わたくし魔王ですが酔狂で育てた人間の王女が齢17を迎えるので、 そろそろ絶望のサプライズで嬲り殺したい所存でございます
はせまん
序章
第1話 プロローグ
燃えるような茜色の空。
城の跳ね橋に一人の男が立っている。
男の周りは無数の肉片、鎧の欠片で埋め尽くされており、その中に人の原型を留めているものはいない。橋の下に落ちた血は水堀を赤く濁らせ夕日の光で赤がより深みを増して見えた。
血の匂いを嗅ぎつけた猛禽は空を旋回し男が跳ね橋から居なくなるのを待っている。岸の向こうでは我慢できずに肉を貪り食う群れが躍っていた。
帝国軍は早朝に小国ローランドの侵攻を始め、午前中には城を陥落させられると高を括っていたが、城主一人に百数十人の帝国兵が殺されたので、一旦城の正面から離れ陣を張り直し、次の作戦について天幕で話し合いがされていた。
その様子を東の魔王ファザリスは遠方から一部始終見ていて、「何もかもがでたらめだ」とつぶやいた。
魔王ファザリスは城の主ロラン王と知己であり、使い魔から帝国の大軍がローランドに進軍しているとの報告を受け魔王城から飛んできた。何故帝国は以前は歯牙にもかけなかった小国を急に侵攻したのか分からない。魔王は人間同士の争いは不干渉と決めていて、傍観者としてロランの城が落ちるのを見届けるつもりだった。
だが戦いは意外な展開になっている。
思えば帝国兵が侵攻してきた時、領民の様子も変だった。
戦争が始まったにも関わらず領民は危機感もなく普段通りの生活をしていた。笑顔で話し合う領民さえいたので帝国兵が脅しつけると、子供の様にあわてて家の中に引っ込んだ。
帝国軍が城を包囲した時、兵士とロラン王は城から打って出たが、ロランの兵はただ闇雲に帝国軍に突っ込んで行くだけで剣を構えてない者もいた。次々と射られ、斬り殺されていく。それを見た後続の兵は散り散りに逃げて行き、疲れて休んでいるところを帝国兵に殺された。
ロラン王も最初は一人の帝国騎士と互角に戦っていたが、側面にいた弓兵に何発か射られてからは動きが鈍くなり籠城しようと後退していた。ロラン王は跳ね橋を上げるように胸壁の兵士に合図したが、兵士は跳ね橋の上げ方が分からず逃げた。仕方なく跳ね橋の中ほどまで戻り敵を迎え撃つことに決めたロラン王。対岸から弓兵が一斉射撃をする。何発か鎧の隙間に命中し片膝をつく。雑兵の一人が手柄をあげようと素早くロランに斬りかかるとロランが一瞬光った様に見えた。雑兵は斬られ真っ二つに裂けていた。
そこから異様な戦いになっていった。
ロランが剣を振るうと盾も鎧も砕け、雑兵も騎士もロランに近づく者は皆千切れ飛んでいく。人間の強さも防具も意味がないと嘲笑うかのような圧倒的な力で敵兵を殺していった。剣圧の衝撃が強く大きくなり、切先より遥か先にあるロランの間合いに入るものは一振りで十数人爆散していくようになる。一方的に味方が虐殺されていると気づいた帝国の将軍は慌てて兵を引き上げさせた。
肉片の山となった跳ね橋で、ロランは兜と鎧を脱いで一息入れた。
「魔王、魔王よ見ているのだろう」
遠くにいた魔王は空中に浮遊し一瞬でロランの元に着地した。
「気づいていたのか?」
「そうでなくては困るのだ魔王よ」
「あの木偶人形はなんだ」
「急ごしらえだったからな」
「もう私はこれまでだ魔王」
「一体何の冗談だ?信じられんことだがお前の方が帝国を圧倒しているではないか」
「魔王よお前に最後の頼みがある」
「最後?」
「私には娘がいる。城の寝室で寝ている赤子がそうだ」
「私の代わりに娘を育ててくれないか?」
「魔王が人間の子を育てるだと、気でも狂ったか?」
「人間の村にでも逃がせばいい。運が良ければ素性を隠して暮らすこともできるだろう」
「逃がすつもりならもうやってる。私はお前に育ててもらいたいのだ魔王、帝国の兵士が娘を見つける前に連れて行ってくれ」
「ロラン何を言っている、お前は本当に頭が大丈夫なのか?」
「娘は私が創った最高傑作だ。言ってる意味がわかるか?」
魔王は不快な顔をして
「またいつものやつか。親は誰でも自分の子は特別だと思っている。それともあの領民のように良くできた人形だといいたいのか?最高ランクの肉だということなら赤子は魔界に連れて行きゴブリンの餌にしよう。あいつ等は柔らかいものを引き裂くのが大好きだからな」
「お前はそんなことはしない。お前だけが頼りなのだ。お前の愛を受け入れるまででいいから娘を育ててくれ」
「愛を受け入れる?」ロランを見た魔王は呆気にとられた顔をしていたが
「お前のイカれっぷりには毎度笑わせてもらっているが今回は極め付きだな。わかったロランよ、まあいいだろうお前の最後の願いだからな。お前の娘を人間が姫を扱うように大事に育ててやるとしよう。そして、魔族の恐ろしさを教えてやる。娘は絶望して発狂して魔族共に嬲り殺されるだろう。魔王の愛、これで満足かな?」
「お前はそんな事はしないだろう」
「果たしてそうかなロラン」
もう一度ロランの方を見ると、壮年の王は白髪の老人になっていた。
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