第3話 なんでそうなるのさ!?
「スバル! 今日も頑張っているみたいね!」
小麦畑の
最初は、王女様が気安く出歩いていることに「それでいいのか」と
「そうだね、農作業もやってみたらキツかったけど、その中でもいろいろ発見もあって楽しくなってきたかもしれない」
パルナが差し出してきた冷たい水を一気に飲み干すと、今までの疲れが嘘のように消えていく。
慣れない農作業は身体にくる。
でも、今のところ、日々の生活を過ごす中で、それ以上の充足感を得ることができていた。
「なんというか、自分たちの手で収穫した野菜や果物とかって、こんなに
確かにモノが満ちあふれ、科学技術も発展したあっちの現実世界に比べれば、不便に感じることも多い。
けれども、こちらの異世界での生活は、そのすべてを自分の手で作り上げているという実感──充足感があるのだ。
そして、その充足感を自らの手で二倍にも三倍にも拡げられる
なんというか、灰色だった世界が色とりどりに
「いつも言ってるけど、スバルさえ良ければ、この国の民のひとりになって、ずっと居てくれて良いんだからね──って、はい、お昼ごはん」
そう言いながら、パルナは僕に肉の
「うん、いつもありがと。その気持ち正直助かってる。《
「そんなこと全然気にしないでいいのよ。むしろ、困ったことがあったら、なんでも相談して──」
すると、近くを通りがかった
「姫様は異世界の勇者殿に、どこにも行ってほしくないんだろ? もっと素直になればいいんだよ」
ガハハと豪快に笑う
「もーっ! そんなんじゃないわよっ!」
近くで農作業をしていた人たちも、次々と集まってきてパルナと僕を
この国の人たちは、本当に
パルナや僕たちみたいな人間と同じように、
ちなみに、魔族というカテゴリの中には、肌の色や瞳の色以外は僕たち人間とほとんど外見は変わらない《
いつの間にか、昼食を摂っている僕とパルナの周りに、大勢の人々が集まり、大昼食会へと発展していた。
男性の虎人が、僕の手に燻製肉の
「勇者殿──って、なんか
「かまわないよ、それに勇者殿って言われても、何か特殊な力とかあるわけでもないし、ピンとこないから」
僕はそう言って笑い返した。
異世界に召喚された勇者には《特別な力》があるらしい。
だが、しばらく、この《リグームヴィデ王国》で生活した感じでは、別にそんな力が
「むしろ、勇者殿とか呼ばれる方がむず痒いし、フツーにスバルって呼んでもらった方が、僕としても嬉しいかな」
「そうか、そうか! なら、もうスバルも、完全にこの国の一員だな!」
バシバシと背中を叩いてくる虎男の力は外見通りに強く、僕はゴホゴホと
その時だった──
『──あー、あー、みんな聞こえるかな?』
「!?」
突然、頭の中に聞き覚えのある声が響き、僕は反射的に立ち上がった。
『これが前の《学級会》で話した勇者の力の一つ《
『おおー、スゴい。ちゃんと聞こえてる』
『なんだろう、スマホで通話している感覚とは、ちょっと違うカンジがするね』
『それぞれの国に戻った後でも、これなら連絡取れるわ、便利だな』
「やっぱり、みんなもこっちに来てたんだ……」
すると、意識の中の皆の声が、
『あれ? 今の声って
『えーっと、ちょっと数えてみる……あ、ホントだ。三十六人、全員いるわ』
三十六人──確かに僕も含めたクラス全員が、この《遠距離思念通話》と呼ばれている精神世界とも表現できる空間に存在していることを、僕も認識できた。
『実際に声を出さないと《遠距離思念通話》に届かないはずだから、とりあえず生きてはいるってことでいいのかな、鷹峯君」
その声に続いて、クスクスと
僕は感情を殺して、短く応える。
「おかげさまで無事に生きてるよ」
『それは良かった、鷹峯君だけが行方不明で、皆、心配してたんだ』
何を白々しい、と呟きかけた僕だったが、口にすると《遠距離思念通話》に乗ってしまうと言う指摘を思い出して、ギリギリのところで飲み込んだ。
『それで、鷹峯君は、今どこにいるんだい? 異世界から召喚された勇者である僕たちは、どの国でも
「──僕がいるのは《リグームヴィデ王国》っていう国だよ、この国の人たちも良くしてくれてるよ」
僕がそう返事をすると、頭の中の皆の声がいったん静まった。
『──《リグームヴィデ王国》?』
最初から《遠距離思念通話》を
続いて他のクラスメイトたちも戸惑うような口調で互いに問いかける。
『え、そんな国あった?』
『俺たちを召喚したのは《連合六カ国》だろ?』
『ちょっと大臣さんに聞いてくる』
そんなドタバタした空気の中、僕はポツンと放置されてしまう。
パルナを筆頭に、心配そうに見守る周りの人たちに笑ってみせる僕。
声を出さずに口の動きだけで「大丈夫だよ」と伝え、このまま放置されるなら、中断していた昼食を再開しようかと考えたとき、《遠距離思念通話》内の会話が再開された。
『《リグームヴィデ王国》は《連合六カ国》の他にあるいくつかの弱小国のひとつだそうだ』
弱小国という表現に
だが、それに続く言葉を聞き流すことはできなかった。
『《連合六カ国》にしてみれば吹けば飛ぶような存在だから放置していたけど、最近では人間国家であるにもかかわらず、《魔族》との共存なんて言い出してるらしい』
男子生徒はいったんそこで間を置いてから、厳しめな口ぶりで言葉を続ける。
『その上、今回は《連合六カ国》が召喚した勇者をひとりかすめ取った。これは、重大な
「ちょ!? 軍事侵攻って、なんでそうなるのさ!?」
僕は思わず声を上げてしまった──
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