エルフ
「ふんっ! いきなりアポなしでやって来るとはいい度胸だ! 長生きはしても常識を持てる頭はないようだね!」
色々と『幼き英雄』として活動してきたハルカとしても、エルフという種族と出会うのは初めてだ。
特徴的な長い耳。
妖精と比喩されるほど、人間離れした端麗すぎる容姿。
少数種族が故に、滅多に見かけることのない種族。
「ふぅーん……あなたが、ハルカくんなのね」
公爵家の待合室。
そこに艶やかなな長い金色の髪を携えた女性が、一人ソファーに座っている。
神が生み出したのだと錯覚するほどの綺麗な顔立ちに、宝石のように透き通ったエメラルドの瞳。加えて、エルフ特有の尖った耳が異様に目を惹いてしまう。
一応、この人が世界的な商会のトップに座る女性らしい。
しかし、当初の目的通りクズムーブを忘れないハルカくん。
しっかりと入室直後に胸を張って罵倒を浴びせたのだが───
「うん、聞いてた通りちっちゃくて可愛いわね!」
「なんだろう……第一声が無視された挙句の子供扱いにテンションが一気にだだ下がり……」
「そんなことはありませんよ、坊ちゃん。私も彼女の意見はごもっともだと思っております」
「ダメだ! この空間は僕にとってアウェーでしかないっ!」
子供扱いかマスコット枠か。
いずれにせよ、思春期男子があまり言われたくない言葉が第一声に飛び出し、ハルカはさめざめと泣き始めた。
「あら? 悪口を言ったわけではないし、別にいいんじゃないの?」
「エルフって長生きなんだよね? 男の子の沽券的にはかなり問題な発言だってどっかのタイミングで誰かから教わらなかったの!?」
「生憎と、恋愛無関心だったから男の子の扱いは絵本の中でしか知らないのよねぇ」
ハルカの反応が楽しいのか、エルフの女性はおかしそうに笑う。
「そういえば挨拶がまだだったわね───レイラよ、家名前はないわ」
「……ハルカ・アスラーンです」
差し出された手をそっと握るハルカ。
初めて目にするエルフという種族……というより、絶世の美女の手に触れても喜ぶ気配がないのはクズムーブの出鼻をくじかれたからか、それとも単純な子供扱いに不貞腐れているのか。
とりあえず、後ろで控えていたクロエはハルカの様子にニマニマと笑いを堪えていた。
「……で? 忙しい僕に突然なアポなし訪問許可なし子供扱いをしてきた美人さんは一体僕に何の用?」
「ふふっ、拗ねないでちょうだい。そんな冷たい態度を取られちゃうと、お姉さん悲しくなってくるわ」
「フッ……僕は元からこういう性格だからね。冷たい態度&罵詈雑言なんて当たり前なんだよ」
なんなら、今すぐもう一回罵倒してみせるけどいい?
などと胸を張ってドヤ顔を見せるハルカ。
その様子を見て───
「って言ってるけど?」
「そういうことにしておいてください」
事前申告な罵倒も珍しい。
それが余計に珍しいのか、レイラの楽しそうな笑みは深まるばかりだ。
「今回は近くに用事があったから寄ったの。本当は仰る通り、ちゃんとアポを取って来るべきだったんだけど」
「その寄った理由を聞きたいんだけど」
「ふふっ、分かってるクセに♪」
「分かってる?」
「……あら?」
イマイチ、ピンときていないハルカは首を傾げる。
その姿を見てレイラも首を傾げるものの、すぐに納得したのか……クロエに向かって手をこまねき、近くに寄らせる。
そして、そっと耳に口を近づけ───
「(あー……もしかして、これって例の『幼き英雄』の暗黙のルールだったりする?)」
「(話が早くて助かります)」
「(……やっぱり、ね。じゃあ、こっちは無理か)」
クロエの言葉に、レイラは苦笑いを見せる。
そのことに少し首を傾げるクロエだったが、そのまま言葉を続けた。
「(ですが、よくご存知ですね? ここら辺で暮らしたことなどないでしょう?)」
「(そこはほら、今を生きる商人だもの。事前に色々と調べてきたわ)」
「(なるほど)」
ハルカは自分が『幼き英雄』だと知られていることに気づいていない。
クロエの予想通り、今日は自身の部下であるモモを助けたお礼をレイラはしに来た。
普通であれば、直近の出来事を紐付ければ安易に予想はできるのだが、関連していることを知らなければ首を傾げられるのも頷ける。
「(ですが、いち部下のためにわざわざ多忙の中会いに来られるなど……もしかして、モモ様はレイラ様のお気に入りなのでしょうか?)」
「(まぁ、私自ら引っ張ってきた大事な側近だもの。未熟ではあるけれど、可愛いのには変わりないし)」
「(随分とマスコット枠が大好きな上司さんですね)」
「(ふふっ、ありがと。まぁ、要件はそれだけじゃないのだけれど)」
会話が終わったのか、クロエは頭を下げてハルカの下へ戻っていく。
すると、会話内容が一切聞き取れなかったハルカは変わるように耳元に口を近づけて───
「(ねぇ、なんの話してたの?)」
「(坊ちゃんは知らなくていいことですよ)」
「(僕の話なのに!?)」
当事者がガッツリ蚊帳の外。
そのことに、ハルカは驚きを隠し切れなかった。
「っていうわけなのだけれど」
「っていうわけが一切分からないんだけど!」
「そういう意味合いも込めて、これを渡すためにここに来たの」
何一つとして分からないまま、レイラは懐から一通の手紙を取り出す。
そして、それをハルカに渡すと「開けてみて」と促した。
「初対面の人からわけも分からないまま渡される手紙……ある意味お化け屋敷とか肝試しに出てくる井戸の中より怖い」
「安心安全だと思いますよ」
「ねぇ、なんでさっきからクロエはそっち側なの? 同じ目的不明の同志じゃないの!?」
モモを助けてくれたことに対してのお礼をしに来て、そのプレゼントだろうと察しているクロエ。
モモを助けてくれたことに対してのお礼をされているとまったく察してないハルカ。
この両者が同志になれないのは当然である。
(ま、まぁ……開けないわけにもいかないか)
ハルカは二人の視線を浴びながら、恐る恐る封を開ける。
すると、そこには一通の招待状が入っており───
「えーっと……これって?」
「あら、知らない? 結構認知されていると思ったのだけれど」
レイラは首を傾げるハルカに向かって、見蕩れるような笑みを向けたのであった。
「カレッシア商会の提供する七泊八日の船上旅行……そこにあなた達を私の特別枠で招待するわ」
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