第36話 壁を抜けて……

 魔法歴二〇二五年 一二月七日 第七曜日


 チチチ

 チュチュチュ

 ローブの中に隠れていたハラヘリキンゾクネズミのシロちゃんとマロちゃんが前にしたように壁の方を見ている。

「トケイちゃん……」

 後ろを振り返るとあの時計目玉の時間トカゲ、トケイちゃんが壁をはっていた。

「トキコ、行くんだな……」

「うん……」

「カラテちゃん、刀剣くん必ず助けるから」

「いいなトキコ、まずオマエが死なない事だ、オマエが死ななきゃまたチャンスはある、余計な事は考えずまず自分の安全を考えんだぜ」

「うん、わかったタテキシくん」

「トキコ……」

 わたしは壁の中に入って行った。


 *


 ????年 ?月?日 ?曜日


「戻って来た」

 わたしは前にも来た、ずっと続く真っ白な通路の真ん中に立っていた。

 一歩歩くと、同じ真っ白な通路なのに、どこか別の場所に移動した感覚になる。

「コンパスは?」

 わたしはトウケンくんにもらった二つのコンパスついたペンダントの二つの針を見つめる。

 一つはぐるぐると周り続けもう一つは同じ方向を指している。

 ぐるぐるはトウケンくんので、方向を指してるのはカラテちゃんのだ。

「シロちゃんマロちゃん、お願い、どっちに行けばいい?」

 チチチ

 チュチュチュ

 ハラヘリキンゾクネズミのシロちゃんとマロちゃんがわたしの両肩でお互いの顔を見合わせる。

 チチチ、チチ?

 チュチュチュ、チュ?

 左肩の真っ白なハラヘリキンゾクネズミのシロちゃんがわたしのほっぺをペチペチする。

「左?」

 わたしは少し左を意識して通路を歩く。

「右に向いた」

(前とおんなじだ……)

 通路はまっすぐなのに、またコンパスが右を向く。

 チチチ、チ?

 チュチュチュ、チュチュ?

「今度は右ね」

 右肩の灰に麻呂眉のハラヘリキンゾクネズミのマロちゃんがほっぺをペチペチする。

 わたしはあの時のように右を意識してまっすぐな通路を歩く。

「カラテちゃんのコンパスが後ろを向いた」

 今度はコンパスが後ろをさす。

(やっぱり時計周りに回ってる……)

 チュチュチュ、チュチュ?

「また右ねマロちゃん」

 また右肩のマロちゃんがほっぺをペチペチ、私は右を意識してまっすぐな通路を一歩。

「コンパス左になった」

(大丈夫、うまく行ってるはず)

 チチチ、チチ、チチ?

 チュチュチュ、チュチュ、チュチュ?

「うん、後ろねシロちゃんマロちゃん」

 わたしは後ろを振り返り、今度は進んでた真っ白で真っ直ぐな通路を逆向きに歩く。

「あっ、トケイちゃん!」

 目の前に両目が時計の時間トカゲ、トケイちゃんがいた。

 コンパスはカラテちゃんのコンパスは正面を指している。

(ホントは目の前にカラテちゃんがいるんだ)

「おいで、トケイちゃん」

 わたしはしゃがみこみ、両手で床を右、左、右、左、と交互トントンし、トケイちゃんを呼んでみた。

 トケイちゃんがゆっくりわたしに近づく。

「また抱っこだね」

 わたしはトケイちゃんを持ち上げ胸に抱く。

 トケイちゃんが私のアゴを青っぽい舌でなめた。

 なんだか嬉しそう。


 *


 チチチ

 チュチュチュ

 わたしはシロちゃんとマロちゃんを見て二匹の視線が向かう正面の通路に目をやる。

「お困りですか?」

 わたしの鼻の先に緑の髪の女の子、ちっちゃいいトンボみたいな四枚羽のフェアリーがわたしをのぞきこんだ。

 あの時のフェアリーさんだ、よく見ると動がいっこいっこかわいい。


 *


「あっ、まただ」

 わたしはわたしの部屋のパソコンの前から白い通路に実際に立っていた。


 *


「なにかお困りですか?」

 フェアリーさんは少しはなれ、わたしの視線の前を飛んでいる。

「うん、フェアリーさん、わたしこの子と契約したいの!」

 わたしはトケイちゃんを持ってフェアリーさんに見せた。

「了解いたしました、そちらの管理者用世界制御かんりしゃようせかいせいぎょアプリケーション精霊、時間トカゲとの契約をお望みですね」

「うん!」

 わたしはハッキリ答えた。

「では管理者用世界制御アプリケーション精霊、時間トカゲの設定を済まし、行きたい時間を入力し、決定キーを押して下さい」

 フェアリーさんがトケイちゃんをわたしの正面へと導く、わたしはトケイちゃんを一度床に降ろした。

 トケイちゃんはすぐに中に浮き始め足をバタバタさせて不器用にわたしを見つめた。

(トケイちゃんかわいい!)


 名前を入力して決定キーを押して下さい。

[―ココにお好きな名前を登録してください―]

 戻る/決定

 ※名前はいつでも変更可能です。


 トケイちゃんの頭の上の空中にメッセージが浮かぶ。

「トケイ 決定」

 わたしは前につけたように時間トカゲにトケイちゃんと名付けた。

 トケイちゃんはペチリと床に二本足で立ち、片手を上げる。


 時間を入力して決定キーを押して下さい。

[〇〇〇〇年〇〇月〇〇日〇〇時〇〇分〇〇秒]

 戻る/決定

【注意】決定後は変更できません。


 トケイちゃんの頭の上にメッセージが表示される。

 わたしは心臓のドキドキがすごく鳴っていると気づく。

 フェアリーさんを見るとニコって笑った。

 わたしは時間を入力して、決定キーを押した。

 今度は間違えない!

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