43、夜は手作業、物思い
あ、今日新月だ。
焚き火の元で竹かごを編みながら、ふと空を見る。
いつも二つ並んでいる月の、大きい方が無いことに気付いた。あの小さい方は、いつ見ても満月。
気になることは一応記録を付けていたカレンダーアプリ。十月八日の欄に「新月・大潮か」と書き込んでおく。
オフラインでもカレンダーに付いている六曜や二十四節気はわかる。
使っているカレンダーアプリは日本での月齢も分かるのだけれど、この世界とは一致しないようだ。
まあ、それはそうだろう。
なんとなく季節は似ているけれど、別の世界なのだ。
二十四節気によると十月八日・寒露。
月齢と同じで必ずしも当てはまるわけじゃ無いけれど、寒露は夜が長くなり、朝晩が冷え込み始める頃。
確かに涼しくなってきた。日が沈んだ後は火が無いと肌寒くすらある。
夕方に竹藪から帰る途中で転けて汚れた服をバケツで洗いながら、服装について考える。
今はTシャツにVUカットの薄手のパーカーを着て、下はジーパン。
今着ている分とは別に着替えはズボン以外持っている。まあそれで何とか洗いながら過ごせているんだけれど、これから寒くなってくるとどうしようかな。
非常袋にウニクロのスウェット上下と、いまむらの甚平が入っている。未使用。買ったときのまま袋入り。
ライトダウンはインナー用とアウター用があるけれど、ヒートシャツの無い冬は久しぶりだ。
不安。
あとそろそろ薄手のパーカー一枚では寒い。二枚重ねるか。
洗い替えがしにくくなるけれどしょうが無い。
まあインナーだけ替えてしのいでいくか。
ジーパンも一回しっかり洗いたいな。なんか臭い。気にしないように努めているけれど。
新月を見てロマンチックなことでも考えたいのに、着替えだとか洗濯だとか、考えることが所帯じみているなあ。
日もすっかり暮れて、夕飯もスープで済ませた。
昼のスープに、パジェ君が待ち時間に採取してくれていたキノコを追加しただけのスープも、弾力あるキノコとしっかり染み出した魚のうま味でなかなかの味だった。
暖かい物がうれしい。
ぼーと空を見ていたら、焚き火の明るさで眩んでいた目がだんだん慣れてきた。
薄らと天の川らしきものが見える。
冬でも見えるんだ……地球でも見えるのかな。帰ったら探してみよう。
いつ帰れるんだろう……
いかんいかん、動き回っていないと、どうしても余計なことを考えてしまう。
今は手を動かして、竹かご竹ざるを作っていこう。
売り物のような綺麗な物はとてもじゃないけれど作れないが、縦糸、横糸を編む容量で竹ひごを並べていく。
目当ての大きさまで編み込んだら、外枠で挟み込んで解した竹ひもで縛ってできあがり。
四角だっらり円形だったり。
見た目はイマイチだけれど使える程度には強度のあるザルが二つ出来た。
カゴは夏になるとプチ流行するナイロン網バッグを作る要領で作っていく。
これは近い物を作ったことがあるので、わりと簡単に作れる。
口を大きくして取っ手がなければ、鞄ではなくカゴだと言い張ります。
とはいえ、今回のはあまりにも鞄だな。
途中まで作って方向転換する。
流石に模様を作る余裕はないけれど、大きめのトートサイズと、小さめのハンドバッグサイズ。取っ手も付けて持ちやすいように。
いいんじゃないかな。キノコ採りなど出番は多いはず。今はエコバッグとかに入れているけれど、こっちの方が雰囲気が出る。
形がちょっと歪なのはご愛敬だ。
蔦というか
赤ずきんちゃんみたい。
まあ私じゃあ……近いのは、おばあさんの方かな。
童話や昔話のおじいさんおばあさんって、今よりずっと若いと思うんだよね。見た目は今より老けてるけれど。
短時間でいくつも細工物を作れるなんて、私の器用さ上がってきてるんじゃないの?
ふふんっと鼻を鳴らしながら時計を見ると、深夜零時をとっくに回っている。
器用さが上がったと言うよりも、単純に長時間作業していただけだったか。
パジェ君とスラちゃんはいつの間にかハンモックで揺られながら眠っている。起こさないようにブランケットを掛けておく。
いらないかもしれないけれど、気持ちでね。
ワラさんは半分土に埋まっていて、オニ君は定位置になった枝につるした風鈴に止まっている。こちらも寝ているのかな。
虫の声はかすかにするけれど、最初の頃より大分少なくなった。
意識を向けてみると風に葉が揺れる音が聞こえる。
森の寝息のようだ。
…………。
静かだなあ。
私も寝るか。
焚き火に大きめの薪を追加して、寝袋にくるまる。
火で温めた足から、当たり続けた身体の前面から、暖かい血が全身に巡っていく。
今日もよく眠れそうだ。
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