第7話
「オイオイオイオイ。これじゃあにっちもさっちもいかねーじゃねーか。授業クラッシャーかコラ」
溜息をついたミスターTは、心底面倒くさそうに悪態をつく。
「お前みてーな規格外の生徒は、学園の歴史上初めてだよ。まったく、やりづらいったらありゃしねーな」
発足から一桁年数なのに、さも伝統があるような言い方をされても。
それに、規格外と評価されたところで何の価値もない。強大でいつ暴れ出すとも知れない怪異を抱え、しかもそれを〈怪異能力〉として昇華できない〈怪異持ち〉。ポンコツもいいところだ。
「はいはい、二時間目は終わり終わりー。あとは自習ってことでよろしくー」
大してなかったやる気も完全に失せたらしい。ミスターTは瓶詰の怪異を回収すると、さっさと教室からおさらばだ。もちろん、寺骨に殴られながらである。せめて座学に変更しよう……なんてつもりはないようだ。だからちゃんと仕事しろ。
※
「あの、よければ学校の案内をします」
昼休憩の時間、いじめられっ子がやってきた。恥ずかしいのか緊張しているのか、
「ええと、君は」
「ま、
いじめられっ子――間宮はぺこりと小さく頭を下げる。ふわりと持ち上がるボブカットが可愛らしい。まるで小動物だ。
「それと、ごめんなさい」
「どうして謝罪を?」
「だって、巴坂君に迷惑をかけたから……」
そういう意味か。
彼女からすれば、自身の問題に巻き込んで手を
「別に気にする必要はない」
「き、気にしますよっ。だって、あたしがちゃんとしていたら、巴坂君が〈怪異能力〉を使わなくてよかったはずだし。……なので、せめてお礼に、学校の案内をしようかなって。あたしにできることって、それくらいだから」
「……そうか。なら頼む」
それに、〈鉄檻〉について右も左も分からないのもまた事実。昼休みの暇つぶしがてら歩き回るのも悪くない。
「じゃ、じゃあ行きますよ。ついてきてくださいっ」
ふんすと鼻息を鳴らすと、間宮はぎこちない動きで先導役をする。彼女にとっても慣れないことなのだろう。若干無理をしている印象は否めない。
学生食堂までの道中、間宮は時折立ち止まり設備を紹介してくれる。
「ここが図書室です。怪異の研究に関する書籍とか論文がいっぱいあって……あ、でも普通の本もありますよ。小説とかレシピ本とか。あたしもよく利用しています。それに、静かな場所だから、よくここで勉強しますね。なんて、成績の悪いあたしが言うのもおかしいかな……あはは」
引き戸を開けてそっと覗いてみると、圧倒的な蔵書量に圧倒されてしまう。表に出ているだけでも相当数ある。
(といっても、ここの蔵書だって完璧じゃない。怪異の全てを網羅しようなんて、土台無理な話だ)
それでも、怪異の最前線だけあるだろう。
今後の研究次第では、資料は何倍何十倍にも膨れ上がる。〈怪異持ち〉と〈怪異能力〉関連となれば尚更。新たな概念で未知ばかりの分野であり、俺達を観察しているだけでも新情報が舞い込んでくる。ある意味、〈鉄檻〉は巨大な実験場で、生徒は人の形をしたモルモットなのかもしれない。
「こっちはスーパーマーケット。食材と日用品はここで買うの。お昼ご飯は学食で済ませる人が多いけど、朝と晩は自炊が基本だからね。一応、お惣菜とかカップ麺も売っているけど」
「支払いはどうしているんだ?」
「学生用のポイントだよ。あれ、先生から聞いてない?」
「あぁ……確かに言っていたような」
教室に行く道すがら、寺骨から手渡されたスマートフォンがあった。ミスターT曰く、学園で暮らすのに必需品とのこと。つまり、連絡手段であり情報源でもあり、そして財布代わりにもなるということか。
ポケットから黒く無個性なデバイスを取り出す。間宮も同じ物を使用しているが、吊り下がるアクセサリーが相違点だ。紛失時に困らないよう、自分の物と示す印をつけたのか。それとも、ただ可愛いからとデコレーションしただけか。ウサギモチーフのマスコットがゆらゆら揺れている。
「レジでスマホを
「そうなのか」
羽目を外して豪勢に使えば痛い目を見る。よくある話だ。質素倹約を心掛けていれば心配ないだろうに。
俺の場合、今まで通りの生活をすれば良い。
「それで、ここが食堂。あたし達は大抵ここでお昼ごはんを食べているの」
訪れたのは二十五メートル四方程度の空間。特段目立つようなところのない、よくある学生食堂といった風情だ。
ホワイトボードの立て看板には、本日のメニューが走り書きで記されている。豚の
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