女難の相と役立たず 1
昔から、女にだけは好かれて生きてきた。女は全員が俺の顔を褒めるし、俺も顔がいいのは自覚してる。ぽっと出の若手俳優よりも俺のほうがいいと思うくらいだ。
当然、いろんな女に言い寄られてきた。でも女を受け入れようが、拒絶しようが、結局ろくなことにならねえんだ。
俺の人生、女に好かれるばかりにめちゃくちゃだ。
「でも、その見た目を利用して生きてやろうって、息まいてるよね」
うっ。そりゃあ、まあ……。
「女は俺にかかればちょろいって思ってるでしょ」
だって、抱きたいときに抱かせてくれるし、お小遣いはもらえるし。今日も俺の顔がいいから、いいとこで飯食って服を買ってもらえたし。
「……そうだね」
どうせ俺のこと最低だとでも思ってんだろ。なんとでも言えよ。
でも、いいことばかりじゃねえんだ。女と関係を持つと、必ず、あとでなにかが起こる。実は二股されてましたとか美人局でしたとか。それはまだかわいいほうだ。
フィジカルも、メンタルも、文字どおりぐちゃぐちゃにされんだよ。
軽いほうで言えば、そうだな……。先輩の女に手を出したとかで、殴られついでに階段から突き落とされる、とかだな。ただ女が俺のこと好きってだけで、なんの関係もなかったんだけどさ。
そういうの、結構多いんだ。友達に彼女を紹介されたら
「男ばかりの環境でも、だめだったんだね」
……ああ。
高校は男子校だったから大丈夫だと思ってた。でも保健室の先生が運悪く若い女でさ。好かれちまったばかりに、俺の高校生活は地獄だった。
入学して一か月もしないうちに、そいつ、メンヘラになって俺のストーカーになりやがったんだ。
下駄箱に手作りの菓子、スマホには無言電話、俺の体操服はすぐになくなる。
担任にも警察にも相談するぐらいだったのに、誰も助けてくれなかった。耐えて耐えて、ずっと我慢してたけど、ついに限界が来て、本人に向かってはっきり無理だって言ってやったんだ。
そしたらそいつ、何したと思う? クラスメイトがいる教室で、俺の目の前で、リストカット。救急車も呼ぶ大ごとになった。その事件のあと、そいつすぐに辞めてた。
責任が俺にもあるってんで教師陣には詰められたし、同級生には総スカンだったわ。俺はそいつを口説いたことなんて一回もないし、保健室すら避けてたぐらいなのに。
それだけじゃねえ。文化祭とか体育祭とか、外部の人間の出入りが激しいイベントってあるだろ?
見境なしに女を口説くからって、俺は参加させてもらえない。担任にも嫌われて、ろくに内申点ももらえなかった。テストでいい点数とっても、それでパアだ。
仕事は何個も辞めるハメになった。コンビニのバイトもアパレルのバイトも事務作業も肉体労働もなんだってやったさ。それも全部女絡みで辞めさせられる。
接客してたら女は全員俺のとこに並ぶし、変なストーカーが職場の近くに潜んでる。結局俺は、社員の男どもに迷惑がられてクビだ。
女がいる職場なんて論外。女が絶対俺に
うぬぼれて言ってんじゃなくて、ガチでそうなんだよ。しかもなぜか俺が口説いたってことになって辞めさせられるわけ。
女のせいで、同じ場所にとどまることができないんだ。
「芸能界も、ダメだった。何度もスカウトされて、今でも声をかけられるのに。……主に女性からだけど」
……ああ。もちろん。そういった世界に、足を踏み入れたこともある。
でも、マネージャーが女で、仕事にならなくて……。男に変えてもらえばなにもしてもらえない。
「ああ……。ご愁傷様」
本気になった女と付き合えばもっとひどい。向こうが病むのはあたりまえ。いざ付き合うと束縛を通り過ぎて殺されそうになるんだ。包丁向けられたり縛られて監禁されたりな。
付き合う前に見抜けないのかって思うだろ? 違うんだよ。どんな女でもそうなるんだ。たとえどんなにしっかりしてて、自立してて、趣味や仕事を生きがいにする女であっても!
いや、好きな女のことだからこっちもがんばるさ。決して放置して浮気したり、記念日忘れたり、体調が悪いときにないがしろにしてたわけじゃない! 大事にしてきたつもりで……。
がんばったけど、無理だったんだよ。さすがに命まではやれねえ。結局、逃げる形で別れるしかないんだ。
「うん。わかってるよ。……きみは自由奔放なタイプだけど。ちゃんと責任はとるような人だから」
……最後に本気になった相手は、一番ひどかった。既婚者だったんだ。俺は知らなかった。
そいつ、俺と付き合ってたことが旦那にばれたとき、なんて言ったと思う? 俺が付きまとって脅してくる、なんて言ってんだぜ。
俺はただ、急に連絡がとれなくなって心配だっただけだ。そりゃ返事がないんだから、連続でメッセージ送るだろ、普通。
……それが付きまとってる証拠に使われたんだ。弁護士雇われて慰謝料はらえって、脅されたよ。
「反抗、しなかったんだ? 自分が悪くないことを証明することだって、できたのに」
確かに、向こうから言い寄ってきた証拠は持ってた。けど、もう、頭が回んなくてさ。こっちが弁護士雇って争う気力は残ってなかった。金払って、とっとと縁を、切りたかった。
「だからきみは、運命に抗うことを諦めたんだね。これ以上、苦しい思いをしなくて済むように」
女の好意からは、物理的に逃げるのが一番だ。好かれるのも好きになるのも、もうこりごりだ。
もらえるもんだけもらって、どこか遠くに逃げればいい。女が追っかけてこない限り、そのまま縁が切れるから。
「でもそれじゃあまりにも寂しい。それに、疲弊していくだけ」
そんなことは、ねえよ。この状態に、もう慣れてしまった。
だからこそホストは、天職だと思ったんだ。女にモテればモテるだけ、金を払わせれば払わせるだけいい仕事だから。稼げればなんだっていい世界だし、トラブルはどのホストにもつきものだからな。
でも、結局、他のホストの客寝取っちゃって、ボコボコにされちまった。わざとじゃ、なかったんだけどな。
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