――――Fランク――――

story1 子羊



ここはセントラル・マーリン校。

中欧諸国の南西に位置するセントラルの、草食動物も肉食動物も在学する共学校のひとつである。


そこに在学しているのが私〝ラム・エヴァリス〟である。

………そしてこの学園の最低ランク者である。


まあ最低ランクなのも、なんと理不尽だけど訳が分かることだ。


まず遺伝子が弱いことが一番の苦痛だ。


名の通り、遺伝子が草食動物の羊である私が、ヒョウなどのどう猛な肉食獣に敵うなど、前代未聞だし。

性格は誰だって濃厚でお人好し。


努力したって、私に何かできることがあるのだろうか。

だいたい、祖先で戦闘系の職業を選択した者は、この数百年、誰一人いないと聞いている。


なぜこんな共学校に入学してしまったのか………。

昔の私は飛んだ馬鹿だなぁ。


そう、ため息を吐く。


「エヴァリス‼何をぼーっとしている‼それだからいつも万年Dランクなのだぞ!」


ギクッ


後ろから教師の野太い声がして、思わず息をのむ。

一緒に、肉食獣たちの笑い声も聞こえた。


そう。今は、自身の遺伝子に適性する〝特殊能力〟を上げる能力学の授業中。


遺伝子とは、正式に言えば人間と動物の遺伝子が交わった遺伝子を指している。

絶滅寸前の人間が、自身を実験台にして、動物と人間の遺伝子を合致させたことで、私達〝アニマルパーソン〟という一種が生まれた。


そして人間達は遺伝子を合致させたことで、一部の民は生涯を続けることができた。


けれど残念ながらその結果、数少ない人類がアニマルパーソンに生まれ変わり、〝人間〟という種は絶滅してしまった。


そして、人間の知恵を貰ったアニマルパーソンは、以前の人類のように、自分たちの住処を発展させ、今は以前の人間と変わらないように暮らしている。


「すみいません………」


「声もちっちぇーな!なにもかもチビじゃん‼」


ガハハハ


その言葉と共に、馬鹿にするような、悪魔の高笑いが聞こえた。

そして私をからかう彼らからは、黒い煙が渦を巻くようにただよっていた。


これは私の特殊能力。

だけど、遺伝子特有の能力ではない。


なぜなら、同じ分類でも違う能力を持つことは普通にありうるが、この能力を所持していたアニマルパーソンは誰一人いない。


新種の能力だとしても、新しい能力は、元から存在した能力から派生して誕生する。

以前の羊のアニマルパーソンで、このような能力を所持していたものはいなかった。


この黒渦は結構なやっかい者だ。

煙を吸えば数十秒くらいむせ続けるし、ひどい時は前が見えなくなるほど黒渦がただようから、何もないところでこけたりする。


私が〝最弱〟と言われるようになったのも、黒渦が関係している。

本当に、まいった特殊能力だよ………。


そして二度目のため息をはく。

流石にこれ以上ぼーっとしてると成績が危ういから、真面目にやるとしますか……。



数年後、こんな事態に巻き込まれるとは、全く思いもしなかった――――…。














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る