スキル『器用貧乏』の俺、付属スキルの『限界突破』で最強賢者に成り上がる。

沙月雨@「自殺アイドル」連載中

プロローグ 転生は赤ちゃんから



おぎゃあ、おぎゃあ―――――——。




そんな声で、俺はふっと目を覚ます。

アラサーのおっさんが住んでいる1Kの狭いマンションの一室に、だれが赤ちゃんなんてものを連れてきたんだ、と思った瞬間―――――不意に女性が視界いっぱいに入ってきた。



(…………えっと)



そしてその人は俺が幼少期から知っている幼馴染であり竹馬の友であり恋人―――――などではなく、全く見知らぬ人だった。

綺麗だなあ、というレベルではなく、こんな美女一度視界に入れただけで忘れられるわけがないがなと思うほどお目にかかれないレベルの美しさである。というかむしろ神々しい。


そんなことをぼんやりと考えていると、その女性と、そしてその隣にいる…………そして同じく整った顔をしたおそらく30歳ほどの男性が、口元を綻ばせる。

こっちもすごい美男子だなあと思った瞬間、女性がなぜか俺を見て目を細め、「ああ、愛しい私の子」と言って笑った。


私の子。私の子? え、いや俺のマイマザーはこんな傾国の美女ではありませんが? 時々パートを入れているけど基本的に主婦やってる、どこにでもいる普通のおばさんですが?

そして俺の親父もこんなキリっとした美青年じゃなくて、むしろなんなら頭髪禿かけてましたが???


そんな否定の意を込めて、俺は小さく口を開いた。



「だう」



だう。………………だう?


なんとも可愛らしい声である。誰やねん。

なんか声帯の動き的に俺が出したっぽいけど違うから。こんな美女の前でおぎゃるほど俺イカれてないから。


と思ったけれど、どうやら身動きが取れない。

ぐいぐいと体を捻ろうとした瞬間、破顔したその女性と男性により、俺はすっぽりと全身ごと抱きしめられた。



………………抱きしめ、られた?



「あなた、こんなに元気な子が生まれましたよ」

「ああ、エリサ。よかったな、よく頑張ったな。本当によかった………!」



なるほど、この傾国の美女はどうやらエリサというらしい。


そう言って涙を零す女性と男性に抱きすくめられた俺は、そんなことを考えながらも起こっていることが理解できずに立ち尽くす。というか立ててない。

ようやく状況を遅ればせながらも理解し始めた俺は、すぐに泣いてしまうこの体質で叫びだすのを何とか我慢していた。



「だ、だーい。だうだう。あーい」



言えない。喋れない。動けない。


震える体で自分の体を何とか見下ろした瞬間、小さな手が目に入る。

嘘だろ、と呟いたはずの言葉はやっぱり声にならずに「だいだい」と勝手に変換されて、俺は意識が遠のいた。



とりあえず成人男性がおぎゃらずに済んでよかったとか、これってやっぱり漫画でよく見るアレじゃねとか、俺の体ってどうなったのかなとか色々な思考が渦巻く中、俺は最後に思ったことを嚙み占める。





とりあえず、今回も男でよかった――——―—————――。





天明あまあけ渚沙なぎさ、29歳。


アラサーのおっさんが流石に女はキツイ、と思った俺は、とりあえず『イカレてる』部類に入らなければいいな、と思いながら、俺は意識を手放した。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――





あらすじの下記にもある通り、この作品は月一回の投稿となります。

次の投稿は2月23日の予定です。




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