小話:捻矢印・壱
休み時間でざわめく教室。
雑多な生徒を掻き分けて、藤村キラリは
彼女がご執心の相手は一人の少女。愛くるしい見た目と立ち振る舞いに、眠っていた
間宮留見。
控えめで大人しく、時折いじらしさも垣間見せる。キラリの好みにど真ん中ストレートだった。思い切り抱きしめて可愛がりたい。朝から晩まで愛を語り続けたい。
などと、気持ち悪い欲望がノンストップだ。手を出す勇気もないくせに、脳内では一糸纏わぬ留見をこねくり回すばかり。ある意味平和的ではある。非生産的な妄想で
自分が
集団生活に
演じたのはミステリアスなキャラクター。占いをはじめとしたオカルトごとに手を出して、それをアイデンティティとして構築していった。
無論、
一方で、キラリのキャラクターに興味を持つ者もそれなりにいた。特に大人しい性格の女子からの受けは上々。崇高なる力に導かれし孤高の乙女。それが取り巻きの抱いていた偶像だった。
閉じた集団の中で深まる友情、親愛、そして……。
気付けばキラリの中で百合が芽生えていた。
元々素質があったのかもしれない。
環境が最後の引き金を引いただけなのかもしれない。
どちらにせよ、中二病がきっかけで同性愛に目覚めてしまった。
とは言ったものの、コミュニケーション能力に難ありの小学生女子だ。一線を越える失態はなく。それどころか、自身の愛を告白することもできず。
そうこうしている内に、嘘から出た
梅組という最底辺への編入は心外だった。思春期特有の全能感を、真っ向から全力で否定されたのだ。怒りと悔しさがない交ぜになって狂いそうだった。
絶対いつか見返してやる。
そう心に誓うも、〈怪異能力〉に
そんな殺伐とした中で出会ったのが間宮留見だった。
三つも年上の先輩相手に一目惚れしてしまった。大した能力もないくせに、守ってあげたい愛してあげたい、と劣情混じりの願望が湧き出してしまう。
ホント、何もできないくせに、ね。
好きな相手がいじめられていたのに。キラリは手を差し伸べられず、指を
得意の強者演技で追い払うことすらできない
怖かったのだ。
集団に馴染めぬ生来の性格と、無法地帯に等しい〈鉄檻〉の環境。
キラリは敵前のヤドカリのように委縮し、口だけ達者な中二病患者になっていた。
その意味では、巴坂魅命の登場はターニングポイント。全てがひっくり返った大転換点だった。
留見を魔の手から救い出し、元来の明るさを取り戻してみせた。自分には到底できぬことを、さも当然のようにあっさりやり遂げてしまったのだ。
だが、それ故に腹立たしい。
私の留見さんを独り占めするなんて、許さないんだから。
あの一件があってから、事あるごとに留見と魅命が一緒にいる。羨ましい妬ましい。私が先に好きだったのに、と。
だからこそ、魅命との既成事実を作りたかった。
もちろん、彼に見抜かれた通り、最強を名実共にするのも目的だった。が、一番は留見と引き離すこと。自分と恋仲という噂が立てば、魅命の行動を縛り大幅に制限できる。間違っても留見と仲良くなろう、なんて二股疑惑を誘発させる選択はしないだろう。浮気者の
結局のところ、大失敗だったのだが。
どうしたら、私の恋は実るのよ。
愛しの留見が、憎き魅命と楽し気に笑っている。視界に入るだけで無性にイライラしてくる。我慢ならない。
感情に任せて、彼の背中へ跳び蹴りを食らわせる。だが、その肉体は鋼のように頑強だ。逆にこちらの足にダメージが反射してくる。
「~~~~~っ!」
滅茶苦茶痛い。じーんと
だが、ここで悲鳴を上げては格好悪い。強者のイメージが丸潰れだ。涙目で歯を食いしばり我慢する。
「急に何のつもりだ」
「き、決まっておろう。我からの宣戦布告だ。学園最強の座をかけて決闘を申し込んでいる。いざ尋常に勝負といこうじゃないか」
「いや、普通に断るが」
「な、なななっ。なんとぞんざいな返答、我を
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