海斗と健も胸をなでおろしていたのだった。
☆☆☆
「もう、急に飛び出してきたりするなよ」
子猫を安全な場所で離した海斗はそう声をかける。
子猫は海斗が命を助けてくれたとわかっているのかいないのか、一目散に茂みの中へと戻っていった。
「あの手紙の内容当たったな」
健が呟くそうに言った。
海斗はビクリと肩を震わせる。
そう2人にとって今一番重要なのはそれだった。
今朝受け取った箱。
その箱に入っていた手紙の内容と今起こった出来事は一致している。
海斗はゆるゆると振り向いて健を見た。
健は少し上気した顔で元々大きな目を更に大きくしている。
そして2人は同時に「すっげー!!」と叫んでいた。
「あの手紙に書いてあったことが本当に起こったぞ!」
「やっぱりあれは未来を予知してたんだ!」
2人で手を取り合ってジャンプして興奮する。
未来を予知する手紙なんて初めて受け取った。
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